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お供え泥棒と名前泥棒  作者: 由遥
こんにちは異世界
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第六話 危ない追いかけっこ

 場所は広場に置かれたベンチのひとつ。

 自分の影と会話する怪しげな小娘を誰も気にしない。


 「うーん。困ったなあ 」


 私もティフも現在無一文。


 「もう日も暮れるね 」


 「ご飯はなんとか食べたいんだよ」


 寝床はまたティフのお世話になろうかなあ。


 「お金って大事だなー…… 」


 痛感した。世の中金だ。

 流石に金だけが世界を回してるわけじゃないと思うけど。他にも人情とか陰謀とか色々あるだろうけど。それでも目に見えるし一番分かりやすい。


 店に並べられた品物が今程遠のいたことはなかった。


 ティフに掛けてもらった術はいまも健在。浴衣で街中をうろつき影に声を掛ける私は明らかに浮きまくっていただろうが、誰も不信の目を向けるどころか見向きもしなかった。

 とはいえ、気づかれないからといって盗みは論外。まだそこまで切羽詰まってない。しかしお腹も空いたし。仕方が無い。



 「ゴミでも漁るか 」


 町を歩き回る中で、何件も料理屋や食材を扱う店を見つけた。コンビニの如く廃棄品を出すわけでも、工場の様に不良品を捨てるわけでもないだろうけど、食べ残しなんかが捨ててあるかもしれない。


 「だからさ、あの飾りだけでも売っちゃいなよ 。暫くはベッドで寝れるよ 」


 あの飾りとは帯飾りのことである。失くすと凹む、というか再起不能っぽくなりそうなので、ティフ預かりとなっている。


 「嫌だよー。それは最後の最後だよ 」


 いま持っている物は、もう何ひとつとして失いたくない。

 家路を急ぐ人々の間を縫って、近場の店を目指す。

 突然、横合いの道から人が飛び出して来た。勢いそのままに近くの狭い道に飛び込んで走って行く。


 「逃がすか! 」


 続けて、そう叫んで出て来たのは髪の長い女性だった。うっひゃー美人。

体の各所に付けた部分的な鎧が物騒な音を立てるのも構わずに、さっきの人と同じ道に入って行った。


 行き会う人達はほんの一時ざわめいただけで、すぐ元に戻ってそれぞれに動き出した。こんなの日常茶飯事なのかな。


 「……なんだったんだろ 」


 「追いかけっこだね 」


 「随分殺伐としてるなあ 」


 あんな追いかけっこはしたくない。女の人は腰に何か下げていた。もしあれが剣なら、下手したら切り捨て御免な結果に終わりそうだ。


 「あっ 」


 思いついた。

 その思いつきを実行に移すべくあの2人の後を追って狭い道を走る。


 「あれ?ねえミオ、ゴミ漁りは? 」


 「ティフ!昨日、私を連れてどうやって逃げたの? 」


 「ミオを包んで影に入ったんだよ。なに?どうしたの急に 」


 「それ、いまでもできる!?私と、もしかしたらもう一人! 」


 「できるけど。だからどうしたの 」


 私は計画を簡単に説明した。ティフは 「まあいいんじゃないの 」と言った。まさかGOサインが出るとは。


 「けど、駄目だったらご飯どうする? 」


 「ゴミ漁り! 」


 最初の予定に戻るだけだ。


 入り込んだ細い道は、曲がりくねっていても道が別れていないので助かった。

 少し走ると突き当たりの少し広い道に出る。ここでくつす道が左右に別れている。さてどっちだ。


 「右じゃない?なんか騒がしいよ 」


 「分かった! 」


 ティフの言葉を信じて右へ。道は10メートルくらい先で直角に折れている。

 駆け出す瞬間、道の先から大きな音と叫び声がした。うへえ。足を止めて深呼吸。

 うわー緊張する。失敗したらトンズラ上手くいくかなあ。


 「ティフー、よろしくね 」


 「はいはーい 」


 頬を叩いて気合を入れ、女は度胸と走り出す。そんな大したことでもないけど。

 そして曲がり角。飛び出してきたおっさんと正面衝突をかました。


 「うぶぁっ 」


 「どぁっ 」


 どちらが私でおっさんかはご想像にお任せしたい。


 曲がり角でお互い気付かずに正面衝突とか。一体何年前の少女漫画だ。私パン咥えてないぞ。相手おっさんだぞ。この後軽く口論して教室に来てみれば相手がまさかの転入生で思わず席を立って 「あーっ! 」って叫んじゃうあれですねわかりません。


 「あーっ! 」のシーンまで転入生役おっさん、席を立つクラスメイト役私で頭をよぎった。止めろ私。そんなもんどこにも需要がない。


 少女漫画じゃお互い尻もちついて「何だよいってーな! 」「そっちこそ!ちゃんと前見なさいよね! 」くらいのものだが、現実は厳しいものだった。おっさんは後ろにひっくり返り、私は吹っ飛ばされて背後の壁に激突、地面に投げ出されるとごろりと一回転して仰向けに転がった。地面には当然の様にティフがいた。けど痛い。

 

 「うわー、ミオ大丈夫? 」


 ふっ、全くの無問題さ。なわけが無い。


 「めたくそ痛い…… 」


 特に壁にぶち当たった体の右側面。それと地面を転がった際に鼻。低い鼻がもっと低くなってしまう。


 「おうち帰りたいよう 」


 「はいはい泣かないの。ミオ強い子でしょ 」


 「そうだねー私強い子だもんねー 」


 投げやりな自己暗示をかけて起き上がる。さよなら現実逃避。また会おう。


 「私はとーってもつ、よ、い、こ…… ぉ?」


 目の前の光景に言葉を失う。

 一足先に起き上がったおっさんの首には、剣が添えられていた。

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