【笑いの鉱山】『猫の修理屋さん』
はじめまして、お笑い番組【笑いの鉱山】の司会を務める明石と申します。
この番組は『笑わせる対象を隠したまま』出演者に『ネタを一本』考えてもらいます。
大物芸能人かもしれなければ、タワシかもしれない。考えたネタは最後までやりきってもらいます。
さて、本日も道化の参加者が現れました!
その名も『不良ケーキ』さんです!!
「どうも、はじめまして。不良ケーキです」
活動ネームに意味はあるのですか?
「3等分にケーキが切れないからです。最初はボクを責めましたが、悪いのは丸い形をしているケーキの方だということに気づいたからです」
はは、なるほど。そういう考えも、あるっちゃありますね! よぉし。なかなか面白いネタを考えてくれそうだ。
予選のネタを見る限り『猫』の習性を使ったツッコミが得意に思えます。
「ええ、自信があります。身体は柔らかいので。失敗したらビルの最上階から飛び降りてみます」
死んだらあかん!
「冗談ですのでご安心ください」
……ホッ。
では、不良ケーキさんは、どんなモノを笑かすことになるのか!
ネタが準備でき次第、お声掛けください!
◇
(暗転)時計の音がする。
不良ケーキは、あらかじめネタを幾つも用意していたから自信があった。
大物芸能人に当たった時は、ひたすら猫仕草で「ねんしゅう〜」「いくらぁ〜」「だいふごぉ〜」と鳴く。また、タワシの様な決して笑わないものに当たった時は、ペンチで金具の部位を笑顔にしようと。過去の出演者に比べて真面目で用意周到だ。
しばらく考えて、不良ケーキは、相手が人間でも小物でも無難に笑いに持っていけるネタを一本考えた。
それは……、
◇
────あ、お決まりですか?
……ほうほう。
コント【猫の修理屋さん】ですね?
「はい!」
(得意な猫仕草も道具も使える! 完璧だ!)
本当にそれで良いんですね?
「はい! 1000万貰って帰ります!」
ははは勢いが良い!
それでは、コント【猫の修理屋さん】不良ケーキ。
開始してください。
今回笑かすのは、亀です!
(亀!?)
緑色の小さな亀が水槽のなかでよちよち歩いている。不良ケーキにとっては、予想外のことであった。
(人か物だと思っていた! 亀は計算外だぞ!)
だからといって、諦めたくない。今まで様々な分析をし、用意して、体調管理もしてきたのだ。こんな小さな命くらい、笑わせられなくてどうする。
不良ケーキは、今までの人生から、亀を笑わせられないか考えた。
水道の蛇口に指をあてて勢いよく蛇口を捻ったり、ウーパールーパーが空気清浄機の泡につられて、浮遊しているのを見てゲラゲラ笑っていた。
最悪、番組で亀が笑わなくても、観客が笑えればそれが良い。
「にゃ〜亀さんやー、炭酸風呂でもどうですかにゃ?」
不良ケーキは、多くの観客の視線に焦りつつも亀を空気清浄機の上に置いた。観客が悲鳴を上げる。
比重の重い亀は、空気清浄機と水槽の間に挟まってしまったのだ。笑われる以前の失態。不良ケーキはあらゆる道具を使って、亀を助け出そうと考えている。
(ボク……何しにここまで来たんだろ……)
自暴自棄になった不良ケーキは、水槽を割って亀を救出した。辺りが水浸しになる。観客の静けさと、チラホラ聴こえる歓喜の声。
ヤケクソになった不良ケーキは『笑顔』だった。
なぜ分かったかって?
それは、亀の瞳の中に不良ケーキの表情が映っていたからだ。亀が死ななかったことへの安堵と一段落つけられたという安心を表した顔だった。
これは、亀が笑ったことにならないか。
不良ケーキが頓知のような理屈を主張すると、審議の結果。見事不良ケーキは賞金1000万を手にした。
──しかし、
割った水槽代と、濡れた床やセットの賠償額とを併せると、彼のもとに残るお金は、だいぶ減ってしまうのだとか。




