表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

〇黄泉返り仙人と少年道士 ~師匠は幼女で尸解仙!?~

作者: Fの導師


「師匠、おはようございます。」


 朝、日が昇り始めたばかりの時間。まだ薄暗い山の中で一人の少年がいた。年の頃は10代後半くらいだろうか、黒髪に茶色の瞳の少年である。

 その少年の前にいる白蝋のような白い肌に白髪・金瞳の幼女がいた。その幼女は見た目こそ10歳にも満たないような幼い姿であったが、どこか大人びた雰囲気を漂わせていた。

 そして彼女は巨大な岩に座り、岩の上には巨大な木も生えていた。


「おはよう、陽獅。今日もいい天気だねぇ」


 幼女はそう言いながら背伸びをする。そして岩の上から飛び降りると、少年--陽獅に歩み寄る。


「師匠、今日は何を?」


 陽獅は幼女のような見た目の師匠--白娘々に尋ねる。すると彼女は微笑みながら答えた。


「今日は山菜取りだよ、一緒に行こう。」


「はい!」


 二人は山菜を採りながら他愛のない会話する。そしてある程度山菜を採り終えたところで休憩することにした。


「さて、そろそろ帰ろうか。…しかし、ここを通るとお前を拾って弟子にしたときのことを思い出すのう」


「師匠、ありがとうございます」


「何を言っておる。拾ったのも、弟子にしたのも、すべて儂の意志じゃよ。それに礼を言いたいのはこちらだ。あの日からもう何年経ったことか……」


 少女はそう言いながら、幼い見た目の身体を精一杯背伸びして、少年の頭を撫でる。そんな師匠の様子を陽獅はどこか微笑ましくくすぐったそうにして笑っていた。


「師匠、あまり僕の頭を撫でるのはやめてくださいよ。恥ずかしいです。」


 彼はそう言ったものの、本気で嫌がっている様子ではなかった。


「何じゃ、減るものではないだろうに……まあよいか」


 すると白娘々は陽獅の頭から手を引くと、言葉をつづけた。


「あの時のお前は10を少し超えたくらいの年の頃で、身の丈も小さく頭をよしよししやすかったんじゃがのう」


 そう言って歩き出した彼女は、陽獅と初めて出会った時のことを回想していた。



 あの日は不意に森がざわめくような感覚があり、白娘々が暇つぶしにと歩き回った時に怪異に襲われそうになっている少年を見つけたのだ。

 少年は特異な気を発しており、それが怪異を誘引し興奮させていたのだと彼女は見抜いた。彼女はすかさず怪異を撃退し、まだ怯えうずくまる少年に声をかけた。


「おい、もう大丈夫じゃ。こちらを向いて名を名乗れ」


 彼女の声に少年は顔をあげて彼女の方に向いた。


「僕は…陽獅、です」


「ほう。良い名じゃな。…じゃが、その身なりからして孤児か? 帰る家がないなら、わしとともに来るがよい」


「え!? いいんですか?」


 陽獅は驚いたように声をあげた。


「うむ、構わんよ。」


 白娘々はそう言うと少年に手を差し伸べた。少年はその手を取ると、彼女は微笑んだ。


「さて、では帰るかのう」


 そして二人は手を繫いで、彼女―白娘々の洞府(仙人の住まい)へと向かっていった。



この日から、白娘々と陽獅の師弟生活が始まったのだった。



 回想を終え、現在の洞府。

 陽獅は師匠である白娘々の指示のもと採取してきた山菜と薬草を煎じて仙薬茶を作っていた。


「師匠、これでいいですか?」


「うむ、上々じゃ。」


 陽獅は師匠である白娘々に仙薬を煎じる技術を叩き込まれた。その甲斐もあり、今では洞府の薬の管理を任されるようになっていた。


「しかし……このところ怪異が多いのう」


 白娘々はそう呟いた。最近になって怪異による被害が頻発しているのである。


「そうですね……何かの前兆でしょうか……」


 陽獅は心配そうな表情を浮かべていた。そんな弟子の様子に白娘々は取り繕うことなく事実を告げた。


「十中八九、お前の体質のせいじゃろうな。ある程度はわしの術で抑えていたとはいえ、お前の成長とともに怪異を誘引する気も強くなってきておる。お前の気が極まって『太陽の気』となれば良いが、それはまだまだ先の話。だからこそ、わしはお前に仙薬の知識や技術とともに、武術も教え鍛えてきたのじゃからな」


「僕の気が強くなり、怪異を引き寄せてしまうことを逆に利用して、僕が怪異を調伏するためですね」


陽獅は白娘々から授かった『獅火神の剣』を手に、彼女から学んだ『獅火神流剣術』の術技を頭の中で反芻した。


「その通り。とはいえ、お前の力が強まれば必然と怪異に狙われる可能性も高まるしのう。……やはりあまり気が強すぎるのは考え物じゃがな」


 そう呟いてから白娘々は何か思いついたようにポンと手を叩いた。


「そうじゃ陽獅よ!お主、霊気の流れが見えるか?」


 唐突に白娘々に尋ねられた陽獅は少し戸惑った様子で答えた。


「霊気ですか?ええ、見えますけど。霊気を…ひいては万物を構成する元氣が見えることが基本中の基本と言って、師匠が徹底的に仕込んだんじゃないですか」


「おお、そうじゃな。では、まずはこの山で儂ら以外の霊気が感じられるか試してみよ。……ああ、もちろん『気』の感知は抑えてじゃぞ?」


 白娘々がそう言うと、陽獅は頷いてから目を閉じた。そして意識を集中し周囲の気配を探る。すると彼の周囲にいくつかの霊気を感じたのだった。


「……感じます」


「うむ、その感覚を研ぎ澄ませればさらに多くの気配を感じ取れるはずじゃ」


 師匠の言葉に従い、彼はさらに精神を集中させていった。すると白娘々の言うとおりさらに多くの気配を感じ取ることができたのだった。


 そして意識を周囲に向けていくと、仙境に住まう鳥獣の気配、さらには仙境を満たす清浄な気を感じ取ることができた。


「霊気を感知し、天地の気を識り、根源の『流れ』を読み解けば、百害を避くことができる」


 白娘々はそう語り、陽獅はゆっくりと目を開けた。


「……吉凶占術ですね。僕にはそこまでの理解は及びませんが、丑寅の方向に暗く澱んだ気配があるのを捉えました」


 陽獅はそう言いながらその方向を指差した。それに白娘々は満足そうにうなずいた。


「ふむ、まずは合格じゃな。霊気の流れを感じ取る能力があることが前提ではあるがな」


 そう言って白娘々は陽獅に、次の修行の内容を告げるのだった。


「さて次は『気』を感知し、その流れを読むことじゃ。……とはいえ、これはもうすでにある程度できるようになっておるからのう……」


 白娘々はそう言いながら考え込んだ。そして少ししてからポンと手を打った。


「……そうじゃ、お前の体質をさらに利用してみようかの。お前の強い陽の気を周囲の霊気に乗せて薄く広げていくように周囲に波及させていくのじゃ。そうやって広げた陽の気に怪異の濁気が触れたら今度は気をそやつに集中させて、意図的にお前の所へ怪異を誘引するのじゃ」


 白娘々はそう指示すると、陽獅に意識を集中させるように促した。そしてそれに彼は従う。

 彼の中に今まで感じたことのないような不思議な力が湧き出しているような感覚があった。その力を少しずつ外へ放出するように、意識を向けると……周囲に漂っていた陽の気がゆらめきながら彼を包み込むように集まり出したのである。

 そしてそれが怪異の方向へと流れていったのだった。


 狙い通り、しばらくすると怪異の気配を感知した陽獅はその方向へ向けて走り出し、その姿が見えなくなると、白娘々はゆるりと観察に向かった。


 そうして間もなく、陽獅と怪異が接触した。

 怪異は漆黒の鱗に覆われ、刃のような翼の生えた前肢と強靭な後肢を備え、太く長い尻尾を持った巨躯という姿をしていた。

 そんな恐ろし気な姿の怪異を前にしても、陽獅は怯え竦むこともなく『獅火神の剣』を構えた。それは剣と呼ばれども形状は2尺3寸の刀身を持つ鋭利無双の刀であった。

 そして陽獅はその刀をしっかりと握りしめ、呼吸を整えてから怪異の懐に飛び込むと素早い連撃を繰り出した。その剣筋はまさしく達人の域であり、妖怪の強靭な鱗に覆われた皮膚や外殻を貫き、深々と肉を抉り始めた。


 しかし、異形の怪物である怪異もまた強者であった。

 妖異は強烈な雄たけびをあげて傷ついた体を奮い立たせると鋭い牙で陽獅に襲い掛かったが、彼はそれをぎりぎりまで引き付けて回避する。と同時に、怪異の攻撃の動線上に置くようにして振るった刃で反撃を入れた。

『獅火神流剣術』の匠位巧・刃流刀という技である。

『獅火神流剣術』には純粋な刀剣と体捌きによる物理的な術技である「匠位巧」、剣風や衝撃波を生み出す斬撃を放つ「天位巧」、仙術を併用して放つ奥義にあたる「神位巧」の三つの位階があり、陽獅は怪異の強さを把握するためにまずは基本技ともいえる匠位巧の技で対応したのだ。


 その一撃で怪異の鱗が裂け、肉に刃が届く。

 陽獅はそのまま攻撃を続けようとするが、怪異は前肢に備わった刃翼を振るって強烈な斬撃を放ってきたため、彼も全力で回避することを余儀なくされた。

 そして、さらに間合いが離れたところで怪異はその巨大な尻尾を振るってナイフのような鱗を飛ばしてきた。陽獅は『獅火神の剣』で素早く飛来する刃鱗を叩き落としながら攻撃の機会をうかがう。


「下手に近づくと危険なら、こうだ!」


陽獅は間合いの外で刀を振るう。すると獅子の咆哮のような轟音とともに衝撃波が放たれて怪異を直撃した。

『獅火神流剣術』の天位巧・獅子吼剣という技であった。


「グオォォォ!!」


獅子吼剣による攻撃で怪異の皮膚が裂け、鮮血を噴き出す。だがそれは彼にとって好機でもあった。

 彼はそのまま畳みかけるように攻撃を繰り出し続けていく。


 一方で、白娘々は弟子の戦いぶりを眺めながら自身の思考を回していた。


(ふむ……相手の攻撃範囲を見切り、匠位巧と天位巧を選びわけられておるようじゃな。良い判断じゃ)


 白娘々がそう感心していると、戦いの中で陽獅がさらなる天位巧・獅子爪牙を繰り出した。細かな斬撃から連続で衝撃波の弾幕を展開し、空気を切り裂く刃翼と強靭な後肢で素早く動きまわる怪異を捉える。

 連続衝撃波は一撃の威力は落ちるが多段命中することで怪異の足を止めるには十分な効果があった。


 そして、足を止めた怪異に対し、陽獅は仙術の炎を身に纏い、必殺の剣術として突撃した。


「『獅火神流剣術』神位巧・襲牙獅煌閃!!」


 それはまるで炎の獅子の如く、猛烈な突進と仙術の炎、そして強烈な斬撃が三位一体となって怪異を打ち倒したのだった。


 白娘々は弟子である陽獅の奮戦ぶりを見て満足げにうなずいた。そして、彼が戦いを終えて戻ってきたところで声をかけた。


「よくやったな、陽獅よ」


  彼女はそう言って弟子に労いの言葉をかける。すると彼は少し照れた様子で頭を掻いていた。


 そんな様子も微笑ましく思いながら白娘々は彼の頭を撫でてともに同府へと帰るのだった。



 〜終幕〜


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ