第十三話 採って集めて稼いで買って
「到着ー。スペナの街ー、スペナの街ー 」
どこか電車の車掌さんを彷彿とさせる御者の声で目を覚ました。外を見ると、馬車は速度を落として街に入ったところだった。
椅子に座り直そうと身じろぎして「ぐえっ 」と呻く。痛い。身体中が痛い。
馬車での移動は大層揺れる。必然的に身体をあちこちにぶつける。座りっぱなしだから肩や足も凝る。それを5日間続けた代償だ。
馬車が止まれば同乗者はぞろぞろと降りていく。代金は前払いだからスムーズだ。
私も降りねばと壁に手をついて席から立つものの、油の切れた機械みたいに全身の筋肉がギシギシと軋んだ音をたてている。
「うぐぐ……くそ、痛い…… 」
肩を回したり腰をさすっている人はいるが、歩くのも辛そうなのは私だけらしい。哀しきかなひ弱っ子だ。
馬車を降りた人々は各々歩き出して散っていく。私も道中集めた物を売るべく街中へ向けて歩き始めた。
***
偶然同じ馬車に乗り合わせた子供に教えてもらった、薬草を集めて売るというのは思った以上に上手くいった。
馬に休憩を取らせるために馬車が止まる度、脇目もふらずひたすら集めた薬草は思っていたより良い値で売れた。
日中は馬車に揺られ、街に着いたら薬草を食べ物と現金に換える。これがここ数日の生活サイクルとなっている。
「すいませーん。薬草を買い取ってほしいんですが 」
コツとしては、物々交換の後に換金することか。先に食べ物を確保しておけば後は全て売っ払ってしまえばいいだけだから。
「はいはい。これ全部売ってもらえるのかな」
「いいですか? 」
「ああ、構わないよ 」
換金する時は、薬屋や診療所などに直接持ち込むよりも雑貨屋のようなところの方が多く買ってくれる気がする。値段は少し安い気がするけど、あちこち回って少しづつ売る方が面倒臭い。
「はいお代 」
「ありがとうございます 」
なんというか、この数日間でたくましくなった気がする。お店に入って物を買ってもらったり、人に道を聞くなんて今では朝飯前だ。コミュ力の上昇が著しい。
無事に宿も見つかって、部屋に入ると新しく増えた小さな楽しみが待っている。
小銭を数えることだ。
「10レクトが6枚に、50が2枚、5レクトが3枚、と 」
しめて175円、ならぬレクトである。
ここの宿代が70レクトだったので、それなりの金額かもしれない。薬草だけでよくここまで稼いだものだと思う。
そして少しでも小金があると使いたくなるのが人の性。私の内には物欲が溢れんばかりに渦巻いていた。
「ねえティフ、どうしよう。買っちゃう?買っちゃおうかな、いいかな? 」
駄目って言われてもどうせ買うけどね?という心の声が聞こえたわけではなかろうが、ティフの返事は呆れの響きを含んでいた。
「君が稼いだお金だし、好きにすればいいんじゃない? 」
そっかー私もお金稼ぐようになったんだなーなんて感慨は湧く暇もなく、頭の中には高速で欲しいものリストが作成されていった。
「ティフ行こう、今すぐ行こう!着替えが私を待っているんだ! 」
あと鞄と水筒な!これで薬草を腕に抱えることも道中喉の渇きに苦しむこともなくなるんだ!
ひゃっほーと叫ばんばかりの勢いで宿を飛び出す和服の小娘は大層目立っていたそうだ。
***
買い物は楽しいものだ。それが友人と色々な店を冷やかしながら見て回るなんてことになれば、そりゃあもう1日潰れるくらいには。
しかもこの世界で始めての買い物だ。無駄遣いは論外とはいえ、浮き足立ってしまうくらいは大目に見ていただたい。
そんな訳で買い物を終えて戻ってきた私は随分と上機嫌だった。
肌着と麻のような材質のシャツとズボン。大きめの肩掛け鞄。そして奮発して買ってしまった金属製の水筒。
水を持ち運ぶ容器というと、革袋なんかがまだ主流らしい。しかし私が使うと確実に零しそうなので、結構なお値段のする水筒にした。大事にしよう。
予定にはなかったけど、小さいポーチも買った。財布代わりに使えるものが欲しかった。
「よかったね 」
「うん 」
「僕も美味しいもの食べれてよかったよ」
「……うん 」
思い出してしまった。空っぽの胃からせり上がってこようとする酸っぱい液体を押し戻す。
肉屋の側を通りがかった際、ティフは裏に回ってみたいと言い出した。それくらいお安い御用と裏口に回ると、鉄や腐ったような臭いがする。大方、すぐ横に置いてあるゴミ箱っぽい箱に売れ残りや内臓でも捨ててあるのだろうと当たりを付けた。
なんでティフはここに来たいと言い出したんだろう。不思議に思って声をかけても返事はない。
え、置いてけぼり?まさかの放置プレイなの?と辺りを見回すと、ゴミ箱がガタガタと音を立てている。
もしやゾンビかかゆうまかと思った私だが、よく見ると黒い物体がゴミ箱に頭を突っ込んでいる。そしてそれは間違いなく私の影から出てきている。
内臓やら肉やらを貪っていたのはどうしようもなくティフだった。
「それ食べていいやつ? 」
「廃棄用って書いてあるよ 」
「あ、そうなんだ 」
ならば何も言うまい。
お店の人ごめんなさい。肥料とかにするつもりだったらほんとごめんなさい。
「お肉好きなの? 」
「植物より魔力が多いからね」
「魔力が多いものがいいんだ」
「魔力体だから、そこはどうしても重視しちゃうね 」
へーほーと頷きながら鼻を摘まむ。ぶっちゃけティフが物凄く生臭かった。
***
「まだ採るの? 」
「採るよー。採りますともさ 」
翌日、私は相も変わらず馬の休憩の度に薬草採りをしていた。終わったところで飲む一口の水が美味いのなんの。
「順調にいけば明日か明後日には王都に着くっていうしね。少しでも手持ちを増やしたいから 」
期待と不安がうまい具合に混ざっている。ティフがいて一人じゃないだけ相当マシというものだ。
「そろそろ出発しますよー 」
「はーい 」
御者さんが呼んでいる。集めた薬草を鞄に詰め込んで立ちあがる。
「僕、街に着いたらまた肉屋に行きたいな 」
「いいよ 」
捨てられたモツ食べて満足するならいくらでも行こう。50レクトの恩も返してないことだし。
「でも廃棄用って書いてなかったら駄目だよ 」
「ええー 」
お供え泥棒に名前泥棒。
やっちまったことはどうにもならんとはいえ、なかったことになんてできるはずもない。
このうえモツ泥棒なんて不名誉な称号はいらんのだ。




