第三話 突撃隣のお供え物
「起きた? 」
目の前の粘液的物体に驚いて声も出なかった。
あれ、生きてる?ぱっくんちょされたのに。
「熟睡だったね。寝不足? 」
いやあれは気絶だろう。
聞けば路地裏からの逃走劇から一日も経っていない、というか日付も変わってないらしい。
気づけば路地裏、からのファンタジー六人組との一悶着。更には謎の黒いスライムとの逃避行。これ全部今日起きたことなんだぜ。大丈夫か私。主に精神面で。
気を取り直して周りを見回すと墓地だった。だだっ広い土地に乱立する墓石、十字架。洋風集合墓地といった感じ。点々と生える木は逆光で黒く見えるし、夕焼け空とギャーギャーと鳴くカラスっぽい鳥はわざとやってるんじゃないかと思うくらいマッチしている。
気がついたら墓場にいました。どうなってんだこんちくしょう。
***
待つことしばし、というか翌日。私は途方に暮れていた。
黒スライムから話を聞いて大事なことが分かった。
薄々勘付いていた通りに、ここは異世界で、しかも私はどうやら家に帰れない。
他にも色々と聞いたし不思議に思うことも多いが、取り敢えずはこれである。私は今更だが茫然とした後ぶち切れた。錯乱したでも良いかもしれない。待っていただいたしばしの時間は半狂乱で黒スライムに掴みかかっていたと思っていただければ問題ない。そのうち疲れて眠ったらしい。
そして今に至る。墓地の片隅で異世界(確定)2日目。清々しい青空です。おはようございます。あーお腹すいた。
気分が沈んだ所に空腹はまずい。ろくな考えができない。よって私は迅速ではないが行動を開始した。足元で蠢いている黒スライムも付いてくる。柔らかいので裸足でも足の裏が痛くないし、汚れない。嬉しい。
何をするのかといえば答えは簡単。お供え泥棒だ。
幸いというべきかここは墓地。それならお供え物もあるだろうと思ったのだが懸念がある。
「これって食べたら怒られます? 」
「ばれなきゃいいんじゃない? 」
祟りやら呪いの類だ。お墓の台座部分に備えられた果物を前にこそこそと会話する。この世界、魔法もあるし人間以外の種族も充実しているらしく実にファンタジー。そして魔法があるなら祟りなんかもあるだろう。お供え物をパクって祟られました、呪われましたじゃ洒落にならない。
「呪われたりします? 」
「さすがにそれはないかなあ…… 」
呆れたような声に安心すると、お墓の前で土下座する。黒スライムが地面に広がっているお陰で服も顔も汚れない。便利!
「いただいていきます 」
この場合、謝るべきは供えた側か供えられた側か。考えて後者にした。 まあ、その人に供えられた物を盗るわけだし、これくらいは。自己満足だけども。
「これ果物かな?食べられるかな」
「……もう茶色じゃん、止めときなよ 」
そんなことを繰り返しながら、朝露に浴衣の裾と足元を濡らしながら墓場を歩き回る。
結果的に、満腹とはいかなくとも空腹が収まる程度には食べ物を口にできた。
あとは食べた物が傷んでいないことを祈っておこう。