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お供え泥棒と名前泥棒  作者: 由遥
知り合いの知り合いくらいの関係のひとを助けようとして空回ってる話
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第三十八話 わからなければ聞いてみましょう

 説得の甲斐あって、17番さんは食事という名のスプラッタショーを中断してくれた。片手に1人ずつ首根っこを掴んで戻ってくる。


 「いつまで待てばいいんだ?」


 そう聞いてくる17番さんは首が縮んで頭も人の形になっている。


 「とりあえず今は駄目です」


 私は隣り合って座り込む男2人の前に立つ。1人の片腕が失くなっていて、傷口からは血が止めどなく流れている。歪めた顔の色もかなり悪い。多分、放っておけば遠からず死んでしまうだろう。


 早く終わらせたい。


 「今からあなた方に質問をします。答えなかった場合、その時点で死ぬと思ってください」


 片手で17番さんを示すと、意味は十分に伝わったようだ。男達は何度も首を縦に振る。


 それではレッツ質問タイム。


 「何で私達の後を尾けてたんですか?」


 「……上玉がいるから、そいつで一稼ぎしようと……金が必要なんだ」


 「他にお仲間は?」


 「お前らを攫おうとしてたのは俺達だけだ」


 五体満足な人が答えて、片腕もげた方は喋らない。荒い呼吸を繰り返している。


 「他の目的で動いてる人がいるんですか?」


 「……いる」


 「何人?私達のことは知っていますか?」


 「4人だ。お前らのことは知らない」


 「これで最後です。あなた達はこの先私達に危害を加える気はありますか?」


 「ない」


 即答。信じていいかはいまいち分からないけど、まあいいか。


 「そうですか。これで私の用事は終わりです」


 一度言葉を切る。続きを言おうとして、五体満足な方が血相変えたのを見て口を噤んだ。


 「あ、あいつら」


 物凄く焦った声。片腕もげた方も僅かながら表情を変える。知り合い?


 後ろを見ると、対戦相手さんの向こうに男が4人歩いてくるのが見える。

 

「おい!来るんじゃねえ!」


 五体満足さんが叫ぶと4人は立ち止まり、一様に怪訝な顔をした。私は片腕もげ太さんを背後に隠す。さりげなさを装ったけど無理だった。なんか不自然だった。あっちは17番さんには気づいているのかいないのか。距離は離れているので分かり辛いけど、さっきの五体満足さん達とは少しばかり違う表情だった。笑ってるのに怒っている。


 17番さんの 「あいつらは食べてもいいのか?」という質問に 「駄目です」と返す。


 「すいません質問追加で。あの人達知り合いですか?」


 「……あ、ああ」


 頷きながら 「なんでここに」と呟いた。


 「さっき言ってたお仲間ですか?」


 「ああ」


 人数も丁度4人だもんね。


 「全員知り合いなんですか?」


 「そうだ」


 「あの人たちは何してたんですか?」


 「人、……人探しだ」


 へえそうなんだと思ったところに舌打ちが聞こえた。対戦相手のイケメンだった。

 というかこの人まだいたんだ。さっきの見て平然としてるって凄いな。


 「おい、オレからも聞く。あの4人は人を探してるっつったな。誰だ?」


 うわこっち来た。押し退けられた。


 イケメンさんを見て、五体満足さんは目を見開いた。感情表現の豊かな人だ。


 「あ、い……いや」


 「言わなきゃ今オレがお前ら殺すぞ」


 五体満足さんがひっと息を飲む。

 ちょい待て。勝手に変な条件付けしないでほしい。


 「言う!言うから止めてくれ!」


 「早く言え」


 「アンタだよ!アンタを探してた!」


 五体満足さんからはもうホント嫌だという思いが手に取るように感じられた。今の状況ならおかしかないか。

 私は予想だにしない返事に理解が追いつかない。ぽかんと口を開けてイケメンさんと五体満足さんを交互に見比べる。イケメンさんは眉間に皺を寄せて不機嫌そうだ。しかしそれがまた似合う。美形って得だな。


 「理由は?どうせ大会の賭けで負けて破産した憂さ晴らしとかだろ」


 「そうだよ、悪りいかよ!」


 ……。あー、あー。なんとなくだけど分かってきた。

 多分この人達も大会で賭けてたんだ。それで相当な金額賭けたらアテが外れて負けたんだ。ミーナさん言ってたもんなあ。色々だって。その日の飲み代から人生左右しちゃうくらいまで金額に幅があるって。

 

 この人達、人生左右しちゃう金額を賭けて、それで負けて。借金してたかまでは分からないけど、その穴埋めに17番さんとオマケに私を使って金儲けしようとしてたんだ。17番さんは見ての通りスーパーハイパーウルトラマックスな美人さんだしなあ。上手く使えば相当稼げるよね。チラ見だけでお金取れるよ。私についてのコメントは差し控えさせていただこう。


 想像だけど大体事情は掴めたし、もういいかな。


 「すいません、ちょっと立ってもらえますか?そうですあなたです。あ、無理ならいいんです。いや無理しないでください。……大丈夫なんですね?いいんですね?」


 片腕もげ太さんに立てるか聞いたら五体満足さんの肩に手をついて立ち上がった。大丈夫かこの人。いや本当大丈夫か?足がっくがくに震えてるけど。明らかに血が足りてない。


 「すいません。お2人とも退いてください」


 17番さんとイケメンさんには脇によけてもらう。私もしゃがむ。これで片腕もげ太さんがよく目立つ。仲間の満身創痍の姿に、離れた場所に立つ4人は俄かに色めき立った。


 「それ以上近づいたらこの人殺します!」


 しゃがんだまま声を張る。4人は黙り、片腕もげ太さんは腕のない肩を震わせた。

 

 「ミオ、お前どうするつもりだ?」


 「どうしましょ」


 適当に返す。私としてはなんかもうどうでもいい。金稼ぎでも憂さ晴らしでもご自由に。こちらに塁が及ばないなら勝手にやってもらって構わない。


 ティフを探してるだけなのにどうしてこうなった。なんでストーカーされなきゃいけないんだ。見覚えのあるイケメンに会って気まずい思いしなきゃいけないんだ。人間の踊り食いを見なきゃいけないんだ。……思い出したら気持ち悪くなってきた。今更だけどあれってめちゃくちゃショッキング。


 「エルザさん食べたいならどうぞ。私は用事済みましたし」


 ふんだ。私もう知らんもんね。私以外の全員が食べられてもどうでもいい。後味はとても悪いけど。


 顔を背けると五体満足さんと目が合った。それだけ。なんもない。


 「なら好きにしよう。お前もいいか?」


 「……どうぞ」


 イケメンさんも承諾した。これで全員食ったらあって言われたらどうするんだろうか。


 17番さんは笑いながら長い脚で五体満足さんの背中を蹴った。痛くなければご褒美だが、蹴られた本人は痛そうだ。五体満足さんの襟首を引き摺って17番さんは前に出る。やだあれ苦しそう。

 しかし美女が笑うと迫力というか凄みがあるな。


 空いている方の手を伸ばし、17番さんは片腕もげ太さんの傷口を握り締めた。


 「ギャアアアアアアアア!!」


 新鮮な悲鳴が響き渡る。ふらつきながらも立っていた片腕もげ太さんは膝を付き、苦痛の叫び声を上げている。必死に体を捻じって17番さんの手から逃れようとしているが、傷口を掴む手は緩まない。

 片腕もげ太さんの顔からは脂汗が滴っている。私も顔を顰めた。見てるだけで痛い。傷口であるグズグズの切断面からは新たに血が噴き出した。少しは薄れたはずの鉄錆の臭いが新しい血で上書きされる。


 「お前達に提案だ」


 たっぷり数十秒は片腕もげ太さんを離さなかった17番さんが漸くその手を離す。血が垂れて地面に染みを付けた。

 片腕もげ太さんは崩れ落ちて、顔から地面に沈んだ。怪我をしている方の肩がビクビクと痙攣している。

 絶叫は止んで、彼から聞こえるのはヒュゥヒュゥというか細い呼吸音だけ。気絶したのかもしれない。呼吸はあるし死んでいないとは思うけど。


 「お前達4人が私に食われるなら、この2人は見逃そう。お前達2人に食われるなら、この4人は見逃そう」


 4人と五体満足さん、片腕もげ太さんを順番に見る。


 片腕もげ太さんを除く5人が凍りついたように動きを止めた。


 「相談してもいいぞ。お前達で決めろ」


 嫌な提案するなあ。17番さん。死ぬもの嫌だけど代わりに仲間が死ぬのも辛いよ。自分が食われるって言おうにも1人じゃないし。もれなく仲間の命も付いてくるし。そもそも自分から死ににいく覚悟がない。

 4人が食われて2人助かるよりも、2人食われて4人助かった方が人数的に得だとか、単純な計算じゃ解決できない問題だ。

 私だったらどうするのかな。


 誰も何も言わないままで数分経った。


 「……まだか?決まらないなら全員食べるぞ」


 17番さんの気怠げな声に反応を返せる人はいない。

 ーーと思ったら。


 「……ぉ、れを……」


 片腕もげ太さんが顔を上げていた。


 「おれ、を……くえ。食って、くれ……ほか……他は……見逃し……くれ。た……のむ……」


 途切れ途切れに言う片腕もげ太さんを、17番さんは考えの読めない顔で見下ろした。


 「お前がわたしに食われるのか」


 「……そぅ……だ」


 「お前だけか?」


 片腕もげ太さんは咳き込みながら頷いた。


 「わたしは2人にするか4人にするかと言ったんだがなあ」


 「た、のむ……頼む……!おれはもう、じきに死、ぬ……。けど、こいつらは、違っ」


 血が混じる咳と共に言葉を連ねる片腕もげ太さん。最後は一際大きな咳が出た。17番さんはどうするんだろう。


 「2人か4人かと言ったが、それでもお前1人だけにしてくれというのか」


 片腕もげ太さんが頷くと、17番さんは裸足の足で片腕もげ太さんの傷口を踏みつけた。


 「あギャ……!!」


 もうのたうち回る力も残っていないらしい。片腕もげ太さんは残る四肢ならぬ三肢を弱々しく動かすだけだ。


 「折角妥協案を出してやったのに。それでもお前は満足しない」


 17番さんは切なげに溜め息をついて首を振るが、その顔は明らかに笑っている。あんた鬼や。


 片腕もげ太さんからの返事はない。というかそんな余裕はないだろう。顔色が白を通り越してなんかもう青に近い。医療の知識なんてないが、まだ死んでいないのを不思議に思うくらいだ。


 「全くこれだから。自分達がした仕打ちも忘れて平然とこちらに要求を突き付ける。人間とは実に欲が深い」


 17番さん今の発言アウトです。正体がばれかねません。ついでに今のところ私達は足止め食ってるくらいで実害は特にないです。あっちの方が損害被ってます。人的被害が凄いです。


 「まあ、だからこそ面白い訳だがなあ」


 私の視線もなんのその。17番さんは顔にかかった髪をかき上げると実に艶然と微笑んだ。色っぽいのに作った感じのしない、とても自然で楽しそうな笑顔。どこかあどけなささえ感じてしまう。


 くるりと踵を返し、17番さんは来た道を戻り始めた。片腕もげ太さんはおろか、他の誰にも手を出さないで。


 「どうしたミオ。早く32番を探しに行くぞ」


 数メートル歩き、最初の4人が食われた辺りで17番さんは足を止めて振り向いた。地面に広がる血はまだ生乾きだ。あ、耳が落ちてる。


 「……ああ、はい」


 のろのろと立ち上がると歩き出す。


 食べないのか。片腕もげ太さん痛い思いのし損じゃないか。いや、痛い思いしたから見逃してもらえたのかな。よく分からない。まあいいや。


 できるだけ地面の血を避けて17番さんのところへ行く。

 先に行っちゃうかと思ったけど、17番さんは待っていてくれた。なんか意外。


 「精々生き延びるといい」


 それだけ言うと、17番さんは歩き出した。

 私も「もう来るな」とか「次はないぞ」とか言おうとも思ったが、虎の威を借るなんとやらだ。お辞儀するに留めて黙って17番さんの隣に並んだ。

 

 「……楽しそうですね」


 17番さんは傍目にも上機嫌だ。顔がにやけている。


 「ん?そう見えるか」


 17番さん私の方を見る。私は横目で17番さんを見る。

 目が合った。


  目は口ほどにものを言うとはよく言ったものだ。

 17番さんが今何を考えているかさっぱりわからない。唇は笑みの形で顔には喜色が浮いてはいるが、私には17番さんが喜んでいるのか怒っているのかちっとも分かりはしないのだ。

 そのくせ、私が考えていることは大方筒抜けなんだろう。


 「拗ねるな拗ねるな 」


 「拗ねてないっす」


 ほれ見たことか。


 17番さんのことが少し分かった気になっていたけど、多分そんなことはないんだろう。17番さんが片方を食わせれば片方は見逃すと言った理由なんて知らないし、何を思って全員見逃したかなんて分からない。気まぐれなのか自分のルールに従ったのか。それとも他にそうする理由があったのか。


 見た目は人でも、中身は丸っきり違うんだ。人が考えてることもろくに分からないのに、人じゃないひとの考えなんて分かる訳ないんだろうか。


 ティフのことも全然分かってなかったら嫌だなあ。

 

 「どうかしたか?」


 細められた灰色の目は、何でもお見通しだと言わんばかりだ。


 「17番さんは何を考えてたのかなあと」


 思い切って聞いてみた。


 「うん?わたしか?腹が減ったから、どこで食べ物を調達するか考えていた」


 期待した返事じゃなかった。


 「そうですか」


 「ところで向こうから旨そうな匂いがするな」


 「行ってみますか?」


 「それはいいな。そうしよう」


 「17番さん、さっきは何で全員見逃したんですか?」


 「中々面白かった。食べて終わりにするには惜しいと思ってな」


 「そうなんですか」


 直球で尋ねると、平然と答えが返された。聞いてみるもんだ。こっちは割と勇気が必要だったんだけど。


 向こうにしたら別に大したことでもないのだろうか。おやつ食べ損ねたくらいの話なのかもしれない。

 これも聞けば教えてくれるのかな。


 「そういえばエルザさん、食べ物を買うにはお金がいるんですけど持ってますか?」


 「いや、ないな」


 「少しなら奢りますよ。値段によりますけど」


 ちょっとした授業料代わりとして。

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