第二話 レッツランデブーウィズスライム(嘘)
「えっ? 」
目の前が真っ黒で、なんだろう。夜にでもなったのだろうか。墨汁の津波?
いや違う。視界というか狭い路地の幅いっぱいに黒いスライムみたいなモノがドロドロと溢れかえっていた。
なるほどこりゃあ剣抜くわ。びっくりびっくり。
アホ面を晒していたら、黒スライムの表面が伸び上がった。肩に引っ付いたそれに引き倒される。
直後、私の頭があった場所を銀色の線が貫いた。
「うわっ 」
線の正体は細身の剣だった。べシャリと黒スライムに倒れこむ。少し冷たくてぶよぶよした感触。嫌いじゃないぜ。
「大丈夫? 」
子供みたいな高い声。巨大すぎるスライムから聞こえているかと思うとシュールだ。
私を乗せたまま、黒スライムが少し動いた。またすれすれで剣が通り抜けていく。
「貴様、やはりバロウズか! 」
お付きの一人が剣を構え直す。リーダーさんが王子だとしたら、正しく騎士って感じだ。あれ、まじで王族なんだっけ?
「違うよー 」
否定は以外すぎることに黒スライムからだった。
「あんな嘘吐きで禿げちゃびんのおっさんとこいつを一緒にしないでよ 」
どうして黒スライムが味方みたいな口をきいているんだ。
「あいつのこと、知ってるのかなー? 」
ローブさんが口を開いた。順応早いな。
「知ってるよー。さっきまでここで魔法作ってた。もうどっか行っちゃったけど」
「魔法を作る……?新しい術の開発か?」
「魔法?それってー、どんな魔法? 」
「知らなーい。知ってても言えなーい。それよりさあ、どうする? 」
にゅ、と黒スライムの一部がうねって私を覗き込んだ。え、そこ顔なの?
「どうしたい? 」
どうしたいって、そりゃあ決まってる。
「帰りたい 」
そうだよ。帰りたい。
気づいたら知らない場所にいて、ファンタジーな人たちに囲まれて疑われて。何を言ってもいまいち信用してもらえなくてさ。しかも牢屋行きだってよ。ふざけんな。くっそー泣きそう。
「バーカ!バーカバーカ! 」
手っ取り早く怒りを表すために叫んでみた。倒れたままの私は、パーティ六人組が今どんな顔をしているかは分からない。
本当に滲んできてしまった涙を拭おうと慌てて袖で目元を覆った。直後にどぽんと体が沈んだ。あれ、もしかして喰われた?捕食とそれに続く溶かされるという発想。僅かに感じる圧迫感に慌てて息を止める。
ずずっ、と体が引っ張られるような感じがした。
「あはははははバーカ! 」
という甲高い笑い声。その行先はローブさんやリーダーさんたち一行か、それとも簡単に食われた私か。そんな疑問を最後に、私の意識はそこで途切れた。