長い物は折りたたむのですね。
立ち上がれなくなるほど、蹴られた。
呼吸をするのが辛くなるほど、殴られた。
体全部がビリビリと痺れ、さっきまで背中に感じていた地面の冷たささえも忘れてきてしまった。
殴られるたび、これは現実なんかじゃない、遠い世界の誰かの夢の中なんだ、と言う妄想を自分の脳ミソに強制的に考えさせた。
訳が分からなくなるほど、頭の中は真っ暗だった。
そのうち痛みも消え去っていき、徐々に安らかな気分になっていくのがわかった。
(──このままじゃ殺されちゃうなぁ)
もうどうでも良くなった気がした。
飛んでくる拳も、もう天へ登る階段にしか見えない。幻覚か?
まぁ、ここで死ぬのも悪くない。だけどせめて、もう少しバスケをしていたかった。
(そう思うと、後悔だらけなんだよね……)
薄ら笑いが顔に張り付きそうになる。慌てて痛みに歪んだ仮面を被った。
ああ、短い人生だった。
「……やくしろ
! お……に……される!」
今度は幻聴だろうか。
どこか遠くから、金崎の焦った声が聞こえる。
どうせ死にかけなんだ。奴のへっぽこ具合を確認してから逝くのも悪くない。
秀則は耳を澄ませ、ドスの効いた素晴らしく汚らしい声を嫌々頭に入れ込んだ。
「早くしろ! 親父に殺される!」
は?
半分死体の人間を殴りながら、『殺される』だって?
笑っちゃうね。
秀則は薄れる思考で金崎を嘲笑う。
そんなに父親が怖いのか。
「いいから十万出しゃいいんだよ! 早く!!」
「……はぁ?」
研ぎ澄ました聴覚によって聞き取られたその言葉は、突拍子も無いと言わざるを得ない一言だった。
十万。
どうかしてる。学生に求める金額じゃない。常識というものを知らないのだろうか、この人間は。
しかしその人間は、なんの抵抗もしてこない秀則をとにかく甚振る。手加減すら知らないようだ。
そもそも十万という値段を、どうして秀則に出せと言うのだろうか。
金欠と言えども金崎だって学生だ。高くとも一万あればどうにでもなる。十万なんて手に入れたところでどうにもならないはず。
「くそっ!!」
金崎は秀則を揺さぶる手を離し、立ち上がる。同時に強烈なキックを倒れた秀則の横っ腹に叩き込んだ。
「ゔっ……!」
強い鈍い痛みが再び体を支配した。
「いいか! 次までに必ず用意しとけ!」
金崎はペッと唾を吐き捨て、秀則に悪態を吐く。
取り巻きの二人も、それを囃し立てるように声を上げた。
本当にイラつく奴らだ。長い物に巻かれて生きることしかできない小心者どもめ。
「おい、行くぞ」
金崎の足音が遠ざかっていくのがわかった。
ああ、これでようやく解放される。
(痛かったなぁ……)
ゴホゴホッと咳き込む。血か何かが喉に絡まってしまったようだ。
しばらく休もう。そしたらまた動けるようになるはずだ。
「はぁ……」
瞼が重い。
逆らうのは面倒だから、秀則は重力に負けようと──
「てめぇ! そこで何やってる!!!」