表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の紡ぎ歌  作者: はるか
12/15

第十一話 王子の目的

 足元が揺れ、部屋にある大小のシャンデリアのガラスが細かく音を立ててぶつかり合い、天井からは揺れに合わせて白い埃が振ってくる。


 「な、なにっ!?」

 「こっちだ」

 身体の中にまで響いてくる地響きの強さに唖然としていると、セルクに腕を引かれてソファ側にある窓に連れて行かれた。

 近づくと黒い煙が昇っているのが見える。

そこは屋敷の裏側で、屋敷とは別にドーム型の大きな建物が建っていて煙はその裏側から昇っているようだ。


 思わず駆け寄って窓を開け放つ。するとすぐに風に乗って新緑の濃い匂いに混じって焦げた匂いと砂埃の匂いもが部屋の中に入ってきた。

 広がる裏の森から比べても巨大なその建物は、窓一つない丸い屋根をした建物で異質な雰囲気を纏っている。

 「あの建物は…?」

 「ミラン卿の秘密の花園。もとい…実験棟だ。」

 「実験棟?…何のですか?」

 「さぁ?俺は雇われたばかりだったから屋敷の奥に連れてってもらったことはない。おそらくお前が持ってた箱の中身を実験中なんじゃないか?」

 「実験って……えぇ!!!!?あれを爆発させたってこと!?」

あまりの驚きに腕組して外を眺めていたセルクに掴みかかる。

 「それは………」

 

ドーーーーン!! 


 セルクの言葉を遮ってまた爆発が起きた。先ほどより衝撃は少ないが同じ場所で爆発したらしく、新たな煙が立ち上ってきた。

 窓を開けていたせいで、先ほどより小さい爆発でありながら爆音と伝わってくる衝撃は身体に痛く響く。

 「えっ…!!?」

 (今の……)

 爆音の中に微かに混じって聞こえたものがあった。


 「ったく、何を爆発させてるかは知らないが、今まで爆発させるような実験をしていると聞いた事はないな。あの箱、鍵穴が四つもあったからもしかしたら爆発させて中身を取り出そうとしてるのかもしれないって…………どうした?」


 不思議そうな声で問いかけてくるのは私が窓枠を掴んで外を見たまま固まっているからだろう。

 だって…二度目の爆発音の時に聞こえたのは…


 「こえ…」

 「なに?」

 「声が聞こえたんです!今の爆発の音と一緒に女性の悲鳴が!!」

 「なんだって?」

 私の横に立って同じように爆発のあった場所を見るが人の姿は建物の陰にあるらしく見えない。悲鳴らしき声も爆発の時に微かに聞こえただけだった。

 でも聞こえた感じだと一人ではない。


 「実験棟には女性がいるのですか?この屋敷自体に女性が働いてたり住んでたりは?」

 「この屋敷自体には女性はいない。実験棟には誰かが住んでいる、というか実験を手伝う人がいるというのは聞いた事あるが女性とは聞いてないな。」

 「でも!確かに聞こえたんです!………助けにいかなくちゃ!!」

 走り出し部屋を出て行こうとするのをセルクが腕を掴んで引き止めた。

 「待て待て、お前はここにいろ。鍵は俺がもつこれ一つだから俺が鍵を閉めていけば誰もこの部屋に入れない。」

 「あなたこそ!!」

 「ん?」

 「セルク王子こそ、この国の来賓なのです。わたくしが様子を見てまいりますので、こちらでお待ちください。他国の王子殿下をこの国の揉め事に巻き込んでしまい申し訳ございませんが、早急に対処いたしますので。」

 「この件に関しては、最初に首を突っ込んだのは俺だぞ?謝る必要はないだろう。お前だって被害者だ。」

 「わたしはあの箱を第一神殿に送り届ける事が任務でもありました。自分の仕事は最後まで自分で責を負います。」

 「お前一人で何が出来るっていうんだ。城には応援の知らせを送っておいた。しばらくすれば到着するはずだ。それまででもここでじっとしてられないのか?」

 「ただ待っているのは嫌なんです!!」

 「……………」

 「あっ…すみません。―――言い過ぎました。」

 「いや…」


 言い合いの熱は一気に冷め、居心地の悪い空気が周囲を取り囲む。

 

 「………本当に、時間がないのです。早くあの箱を神殿に届けなければ…。竜の花祭りのメインイベント自体がつぶれてしまいます。お祭りの為に来ていただいた方々の期待に沿えるためにもあれが必ず必要なのです。」

 胸の鼓動が急げとばかりに騒ぎ立つ。

 このままでは城のみんなにも、神殿のみんなにも合わせる顔が無い。

 私に出来る事があるならやれることをやりたい。

 自己満足かもしれないけど、黙ってここで待っていることなんか出来ない。


 「とにかく、私は行きます。セルク王子はこちらで待っていてください。」

 瞳に力をこめてセルクを見る。

 セルクもしばらく見定めるようにフィーナを見つめていたが、諦めるような溜息を吐くと視線を逸らしてボソッと何かを呟いた。


 聞き取れなくて「えっ?」と聞き返すと、伸びてきた両手に頭を掴まれて髪をわしゃわしゃ掻き回される。


 「やっぱりじゃじゃ馬だな!って言ったんだよ!!!」

 「わっわっ!!やめて下さい~!」


 その乱暴な手つきから逃れようと後ろに下がるが、髪が何かに引っかかるように伸びた。

 みるとセルクがフィーナの髪を一房とって口付けをしているところだった。

 間近でみた光景に顔に一気に熱が集まる。

 「なっ、なっ、なにを!?」

 動揺して固まっていると、今までで一番柔らかな微笑を向けてきた。

 「俺がこの国に来た目的を教えてやろうか?」

 「え?」

 「知りたいか?」

 「え、まぁ…はい。」

 突然なんだろう…?

 「まずは、アルスメリア国に滞在して文化、社会を学ぶ。花祭りを楽しむ。ルカに久しぶりに会う。マーゼラの木苺パイとやらを食べる。」

 つらつらと語りながらもフィーナの髪を指先で遊ぶ事はやめない。

 話す内容に耳を傾けながらも、髪先にある指の動きに意識がいってしまう。

 触れられている髪先からむずむずする感覚が伝わってきて自分の両手を握り合わせて耐える。

 「わ、わかりました。王子の分の木苺パイも買ってきますから!だから、この手を…」


 「そして一番の目的が、ルカの一番の侍女の”女”を連れ帰ること。」



 その言葉の後、するりと髪が開放された。

 ほっとして背を向けて数歩離れる。

 でも実際はほっとしたのもあるけど、セルク王子から”女”という単語が出た事がショックで、その同様を隠す為にも背を向ける必要があった。

 冷静に考えれば突っ込みをいれてもいい内容であったはずだが、思考回路がまともに機能していない今の状態では軽く聞き流している中でも引っかかる単語だけは耳に残る、という厄介な自体が起きてもおかしくない。


 「あ…あーそうですか。気に入ったひとがいらっしゃるなら、早く連れ帰ればよろしいでしょう。花祭りは三日間ありますから、どーぞその方と祭りを楽しむなり国に連れ帰るなり好きになさってください。私はやることが山のようにありますので、箱をもって急ぎ帰らせていただきますね。」


 つんと澄ましながら言ってるものの心の中は荒れまくり、”落ち着く”を通り越して落ち込んだ。

 なんだ、お目当ての方がいるんじゃない。そうよね、各地を旅してるって言ってたしお気に入りの方が何人かいてもおかしくないよね。

 じゃあ…

 じゃあ、なんで私にキスなんて。

 胸の奥がぎゅっと締め付けられるように痛い。

 きゅっと唇を噛んで突きつけられた事実を咀嚼して心の整理をしようとするがうまくいかない。

 自分の事に精一杯で周りを見る余裕のなかった私は後ろから近づく足音に気づけずにいた。


 「わかった。」

 言葉と同時に後ろからぎゅっと抱きしめられる。

 「えっ!?王子?」

 思わず身を振った私の力なぞ物ともせず更に腕に力がこもる。


 「とりあえず、ここでの用が終わったらマーゼラの木苺パイを買いに行って、お祭りを楽しんだら城に行くか。王や王妃にも挨拶したいし、許可も取らないといけないしな。」

 楽しそうに人の頭に頬をくっつけて話す人は声だけで上機嫌だということが判る。

 「許可?なんのですか?」

 「そうそう、その敬語もやめてもらおうか。呼び方もセルクでいいぜ、フィーナ」 

 「出来るわけありません!」

 「なんで?荷馬車の中とか部屋にくるまでは普通だっただろ。」

 「それは、王子殿下だと知らなかったから…」

 「その王子が良いって許可してるんだからいいだろ。言う事聞いてくれないってルカに言いつけるぞ?」

 「うっ…」

 「ってことで敬語は禁止な。状況によっての使い分けはまかせる。」

 「…はい。」

 もう腕の中でもがくのにも疲れてきて会話にのみ集中する。

 人と触れ合うのが好きなのかな…と視線を落として抱きしめる腕を見つめる。

 「まさか本人からの許可がこんなに早く取れると思ってなかったから、こんな事件が起きた事にも感謝する部分もあるかもな。」

 そういえばさっきも許可がどうとか…

 「あの、おう…セルク?許可って、なに?」

 「さっき言っただろ。女を連れて帰るって。」

 「聞いたけど、誰が許可したの?」

 「お前。」

 「や、そういうのは、本人の許可がないとダメだと思うんだけど?」

 「だから、フィーナが許可くれただろ?」

 なんだろう、この噛み合わせの悪い会話は。

 「私の許可ではダメです。あ、ダメだよ!」

 「なんでだよ。」

 「なんでって…」

 何かおかしい。

 抱きしめる腕、背中に感じるセルクの身体からフルフルと細かい振動が伝わってくる。

 これは笑ってる?なんで?

 耐え切れずにセルクから離れようと身じろぎした瞬間、後ろからしがみ付いていた腕がフィーナの身体を180度回転させて自分と向かい合わせた。

 正面からみたセルクは意外にも真剣な色を瞳に滲ませてフィーナを見ている。


 「お前を国に連れて帰る。」



 「………え?」

 「さっきもそう言ったはずなんだが、理解してなかったみたいだな。というか考えもしてなかったか?」



 「………は?」

 「ルカの一番の侍女。筆頭侍女。フィーナ、お前のことだ。」










 「……………えぇえぇえええええ!!?????」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ