Episode83 アリア・フリー
案内された先は別棟の修練施設だった。
修練棟と呼ばれているらしい。
そこに辿り着くまで廊下や渡り廊下を歩き、いろんな棟を見てきた。建物の数自体は多いが、全体で見てみると単純な構造をしていてすぐに把握できそうだった。
修練棟は別棟を丸々使っている。
ストライド家にあった木造の"道場"とはまた違って、石造りで出来た頑丈な建物だ。
天井も高くて、壁からは何ヶ所か足場みたいなものが突起してる。
……何に使うんだろ。しかも老朽化してるのか、ところどころ深い傷がついてるし、足場も欠けてる。改築工事でも入らないと倒壊でもしそうだ。
俺がその広間を眺めまわしていると、リンジーが壁の黒い焦げ跡に気づいて駆け寄った。
「あー、懐かしい。これ、アルフィが魔法操作に失敗した時のやつだ」
黒い焦げ跡はかなり広い範囲に渡って付いている。リンジーはそのあとを手のひらで撫でた。
「違う違う、それはリンジーがやらかした時の焦げ跡だよ」
「えっ? 私だったっけ」
「……フレッドもおとぼけな奥さんを持って苦労してそうだなぁ」
「ドウェイン、それどういう意味?」
「ははは、なんでもないよ」
2人は懐かしそうに思い出話に花を咲かせている。話を傍聴してると、あらためてリベルタの5人がここで育ったんだということをしみじみと感じる。
「ドウェインはここの生徒だった時の事は覚えてるの?」
「うーん? うん、まぁ……気を悪くしたら申し訳ないけど、さっきも言った通り"キミがリベルタにいた記憶"だけがどうしても思い出せないんだ。魔法学校やアジトにいるうちに、他のことはだんだん思い出してきたんだけどねぇ……」
俺のことだけが思い出せない?
なんだか意図的だな……。
まぁいいか。
俺とも接してるうちに思い出してくれるかもしれないし、思い出せなくてもこれからまた仲良くなれればいいだけの話だ。
疎外感を感じるのは事実だけど。
俺にも同窓生とかがいれば、こうして母校に戻るたびに思い出話をして楽しめたんだろうけど、いかんせん、俺はもう御年15を超えてしまった。冬を迎えれば16になるか。
魔法学校に通うような年齢じゃない。
そもそも一般的な魔法なんて使えないし。
強いて言うなら、大迷宮が母校で同窓生はシア、ユースティン、アルバさん、タウラスってところか。
―――尤も、その"母校"も崩落してもう無い。
もしかして俺ってこのまま冒険者として生きていくしか道がないのかも。
仕事探すとか言ったけど大丈夫なんだろうか。
一応、オルドリッジ書庫の恩恵で字の読み書きはできるが、算学とかそういうのは学ぶ機会がなかったから全然出来ない。しかも魔法も使えない。
そう考えると、隣で新しい環境に爛々と目を輝かせるリナリーが羨ましくなってきた。
この子はこれから学び舎で、同級生たちと仲良く切磋琢磨して魔法の腕前を磨き、そしてその優れた炎魔法の力で良い人生を歩むに違いない。
炎魔法が得意というのは利便性が高い。
火は生活の至るところで必要だし、軍事に生活職、どんな生き方だって選べるだろう。
魔法至上主義の社会……自分の将来を考え直すとそれを痛感するのだった。これからこの学校に入学する子どもたちも、明るい未来に夢膨らませてこの魔法学校に入学してくるんだろう。
あぁ、魔法……また、"魔法"か。
こんなものがない世界だったらどれだけ良かっただろうか。
あれ? そういえばリナリー以外の入学生がいない気がする。
しかもこの棟、明らかにガイダンス向きじゃない。椅子もないから座れもしないし、ガイダンスって学校のルールとかカリキュラムの説明があるようなイメージだったんだけどそうじゃないのか?
「ところでドウェイン、入学生はたくさんいるの?」
「いや? 今年は8人くらいかなぁ」
「え……8人……?」
少ない。
こんな広いところで集まるなら最低でも50人くらいが同時に入学してくるもんかと思っていたんだけど。俺がその答えを聞いてから周囲を見渡しているのを見て、ドウェインは察したようである。
「あ、いや、ここではちょっと別の事をやる予定でね。リナリーちゃんは特別に実践での魔力測定をする」
「実践での魔力測定?」
「そう。単純な魔力測定ならマナグラムを使えば数値化できるんだけどね。この子の場合は―――」
ドウェインが鋭い視線を投げかけたのに反応して、リナリーはおどけたように体を震わせてリンジーの脚にしがみ付いた。ドウェインの事が苦手なんだろうか。
「リナリーの場合は……なんだって?」
「それがねぇ……」
「ジャック、これがリニィのマナグラムなんだけど……」
リニィとはリナリーの愛称らしい。
リンジーは真新しい光沢を放つマナグラムを俺に差し出してきた。新品で買って測ったっきりなのか、まだ使い古されてないマナグラムが綺麗にその能力値を表示していた。そういえばリナリーが腕にマナグラムを装着してるところを見たことがない。
こんな将来有望な子は5歳のときから一体どんな測定結果が出るんだろう。優れたステータスが表示されてるに違いない。俺は嫉妬の情に駆られながらもその数値を覗きこんだ。
いまだに魔力0の俺にも少しは分けてほしいものである。
================
種族:人間 年齢:5歳5ヶ月
生命:18/18
魔力:24/24
筋力 G
敏捷 F
<能力>
拳闘 G
魔 炎 F
魔力放出 E
================
……やたらと低い気がする。
5歳児だから?
いや、だとしたらあの炎魔法はどうやって作りだしている。
「ジャックくん、どう思う?」
「どう思うって……基準は分からないけど思ってたより低いかなー」
俺の率直な感想にリナリーは、あっかんべーしている。「パンツァーお兄ちゃんに言われたくないもん」という暴言も添えて。あどけない緑色の瞳が俺を睨んでいた。不機嫌そうだ。
「うん、その感想は正しい。この結果は同世代の並……いや、並以下の数値だ。でもこの子の実際の魔法は実測のものよりも凄まじい火力と変容性を持ってる」
「……マナグラムが不良品だったんじゃないのか?」
「これ3台目だけど、どれも同じ結果が出ているよ」
さすが学者。
その辺の検証は抜かりないというわけか。
「でもジャックくんの推理は概ね外れてはいないかもしれないねぇ。というより僕も父も"その線"で考えている」
「その線で? 3台も試して3台とも不良品だったって?」
「そうじゃない。そもそも僕ら魔術師はマナグラムを基準に能力を見ているわけだけど、それが間違いだったんじゃないかと思うんだ」
ドウェインはマナグラムをリンジーに返してから垂れ下がってきていた袖を再びまくり上げた。
「リナリーちゃんだけじゃない。ここの生徒たちの中でも、極僅かの子にマナグラムの故障かと思うほど測定値とかけ離れたような魔法を使う子もいる。もしかしてマナグラムという"レンズ"自体が正しくないんじゃないかなってね」
今ではマナグラムは生活の基盤だ。測定されて出てきた結果で自分の人生を決める人だっているだろう。冒険者ギルド内ではこの数値次第でパーティーに入れるか入れないか選別してるパーティーだっている。
それが間違いだった?
さすがに無いだろう。
俺が怪訝に思っていたところ、ドウェインは得意げにこう言い出した。
「ジャックくん、キミももしかしたらそうだ」
「俺も?」
「キミは魔力が0だとマナグラムに表示されるそうだけど?」
ドウェインは俺の左腕のマナグラムに一瞥くれた。俺の現在の能力値は迷宮都市にいる頃からそれほど変わっていない。
================
種族:人間(魔) 年齢:15歳11ヶ月
生命:4811/4811
魔力: 0/0
筋力 B
敏捷 A
<能力>
直感 A
拳闘 A
剣術 B
魔力放出 S
心象抽出 S+
魔力纏着 S+
時間制御 A
隠密 F
自己修復 C
================
あまり気にしてないが細かい変化はあるかもしれない……。
隠密スキルなんて、修練してなさすぎてむしろランクが下がった。
前はEランクだったと思う。ユースティンと戯れるときにたまに忍び足で近づいて確かめたりするのだが、最近は膝かっくんに失敗し続けている。
「聞く話によるとキミは魔法を無力化するそうじゃないか。それも言ってしまえば、一つの魔法と考えていいんじゃないかな? だけど、そういった特殊な魔法は現行のマナグラムじゃカウントできていないようになっている。サンプルがないと測定機も作れないからね」
俺もリナリーも普通の人とは違った魔力を宿していて、それは珍しいからマナグラムでも測定できない、という事か。だとしたら、魔力が無いことを理由にオルドリッジから勘当された俺は何だというんだ。
勘違いで捨てられたってことじゃないか。
もしそうだったら、その勘違いを払拭できれば、実家へ戻るきっかけにもなるかもな。
俺とドウェインが問答しているところに、後からゆっくりと姿を現したおじさんがこの魔法学校の校長らしい。慌ててきた様子でもなく、やたらと扉の開け閉めも静かで、息も乱れていなかった。
「すまん、遅れてしまったな」
白いクロワッサンみたいな髪色をしたおじさんだが、言われてみればドウェインを老けさせたような人物だ。顔立ちが似ている。小皺も顔に出ていて、かなり歳も召してるみたいだ。
「リンジー、先日はわざわざバーウィッチまで出向かせてしまってすまなかったな。こうしてキミが娘を学校に連れてくる日が来るというのも不思議な気分だ。私にとっては孫娘のようなものになるわけか。私も老けたものだ」
「アルバーティ先生は昔っから眉間に皺ばっかりでしたよ」
リンジーは茶化すようにそう言い放つ。聞いた話だとアルバーティ先生とリンジーは後見人も兼ねた師弟関係らしいが、今のやりとりを見る限り、思っていたよりも率直な関係のようだ。
「自己紹介しよう。私がバーウィッチ魔法学校の校長のガウェイン・アルバーティだ。よろしく、リナリー。よろしく」
ガウェイン先生は、リナリーと俺の順に握手してそれぞれ挨拶した。リナリーはその大きくて乾いた手を恐る恐る握り、すぐ離してしまった。けっこう人見知りする性格なのか。あるいはガウェイン先生の威厳にびびっているんだろうか。
「ん……キミは………?」
俺が握手し返したとき、ガウェイン先生は俺の右手を凝視し始めた。
親子そろって同じ反応をしていて滑稽だった。
「父さん、彼が例のジャックくんだ。例の楽団の事件の――――」
「ほう、キミが……? ふむ、そうか。なかなか勇敢そうな少年だな」
俺の外見をじろじろと上から下まで眺めると、訝しげに眉間に皺を寄せた。頭で考えてから喋る性格なのか、少し沈黙した後にその皺を緩ませて、今度は朗らかな表情へと変わった。
「ここの生徒たちも当時は何人か攫われていてね。無事に戻ってきてくれて校長として感謝している。キミは当時まだ子どもだったという事だが、素晴らしい才能だ」
「あ、ありがとうございます……」
威厳のある人だった。
さすが校長先生。
「キミは以前、私とどこかで会ったことがあるかね?」
「え……いえ、ないと思いますけど」
「ふむ、そうか」
校長先生はなにを考えているかよく分からなかった。
俺っていろんな人から「どこかで会ったことある?」と聞かれるけど、どこにでもいそうな顔してるってことなのか。
「では他の入学生ももうすぐ来てしまうからな。さっそくリナリーの魔法を拝見させてもらおう」
…
ガウェイン先生はリナリーを屋内の中心まで連れていき、その後ろをリンジーも付いていった。ドウェインは腕組みをしてその様子を遠くから見物している。俺もその隣に立って見物させてもらうことにした。
「まずは基本からだが、炎魔法が得意ということだったな。それから見させてもらおう」
ガウェイン先生は後ろに手を組んで仁王立ちしているだけだった。特に杖を取り出すでもなく、目の前の5歳児にそう告げた。
「リニィ、できる?」
「………う、うん………」
リナリーもちゃんと何をするか把握していたみたいで、まるで水を掬うように両手を胸元で添えた。
そして特に詠唱もなく、その両手に魔力を込める。
小さな火花が散った後、その上に炎が灯りだした。
「よろしい。基本の"火おこし"は問題ないようだな。ではその炎を大きくしたり、小さくしたり、魔力を調節してみてくれ」
リナリーはそれを聞いて、両手に灯る炎に集中し始めた。
徐々に火力を増す炎―――だが想定していたものとは少し違った。魔法操作の腕前はソルテールで見た通りだ。そんなリナリーなら両手から灯る炎を強めたり、弱めたりという事はお得意芸かと思ったらそうでもなさそうである。
リナリーは難しそうな顔をしているし、炎も勢いが強まったり弱まったり、不安定なようだった。
「よろしい。ふむ………」
その様子を見てガウェイン先生もストップをかけた。
顎に手を当てて、何やら考え込んでいる。
「アルバーティ先生、どうですか?」
「至って歳相応の腕前だが………うーむ、では炎以外の魔法はどうかな? 氷や雷はつくれるか?」
「………うー……」
リナリーは唸るような声を出して、丈の短いスカートをぐいぐいと弄り始め、ガウェイン先生を睨んでいた。この反応はつまり、出来ない、ということだろう。
「よ、よろしい……。まだキミは幼すぎる。出来ないことが多くても仕方がないのだよ。そうヒトを恨むような顔を向けるのはやめたまえ……」
その反応に対してガウェイン先生も困ったように答える。また厄介な子どもが入学してきたものだ、と言わんばかりだった。
「性格はアルフレッドそのものだな……当時のヤツを思い出しているようで私もなんだか懐かしいよ」
そういえばアルフレッドも孤児だったと聞いたことがある。
故郷の村が火災で焼失して、火の耐性が強いアルフレッドだけ生き残ったらしい。そのとき助けてくれたのが確か魔法学校の校長―――つまりガウェイン先生だったとか。
アルフレッドにとってもガウェイン先生は恩師なのかな。
それからリナリーの魔法についていろいろと実技テストをしてみたが、これまで魔力に関しては普通の女の子のそれだった。氷魔法も雷魔法もできず、さらには光、闇といった魔法も使えない。ましてや転移とか重力とか時間とかそういった特殊魔法は論外だった。
火魔法を少しだけ使える、というだけで特にぱっとしない。
ソルテールで見せたような準神級の魔法を繰り出すということはなかった。むしろいろんな魔法を試されて、魔力を使い果たしたかのようにぐったりしていて顔色も少し青くなっていた。
「―――では、最後にキミの得意な魔法を見せてくれ」
「とくいな? なんでもいいのっ?」
「あぁ、むしろそれを見せてほしい。今日はそのためにここに来たようなものだからね」
その言葉を聞いた途端、リナリーの表情がぱっと明るくなった。今まで退屈そうに付き合わされていた実技テストから解放されたと感じたのか、得意げに口元をにんまりさせた。
ガウェイン先生も今までの実技で安心したようで、気が緩んでいるようだ。
「じゃあ、いくねっ!」
リナリーはぴょんぴょんと跳ねて後方にジャンプしたかと思ったら、両手を上空に挙げた。
「カノのちからを……んーと……ぐれんのほのおが、ふりそそぐ! せつなのごうかをっ! ―――ふぁいあぼーる!」
また舌っ足らずな詠唱でその魔法の名を口にした。
あれはよく知ってる。中級魔法"ファイアボール"だ。
にしては、詠唱ってあんなに短かったっけ。
もっと長かったような気がする。
「ん?!」
俺の隣で壁に寄り掛かって退屈そうに見守っていたドウェインが初めて、その背を壁から離してその光景を凝視した。それはドウェインだけじゃなくて、父親のガウェイン先生もほぼ同じように反応して身構えた。
そうしてリナリーの頭上に赤い魔力が渦を巻いて凝集し、あっという間に炎の回転球が作りあげられた。それは巨大な炎の塊である。
あれがファイアボール………だっただろうか?
「どうしたの、ドウェイン?」
「あれはファイアボールじゃない」
「え?」
もう一度リナリーの方を見た。
その頭上に浮かぶ炎の塊は、ダイアウルフを追いかけまわしていた異形の魔法だった。
「今、リナリーがファイアボールって言ってたじゃん」
「あんなの詠唱じゃない! ただの口真似だ。あんな適当な詠唱で出来るなら―――」
そうドウェインが言いかけた瞬間、その特大な火炎球は床に着弾した。否、"着地"した。
接地すると同時に球体から脚部が生えた。そしてそれがブルブルと"胴体"を震わせると、火炎球に亀裂が入り、口となって大きく開いた。
遠目に見たら魔法ではなく、モンスターに見える。
「これはなんだ……?」
ガウェイン先生も驚愕のあまりに目を見開いている。遠くから見ると人がひとり丸呑みされてもおかしくないくらいデカいということが分かる。
「いっけー! ふぁいあぼーる!」
リナリーはそんな周囲の驚愕もお構いなしで作り上げた自称"ふぁいあぼーる"を操作し始めた。その呼びかけに反応するように、その巨体は突進を開始した。目の前にいたガウェイン先生は横っ飛びでなんとか回避して、そのモンスターを見送った。
"モンスター"は施設の壁まで辿り着くと、壁を伝って登り始め、天井まで凄まじい勢いで登り詰めた。登った後に炎が沸き起こる。
天井に張り付いたまま、下の俺やドウェイン、リンジーに向かって炎が燃え盛るような咆哮をあげた。
そして天井からふわりと浮かんだと思ったら、その姿を変えた。手足が引っ込み、ただの巨大な球体に戻ったかと思ったら細長く形状を変容させ、まるで上級魔法"ブレイズガスト"のように大蛇の姿へと変わった。それが渦を巻いて高速で垂直落下する。勢いも、そのスピードも凄まじく、この場にいる誰も反応できていなかった。
その大蛇が、術者であるリナリー自身に向かう。そのまま激しい炎の音とともに地上のリナリーに"食らいついた"。
その様子を見て母親のリンジーも顔が青ざめた。
「リニィ!!」
着弾と同時に周囲へと火炎風が広がっていく。
「危ないっ! リフレクター展開!」
ドウェインが俺とリンジーの前に出て、何やら魔法を展開した。全面に光の壁のようなものを作りだして、その火炎から守ってくれた。ガウェイン先生もドウェインと同じような魔法を自分の前に展開して防御している。
「リナリーは?!」
その着弾した中心部は炎で燃え盛っていた。
周囲一帯は今の一撃で真っ黒い焦げ跡が放射状についてしまい、壁にまで及んでいた。壁から突出していた足場も、崩壊して床に落ちてるものもある。俺たちが爆心地へと駆け寄ったものの、火の勢いが強く近寄ることすら難しかった。
「これは……凄まじいな………」
ガウェイン先生は灰を振り払って咳払いしながら、惨状を見渡した。
「あっははっ! たのしい!」
俺たちが愕然としている一方、爆心地の中心部でリナリーはぴょんぴょんと跳ねていた。
衣服はところどころ焦げついているというのに、本人にダメージは全くない。子どもにとって服がどうなろうかなんて知ったこっちゃないんだろうが、それにしてもやりすぎである。
「………」
リナリーはもう体裁なんておかまいなく「ばるばりお・ふれいむ」と一言叫ぶと、俺に襲い掛かったときみたいに手足に炎を纏って、アルフレッドから習ったと思しき回し蹴りや飛び蹴り、アッパーカットといった格闘術をその場で繰り広げてみせた。
「父さん、アレは――――」
「あぁ……無詠唱だ。あの子は詠唱なんてしていない」
「やっぱりそうか。やれやれ、また飛び切りの問題児が出てきたもんだねぇ……」
「あの問題児2人のサラブレッドだ。予想はしていたよ」
肩を竦める親子二人を見て、俺もあんな危険人物の送迎をこれから毎日していかなきゃいけないのかと思うと気が重くなった。
○
修練棟はひとまず封鎖された。
改修してまた使えるようにするらしい。
あの後新入生8人集まったタイミングで、リンジーとリナリーは教室に向かっていき、俺一人だけが、学校の庭先で待った。だから魔法学校での生活がどういうものなのかは聞いていないけれど、それでもだいたい予想はつく。
あんな危険な魔法をぶっ放す情緒も安定していない幼女がこれから集団生活を始める………。想像しただけで大丈夫なんだろうか、と心配でたまらない。戻ってきたリンジーたちと一緒にソルテールへと帰っているときも、リナリーはご機嫌な様子だったが、リンジーは悩ましげな表情を浮かべていた。
きっと俺と同じようなことを考えているに違いない。
「まぁ俺が近くにいるから大丈夫だよ。日中はバーウィッチにいるし」
「うん、ありがと……迷惑かけてごめんね」
元気づけるためにリンジーにそんな言葉をかけてみたが、反応は芳しくなかった。リンジーのためにも昼間はなるべく魔法学校の近くにいようかな。
母親って大変だな。
○ 修正 2015/8/24 20:15 ドウェインの覚えている記憶の範囲について加筆。ジャック(ロスト)やドウェインが記憶を失った原因に繋がる伏線になっております。




