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双龍の飛翔  作者: 寺小柚琉
二人の思い出、彼の過去
4/10

暴力は何も解決しませんね。

それは、突然のことだった。


「おい、秀則ィ」

弁当を食べ終え、用を思い出して担任の元へ急いでいた時だ。秀則はある人物に呼び止められた。

見事な茶髪に、銀色に光るネックレス。耳にはピアスの穴。

隣のクラスのいわゆる不良、金崎(かなさき)(ゆう)だ。

「な、なんだよ」

彼と秀則は小学校からの付き合いだ。彼の性格はよく知っている。

「ちょーどいいとこに来たなぁ」

そう、こう言って近づいてきて、


「お前、今日金は?」


見下すような目で、人を睨むのだ。

いわゆる、カツアゲという行為。中学時代、彼の餌食になった人数は両手では数え切れないだろう。

こう言う人物は、小説や漫画では「根っからの悪では無い」と紹介されるところだろうが、彼にそんな良いところ(・・・・・)は存在しない。根っからの悪だ。

しかも、よりによって彼の父親はこの市の市長。この学校に多大なる寄付をしている。

親の七光りが怖いのか、教師は彼に注意や指導はしない。彼のせいで辞職まで追い込まれた教師もいるほどだ。

「……金は無いよ。財布、持ってきてないからね」

これは秀則の嘘だ。こんな馬鹿な男にくれてやる金など無い。

「まぁまぁ、そんなつまんねェ嘘はいらないからよ。とりあえず、四、寄越せや」

四、とは金額の話ではない。桁の話だ。

つまり、千円寄越せ、という隠語(スラング)

「本当に持ってないよ。弁当と飲み物はちゃんと持ってきてるからね」

「へー……じゃあ、ちょっとここでジャンプしてみ」

(うわ、出たー……)

未だにこんな古い手で金をせしめようとしているのか。

確かに、秀則のスラックスの左ポケットには財布が入っている。

だが、こんなこともあろうかと、小銭は全て抜いてある。

「いいよ、ジャンプして──」

「ほら、よッ!」

ゴスッ!

重い一発が、秀則の、ちょうど鳩尾(みぞおち)に。

「カハッ……!!」

息が詰まる。呼吸が止まった。肺から全ての空気が無理矢理押し出される。

ふらふらと体が揺れる。壁に激突し、床に倒れるのは防げた。

「とりあえず、一発な」

金崎はいやらしい笑みで秀則を見つめる。

ちょうど二人の横を通り過ぎていった他クラスの生徒は、目を伏せて小走って行ってしまった。

(チッ……)

助けてほしい訳では無かったが、その行為には腹が立った。

結局コレだ。全部決まっている。

だからと言って、こんな下衆に渡す金など無い。

「金は……無いよ」

掠れた声で言葉を返す。

「ふーん……」

金崎はどうでもいいなという顔になり、秀則を一瞥したあと、どこかに歩き去ってしまった。

今回(・・)は随分と早いな……)

前の彼はもっと暴力的で、もっと危ない人間だったのに。

「あー、いってぇ」

だいぶ呼吸が楽になってきた。

それにしても、これで何回目だろう。少なくとも二桁は越えている気がする。

「いつか絶対……」

やりかえしてやる。あの顔面に一発入れてやるんだ。

(……いつか、ね)

若干ぎりぎりと痛む腹を抱えながら、秀則は元の用事へと急いだ。

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