本当の悪夢ですね。
「知らなかった。まさか新が……」
ウソツキ。
「知ってたけど、金崎が怖くて……」
ヨワムシ。
「大丈夫! 俺らは味方だぜ!」
ギゼンシャ。
「新の気持ち、すげぇわかるよ」
シッタカブリ。
秀則の頭に降ってくるのは、嘘や、ニセモノの言葉だけ。
ホンモノなんてどこにもない。まるで自分は正義の味方なんだというばかりに話しかけてきては、返事もされないまま離れていく。
『辛かっただろう』『もう大丈夫だよ』『いつでもそばにいるよ』。
わかったフリして、本当はなにもわかっちゃいない。薄っぺらい「気遣い」を放り投げ、所詮はただの自己満足だということを理解しようともしない。
それが余計に秀則を傷付けることなんて、知らないままで。
──知ってるかい?
──人に殴られる、その苦しみを。
──空っぽの「偽善」と、トゲトゲの「優しさ」を。
周りの人間がかぶった、モノクロームのピエロの仮面。
表情なんてみんな同じで、笑えない嘘もみんな同じ。
秀則を取り囲んだピエロの集団は、まるで──
「……帰ってくれ」
ぼそりと呟いた、一言。
その言葉はあまりにも小さな声で、誰の耳にも届かない。誰も耳に入れようとしない。
「大嫌いだ……なにもかも、全部……」
秀則が吐き出した、秀則の嘘。
この「教室」という空間の中で、秀則はたった一人きり。
秀則の「本当」を知る者など、いない。
「頼むよ……」
まだ僕は人を信じていたいんだ。
だから、だからこんなことでみんなを嫌いになりたくないんだ。
味方であってほしいから。一人ぼっちはもう嫌だから。
「助けて…………」
誰にも聞こえない、小さな小さな悲鳴。
それでも変わらない、ピエロ達の不気味な笑み。降り止まない、嘘の雨。
「……誰も助けちゃくれないわよ」
小さな悲鳴を見ていた少女は、静かに教室から離れていった。
とても、悲しそうな顔で。