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怪童丸

義輝が現れて初めて学校に来て、まだお昼休みにもなっていない。

なのに、目の前にはフットボールのエースと校内のギャングのリーダーを殴り倒しているレベッカがいる。双方ともに顎の骨は粉砕され、永久歯に生え換わった歯の半分近くを失っている。

そして教師は警察に通報し、校内に駐在する警官に銃口を向けられている。


「知らなんだのだ」

『なにがよ!』

「こやつらが、己が畜生であることをな。人の皮をかぶった畜生は、なまじ人の皮をかぶっておるだけに、己が畜生であることを知らぬものだ」

『だからって、ここまでやったから大問題になったじゃない!』

「こやつらには、未来がある」

『その未来をあなたが摘み取ったのよ?!』

「そうじゃ、『さらなる悪事を積み重ねる可能性』を摘み取った。このような畜生には、それが最善であろう」

レベッカには、義輝の中の常識に、とてつもない違和感を受ける瞬間がある。たとえば、人間の中には獣がいると、ごく自然に受け止めているところだ。

『侍とは、つまるところ漁師であり猟師よ。ただ、人の皮をかぶった害獣を狩る存在にすぎん』

校内の駐在警官は、応援の刑事がいつまで経っても現れないことに苛立ちを募らせている。しかし、それは仕方がないことだった。

署では、新たな大規模傷害事件の対応に追われていた。


NFLの現役ディフェンシブライン……つまり、アメリカンフットボールでも最も屈強な肉体を持つ男たちによる、八百長に絡んで誘拐された幼い娘のたった一人での救出劇だった。


男はヘルメットとプロテクターを完全装備して乗り込み、怒りに任せて13人のギャングを再起不能なまでに破壊しつくした……ということになっていた。

明日の新聞には、このような記事が載るに違いない

「怒れる灰色羆、娘を救うためにギャングをぶちのめす」

そして事件の経緯よりも、13人のギャングを単身で散々ぶちのめしたことに焦点を当てて、その屈強さを賛美する論調の記事を書くだろう。


『そういうことになってしまった』屈強な肉体の父は思った。現場を見た人間なら、あんなことは熊でも無理なことぐらい分かるはずだ。

まず、ギャングだったものの体は明らかに原形をとどめないほど破壊されていたが、それでも『一滴の血も流すことはなく』生きていた。

ある男は、顔面から後頭部にかけて子供の拳ほどの大きさの風穴が空いていた。

またある男は、首を180度折り曲げられ真後ろしか見えなくなっていた。

ある男は、手足と頭部を全部胴体に押し込まれていた。


頭頂から臍まで手刀で断ち割られた男ですら、元からそうやって生まれてきたかのように生きている。

これは、明らかに人間の業ではない。しかし、もし人間にこれが可能だとして、身体能力的にもっともこれを実行できそうなのは自分であることも間違いはなかった。

ただし、それは幼稚園児がディフェンシブラインである自分を殴り殺すより難しいと思う。

壁の穴の向こうには、200キロ近い初速で投擲された体重が90キロはある人体が、煉瓦塀を突き抜けて大通りをまたぎ、停車中の車を破壊して道向かいのビルに貼りついていた。

そして、車体と煉瓦の破片を巻き込んでぐしゃぐしゃに潰れながらも死んでいない。


「こいつらは、『アナタが』ぶちのめした」

パンツ姿のビジネススーツに身を包んだ30代の女が、父親に向かってつぶやいた。

「……ああ、『こいつらは』『俺が』ぶちのめした」

父親は、目を閉じて応える。それ以外の説明は、つけようがないから。

「そう、怒れる灰色羆がやったの。娘さんじゃなく」

「そうだ、やったのは娘じゃなくて俺だ。俺ということにしておいてくれ」

屈強な父親は、疲れた顔でつぶやく。

「運がよかった、アナタだったら『13人ぐらいぶちのめした』と言っても信憑性がある。あなただったら、やれそうだから」

「そうだろうよ、俺だったらぶちのめすぐらいはやれそうだろうよ。いちばん納得がいく説明だ。そうに違いないと思いたい」

「そうよね、あなたのお嬢さんが、本物のグリズリー以上の力でマフィアを13人も生きたハンバーグに『できるはずがない』もの」

「まったくだ……うちのチームの連中全員でリンチにかけてもこうできるかは怪しいが、これは俺がやった。やったんだ俺が!」

「物分りが良くて助かるわ」

「なあ! アンタ教えてくれ! 俺のせいでいいから、娘になにが起こったのかを!」

父親は、全責任は自分が負うと言いながらも、せめて納得したかった。


「……聖なる乙女の祈りに応え、強大な守護天使が降臨したの。そして天使が、神罰を代行した」

「どういう意味だ、天使ってなんなんだ!」

「巨大な斧を担いで熊に騎乗する幼児よ。幼くして熊と相撲をとり、長じて鬼を征伐し、老いて軍を束ねた。名は金太郎」

「キンタローって聞いたことがあるぞ、ガキの頃にハマってたゲームに、『そういう名前の悪魔』が出てきたはずだ」

父親は、残虐な格闘ゲームの4本腕のボスを思い浮かべた。


「金太郎は悪魔ではないぞ! ちちうえにそう思われるのは、寂しいのじゃ」

辺りをきょろきょろとうかがっていた娘が、聞いたことがない抑揚で喋り始めた。

「誰なんだお前は! 娘の体で何をしている!」

「この金時童子がアメリの請願を請け顕現し、この身を救うた。いまやアメリと金太郎は陰陽の太極じゃ! ゆえにアメリのちちうえといえば金太郎のちちうえなのじゃ、ちちうえ金太郎を褒めてくりゃれ」

アメリはどちらかというと物静かで大人しい女の子だった。言葉も、多くは語らない。


「運がいいわね、アナタ。アメリの父親じゃなければ今殺されててもおかしくなかったわ」

「さっき、コイツは俺を殺そうとしたぞ!」

「最初は賊の一味と思うたのでこらしめようとしたのじゃが、アメリに教えてもらってやめたのじゃ。ちちうえ許してたもれ。それに……」

「それに……どうされました? 金時童子」

「そもそもワシには殺生戒の呪いがかかっておる。今やワシは生きとし生けるもの、蚊トンボ一匹殺すこともかなわぬ……そりゃ!」

アメリが、足元を通り過ぎるゴキブリを踏みつける。

「……このようにの」

アメリの足の裏には、完全に潰れてぺしゃんこになってなお、もともとそのような姿で生まれてきたかのようにモゾモゾと動く奇形のゴキブリがいた。

「ちちうえ、金太郎は良い子なのじゃ! 抱っこしてくりゃれ!」

幼い愛娘アメリの肉体に宿った悪魔に飛び掛られることは、その挙動で分かっていた。NFLの現役ディフェンシブラインの父親は反射的に、重心を低く身構える。

無反動の姿勢から飛びつかれただけで、充分に速度が乗ったバイクにぶつかられるほどの衝撃だった。アメリカンフットボールのプロテクターを装着した状態でかろうじて、その凄まじい衝撃を受けきる。


「ちちうえ、遊んでくりゃれ! おすもうしてくりゃれ!」

その力は、じゃれていてすら興奮状態のマンドリルに近いものがあった。強化ファイバーとプラスチックでできたプロテクターは、刻々と破壊されてゆく。

『これ』は、幼児の形をした熊だ。父は娘の体を借りた金太郎をかろうじて引き剥がし、投げ出す。床に叩きつけることだけは、自制した。


「金時童子!」

ビジネススーツの女が、決して変わることはないかと思っていた表情を変える。

すぐにまた熊の体力で挑みかかってくると思っていたが、金太郎は呆然とした表情を浮かべ、表情をくしゃくしゃに崩す。

「ちちうえーーっ! えぐっ……金太郎とも、遊んでくりゃれ……!」

アメリの体を借りた金太郎は、暴れ泣く。その力は熊そのものであったとしても、心は幼児のままだった。

「黙れ悪魔! 娘から消えろ!」

「金太郎は悪魔ではない、良い子なのじゃーーっ!」

そう叫んだあと、泣きに泣く金太郎はピタリと動きを止めて、泣きやむ。

「……ダディ?」

その子供の中でも冷静で大人しい声は、まさにアメリの声だ。

「アメリ……本当にアメリなのか?」

父親は、小さな体の娘ににじり寄ろうとする。

「金太郎をいじめたパパなんて、だいっきらい!」

アメリは父親を避けるために後ずさる。

「パパは、キンタローをいじめたりしていな」

「うそつき!」

言い終える前に、アメリは切り捨てる。


「下らない嘘を……今のやり取りは、アメリも金時童子を通じて全て見ていたわ」

女は呆れたように溜息をつく。

「どうして……あんな悪魔をかばうんだ?」

「金太郎は、アメリを助けてくれた良い子よ? 金太郎はアメリの暁のともがらで、金太郎とアメリで陰陽の太極。ぜんぜん悪魔なんかじゃない!」

「アメリ、パパの言うことを聞くんだ」

「聞かない! 金太郎はアメリだから、金太郎もアメリのパパが大好きなだけ! 金太郎にはパパがいないんだもの、小さいときに死んじゃったから」

父親はアメリからの言葉の鞭に耐え、硬く手を握り締める。


「……その通り。金時童子に対する無礼、本来ならば命をもって贖うところよ」

「おばさんは黙ってて!」

ビジネススーツの女は押し黙り、八つ当たりに肌色の奇妙な造形物のひとつを蹴りつけた。

「パパは、どうしたらいいんだ……」

「アメリのパパなんだから、金太郎のパパにもなってあげて」

父親は俯いた顔を上げ、気弱に切り出した。

「分かった……キンタロー、聞こえているか。オマエが悪魔ではないのなら、人が壊れる加減を学ぶんだ。人を壊す限り、お前は人間じゃない」

一応の譲歩と、確固たる線引き。

娘と娘に憑依する、幼児の心を持つヒグマが人間になれるかどうかを見極めるための時間が必要だ、と腹をくくる。

「ちちうえ、金太郎がんばるのじゃ」

幼児にしては異常に生命力の強いその瞳光、それが父親の不安を増すのだった。


いつまで経っても応援が来ずレベッカを逮捕できない状況、校内警官は2人の同級生の顔面を叩き潰してなお落ち着き払ったレベッカを署に連行することにした。



「よく聞いとけよ! 女チャック・ノリスことスナッフムービー撮影チーム撲殺犯の名前はエリナ・ウィリアムズ。年齢15歳黒人女性。逃走時にはギャングから

奪った服を着用していたが、現在は既に着替えている可能性が高い」

「逃走? 『全員ぶっ殺して堂々と出て行った』の間違いだろ?」

ホワイトボードを前にした刑事たちは、アカツキ機関から来た女の命令を無視して独自のブリーフィングを行っている。

老刑事は、ホワイトボードに情報を書き込んでゆく。


「いいのか? あのスーツ女の命令無視して」

「なに、かまやしねえ。あいつは今、わが郷土の英雄『怒れる灰色熊』を確保しに行ってる。今頃腰でもくねらせながらヒーローインタビューの

真っ最中だろうぜ」

プロテクターを装着して単身拠点に乗り込み、一人でギャングを全員半殺しにして娘を助け出した男を容疑者呼ばわりする男はいなかった。

「今年の守りは鉄壁だな、ムショにさえブチ込まれなければ」

「やられたほうも、生きてることが不思議なぐらいボコボコにされてるらしいじゃねえか。プロのフットボーラーってなぁ、本物のゴリラかなにかなのか?」

地元のチームのスター(この件でスターになった)の英雄的行動ということもあり、刑事たちは後で署に連行されたら一緒に写真でも撮ろうと

しかねないぐらい盛り上がっている。


「そういうわけで、スーツ女は灰色熊にケツ振るのに忙しいんだ、俺たちの仕事はエリナのほうになる。なお、発見次第、まずは名前を確認するんだ。繰り返す、

本人の確保よりも『ミドルネームの確認』を優先しろ」

「……なんなんだよ、それ?」

刑事たちは、口々に疑問の声をあげる。

「それが何なのかまでは分からんが、何かある。スーツ女が、ミドルネームの確認にこだわってたんだ」

「エリナには、洗礼名クリスチャンネームがありませんよ、ただのエリナ・ウィリアムズです」

「それでも、ミドルネームはあるらしい。スーツ女が追ってるのは、妙なミドルネームが最近ついた女たちだ」


「……あれは?」

レベッカは両手首を後ろ手にケーブル結線用のビニール紐で拘束されている。同級生男子2人の顔面を叩き潰した犯人を校内駐在警官一人で護送するには

仕方がない措置だったと警官は考える。

「関係ない、こっちだ」

若い警官は疑問に思う。かわいくて金持ちで人気者のユダヤ人少女が、なぜスクールカーストを自分で破壊するような行動に出たのか?

そもそもレベッカは、女子のスクールカーストのほぼ頂点付近にいたはずだった。

この手の事件を起こすのは、たいがいスクールカーストが低い男子生徒のはず。しかも、顔面を叩き潰した相手はいじめの直接の実行犯になる一軍半のよ

うな手合いではなく、スポーツマンとギャングのトップ双方である。

校内駐在として中学生たちを見ている警官には、レベッカこそが粗暴犯罪から最も遠い位置にあるように見えて仕方がなかった。


「今から取調べを行う」

現段階で相当な美人である中学生の女子だから、つい優しく問いただしてしまいそうになる自分を戒めながら、警官は宣言する。できるだけ声色は無色透明に。

「氏名と年齢は?」

「レベッカ・義輝・ミンツ 14歳」

「洗礼名はどう書くんだ?」

「洗礼名? ……おお、あざなのことか。英語の綴りならば、知らん。縛を解いてもらえれば書ける」

粗暴犯として逮捕された少女は、落ち着き払った態度で言ってのける。

「分かった。今から紐を切るが、暴れるんじゃないぞ」

「心配せずとも、暴れはせん」

警官はカッターナイフで、レベッカの両手を縛りつけたビニル結線を切る。

レベッカは手首をさすったあと、鉛筆をつまむように垂直に持ちながら、ミドルネームを書く。

その角張ったグラフィカルな文字は、警官にも漢字だということは分かった。

「これでは、読めない」

「英語での書き方は知らんと言ったはずだ」

「まあいい、とりあえずYosterでいいな? 意味は分からんが」

「注意書きとして添えるのであれば、それで構わん。むしろ、その綴りを覚えておくことにしよう。それより、よいか?」

「なんだ」

「ユダヤ人は洗礼を受けん。ゆえに、ミドルネームは洗礼名ではないそうだ。知っておったか?」

「そんなことはどうでもいいだろう」

警官は、自分を試すような謎かけを一刀のもとに切り伏せる。

「ふむ、警官殿においては詮無きことであったか。会話の糸口が切れてしもうた」

「話すことならあるだろう、同級生2人を殴りつけ、顔に大怪我を負わせた。君のような女王蜂クイーンビーが、なぜだ?」


「女王蜂とは、どういう意味じゃ?」

「男にモテモテで、何不自由なく楽しく学校生活を送る、キミみたいな学校一のお嬢様のことだ」

「……ふむ、悪い意味ではなさそうじゃの。実は醜女なのではないかと疑っておったが、そうではないようでなによりじゃ。じゃが、問題というのはそこよ」

「クイーンビーが気に入らないのか?」

「スクールカーストと言うのかのう? それがどうにも気に食わん」

「キミはその頂点だろう? ナニが不満なんだ?」

「女王蜂は決して頂点などではないぞ、警官殿。ただ単に、頂点の『褒美の品』ということであろう。浅ましきことよ」

それは、女子においてのスクールカーストの本質だ。

「……で、それが気に食わなくて、殴ったのか?」

「半分は、当たっておる。レベッカはレベッカであり、褒美の品などではない。ましてや学校のようなくだらぬ寺子屋の牢名主のモノごときではない」

学校はとてつもなく刑務所に似ているということは、駐在警官として教師や生徒を傍観しながら感じていた。

「だから……あんなになるまで打ちのめしたのか?」

「肘鉄で横っ面を小突いたまでよ」

肘は通常の人体で最も硬く、痛覚が少なく、破壊力がある。だからといって、小突いた程度で顔面の骨が砕けはしない。

警官は、目の前の美少女が笑うのを見た。それは美少女の媚びを含んだ微笑みではなく、本来の意味での微笑みだった。

もともと、笑いや微笑みは「威嚇」の表情だったという。警官は昔何かの本で読んだ記事を思い出した。


「レベッカは『既に義輝のもの』なのだ。なんぴとたりとも、この侵害は許さん」

レベッカは唇の片方を吊り上げ、白い歯を見せる。それは、原初の微笑みそのものだった。

「そして気に食わぬ習わしならば、いっそレベッカが頂点に立って打ち壊しても良いのではないか?」

多少やり方は強引だったかもしれないとはいえ、自分に好意を寄せる男子2名の顔の骨が陥没するほどの怪我を負わせた本当の理由が、『それ』

なのか。若い駐在警官は不敵な笑いを浮かべる少女・レベッカを呆然と見る。


「まこと、下克上は世の常よ。そして克すべき上がある下とは、これまた好きものよな。……そうは思わぬか、警官殿?」

「……オマエはいったい何者なんだ」

「だから先ほどから名乗っておろう、レベッカ・義輝・ミンツであると」


レベッカは、独房に入れられている。

しかし、最初から独房に入れられたわけではなかった。最初は留置された娼婦や麻薬中毒の女たちのうごめく拘留房に入れられた。

「義輝、聞いてる?」

『ああ、聞いておるぞ』

虚ろな目、剣呑な目、疑念の目……レベッカは、今まで晒されたことがない様々な視線を受けている。

育ちのいい中学生の美少女が入れられるようなところでは、断じてないのだ。

「……怖いよ、助けて」

『どこがじゃ? 旨そうな女たちではないか。いやらしい身体でわしを誘っておるわ!』

怖がるレベッカの視界から、女を肉として物色している虎がいた。

「そういやアンタ、男だったわね。怖くないんだったら替わってなんとかしてよ!」

『やれやれ、さっき替われといって、また替われというのか……いったいどういう了見じゃ』

「だってここに入れられたのって、義輝が事情聴取で変なことを言いまくったせいでしょ!」

『そうなのか?』

レベッカとは正反対の女の物色をやめ、義輝は答える。

「そうなの! だから、なんとかして!」

『ふむ、女あしらいもワシの得意中の得意。任せい』

絡まれることを恐れたレベッカは早々に肉体のコントロールを義輝に移す。

「これほど女に囲まれるのは、忍びで出かけた京の都の遊廓以来じゃ! たぎるのう」

義輝は、密集した女の匂いを思い切り吸い込んだ。

「はぁ? なに言ってんのアンタ。頭おかしいんじゃない?」

「良いぞ良いぞ、ワシは気が強い女も嫌いではないぞ」

義輝は山羊の群れに紛れ込んだ虎のごとく振舞った。

そしてそれまで牢名主だった女を右に侍らせて乳を揉んでいるところを見咎められたため独房にいる。

『どうじゃ、危機は脱したであろう?』

義輝としては、独りで盛大に女遊びをしたのとほとんど同じだったため、満足している。

自分が充分に堪能できた上、レベッカの窮地まで救えたと思っている。

「……もう! 義輝のバカ! スケベ! ヘンタイ!」

独房に、レベッカの声が響いた。

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