第一話 6年前の仕事‐上
此処は都内でかなり有名な東京タワー展望室。普段ならば人が大勢要るのだが。今この場に生きてる人は、三人しか居なかった。
そのうちの二人が拳銃で武装していて、最後の一人は10歳位の少女だった。
その少女は気絶していて、ロープで縛られている。下からは、パトカーのサイレンの音が聞こえて来ていて、警察官らしき青い制服を着た方々が忙しそうに走り回っているのが見える。
すると、二人の内一人が閉ざしていた口を開いた。
「なあ、銀行強盗やったあげく、逃げ場に困り東京タワーに逃げ込んで。1人の人質を残し、後の奴らを皆殺しにしちまった銀よ。これからどうする?」
「……おい!まず言っとくが俺は銀次だ!面倒だからって略すな!それに…やたらと誰かに説明してるみたいな口調だな?それから、これからどうするかなんて知らん!なるようになる!」
「そんな、酷いよ〜」
「酷くないし、何とかして逃げたいがな。まあ、警察の方は圧力を掛けさせればどうとでもなる。問題なのは、裏の奴らが動かないかだな。それと………そのひ弱そうな言葉使いは止めろ、聞いてると気分が悪くなる」
「うわ、ひどっ………まあいいや。それよりも助かったら、この金どうする。分け前は折半で良いよな?」
「……ん。そうだな〜とりあえず妹の手術代分貰ったら、後はお前にやる。」
「え?マジ!?やったね、ラッキー」
「まあ………助かったらな」
ロープで縛られている少女の事を無視して床に置いてある大きめの鞄。
正しくは、その中に入っている大金を指差しながら二人は話していた。
一方その頃。
下の警察官達は皆が皆何かを待っているような感じで一つの携帯電話を凝視していた。
そんな警察官達の願いが通じたのか、はたまた、ただの偶然か。携帯電話が軽快な着メロを流し始めた。
電話がかかって着たのを確認したスーツを着ている頭がちょっとハゲかかった、中年のお偉方が警察官達が見守る中、携帯電話を取った。
「あっあの?そちら、克無でよろしいでしょうか?」
ハゲかかった中年が話し掛けるも応答は無し。だが携帯を確認してみても、電波が悪い訳でもなく携帯を逆さまに持っている訳でも無い。
中年が一体どうしたことだろう?私がなにか気に触るような事をしたのか?と戦々恐々としていると。
「………あ、あ。テスト、テスト……うん、大丈夫みたいだね。えーこちら克無」
携帯電話から流れてきた声は、20歳位の青年の声だった。
だが中年は、あらかじめ
知っていた用であくまでも、淡々と
「この度、裏の構成員の暴走行為。どのように責任を取るおつもりですか?」
「ん、その件に着いてはこちらに非が有ることを議会が認めた。故にそいつらの始末はこちらがつける事になった」
「それはまあ、裏世界の住人は、同じ裏世界の住人がかたを付けるのは解りますが。可及的速やかに犯人を始末してくれると助かりますが………出来るのですか?」
「ん?何故だね」
「今回の犯人は、こちらの持っているランキングではトップクラスの元傭兵。水瀬銀次と相棒の斎藤武ですよ。……いくら何でも、そう簡単には行かないでしょう」
「………ふっ」
「なっ、何故笑うんですか!?」
中年は、この二人の強さを知っていたので忠告の意味を込めて言ったのだが、鼻で笑われるとは思わなかったので多少気分を害した。
だが、少し気になった所がある。それは、この二人の名前を聞いても揺るがない絶対の自信。
「大丈夫。この程度の者等、私の組織の闇。………ああ、闇と言うのは殺し屋の事でして。その闇の中でもとびっきりの闇がすぐ近くにいるのでそいつに向かわせますよ。そいつならば楽勝です」
多少納得がいかなかったが、考えても仕方がないので。
「わかりました、ではお願いします。……ただし人質には、掠り傷一つ付けないでいただきたい。それがこちらの要望です」
「ん?何故だ?」
「人質は、日本に来日中のアラブ石油王のお孫さんなのです。もしも、傷一つ付けたら日本は石油が中東から輸入出来なくなってしまいますから。」
「ん、了解した。そう言っとくよ」
電話が切れたのを確認すると携帯を置き、周りの警察官達に指示を出し始めた。
終わると近くに有ったパトカーに腰掛け、独り言で
「まさか、本当にあったあったとは。ただの噂話だと思っておったのに。世界最強の殺し屋派遣組織……克無か………」
そしてタバコを取り出し火を付け、眼を閉じた。これから犯人の身に降り懸かるであろう、惨劇に眼を背けるように。
此処は東京タワーのエレベーター内。そこに、10歳位の一人の少年が立っていた。
少年は腰まで届く黒く長い髪を、首の後ろ辺りで一つに縛っており。顔立ちはまだまだ幼さが残るためか、カッコイイと言うよりはかわいいに近い顔立ちをしていた。 少年の乗るエレベーターは、徐々に犯人の待つ展望室に近づいていった。
少年の服装は、上下黒のシャツとズボンを身に付けていた。
だが、その少年の手には。黒光りするガントレットと呼ばれる、西洋の篭手が付けられていた。
少年は、ガントレットの付け心地を確かめるように手を握って、開いて。握って、開いて。を、繰り返していたが。エレベーターが展望室まで後少しの所で、手を広げたまま力を抜き前を見据えた。
その頃、銀次と武は気が気じゃなかった。エレベーターが上がって来ているのだ。
もちろん二人は腕に自信があるし、警察官なんぞに負ける気は無いが。
そもそも、警察には圧力が掛かっているから人質に被害が出るかも知れない突入なんて、やりたくとも出来ないだろう。だがもしも、犠牲覚悟の一斉突撃でもやられたら、勝ち目は無い。
しかし、もしかしたら二人は運が良かったのかもしれない。
銀行から大金をせしめとって追い詰められたのは、不運だったが。
運よく石油王の孫を人質にとることが出来て、しかもその石油王が孫を溺愛していて。警察に圧力をかけていて、エレベーターに乗ってるのが少年だとなれば、運が良いとしか言いようがない。
だが、運が良い一方で運が悪くもあった。
その少年は、警察が圧力を掛けられて動けないので裏の住人
それも裏の住人の中でも関わってはいけないとされる、世界最強の殺し屋派遣組織【克無】から派遣された殺し屋だったのだから。調度エレベーターは、いま二人の元にたどり着いてしまったのだから。
そして
エレベーターが展望室に着いた。
軽やかな音と共に少年が姿を現す。
もしも事情をしるものが居たら眼を背けるだろう。裏の住人、その中でも敵に回してはいけない者達がいる。
その筆頭である、克無の闇。しかもその闇の中でも、特に敵に回してはいけない存在である二つ名持ち。
それを敵に回してしまったのだから。