89 薬販売はこちらです
翌日、他の用事を済ませて、さあ工房へ行こうと思っていたら、訪問者が続々と城へやってきた。
「カリダ町の商人でございます」
「オーリトの町から来ました、薬屋でございます」
こんな調子で自己紹介してくれたのは、五人の商人。
全員が薬を買いたいと希望し、領主の方で扱っていると聞いて城へやってきたそうだ。
「ほんとうに素晴らしい薬で!」
「塗ってみたら翌朝には綺麗になっておりました!」
口々に薬について褒めてくれるし、その表情からにせものとは思えない喜色がうかがえる。
「ぜひ売っていただきたい」
商人達に、どれだけ売るかを考えていた私に、後ろから声をかけたのはセレナだ。
「領主様。よろしければ、私の方でこちらをさばきましょうか? お忙しいでしょうから」
「あ、ほんと? それじゃ在庫の半分を公平に分けてほしいの。価格は……」
これ幸いにと、私は希望価格をセレナに伝えて、一任した。
私は予定を変更して追加の薬を作った後、夕方に結果を聞いた。
「はい、在庫の半分は全て売れました。価格は一個あたり銀貨10枚で」
「ん? 10枚?」
銀貨20枚で金貨一枚になる。
ちなみに通常取引される硬貨は銅だ。
銅貨一枚でパン一個。
銅貨100枚で銀貨一つ……。
「私のお願いした値段より、ずいぶん高くなったような」
「領主様からは銀貨一枚とうかがっていましたが、ここでしか買えない秘匿している製法の物なのでと申しましたら、勝手に商人同士でより多く買いたいからと価格を上げてくださいまして」
セレナは何もせずとも、五人で申し合わせて銀貨10枚となったらしい。
「そうしたら、予定以上にお金が入る……」
「はい」
セレナがうなずき、私はぱっと笑顔になった。
「じゃあ、食料を追加で注文、あと予備の剣も。木材も必要だからそっちも頼みたいの。できれば出張で作業をしてくれる大工が雇えると嬉しいんだけど」
こうなったらバンバン必要な物を買ってしまおう。
セレナはにっこりと微笑んで請け負ってくれた。
「承知いたしました。あと、追加の薬の買い付けについて質問がありまして。最近の薬の調合量から、一週間ごとに限られた個数を売ることにいたしました。他に商人が来ても対応できるよう、商人一人につき、今回の三分の一の量をと思っております」
なんと、セレナは販売ルールまで作成していた。
「これで、他の物を作る余裕もできますでしょう?」
「うん、合間にやらなきゃいけないこと、沢山あるから。薬ばかり作っていられないものね」
想像以上にセレナは有能だった。
商売の才能もあるみたいで、とてもありがたい。
それならと、翌日は早速懸案の一つを片付けることにした。
魔剣の修理だ。
ロージーに声をかけると、ルジェと一緒に工房にやってきて修理の必要な剣をまず一本差し出した。
「これ、使う必要がある奴だから早めに見てほしーなって」
ルジェの剣だそうな。
魔石からの魔力の流れは大丈夫。
だけど使えないのなら……。
「よし、これで」
いつもの鉱石の魔力を測っている道具を、魔剣の魔力供給源である魔石にふれさせる。
魔力が減ってるようだ。
「この魔石って、魔力を足すことは可能?」
「いや、いつも変えてるかな」
「じゃあ、交換しましょう」
私は火竜の洞窟から取って来た魔石を出す。
革袋に沢山入れていたうちの、形が合う物を探して一個一個あててみる。
なにせ私に石の細工技術や、石に合わせて魔術回路をどうこうすることはできないので。
ほぼ同じ大きさと合う形の物を見つけたので、それを単純に交換した。
「ちょっと試してくる!」
ロージーが剣を持って外に出る。
窓を開けてみると、ロージーが広い場所に向かって剣を軽く振り下ろしていた。
剣からぼぅっと炎が噴き出す。
それでお試しは終わったのか、ロージーが走って戻って来た。
顔がにこにこだ。
「ほんとに修理できるんだなー! 錬金術師って!」
ロージーが感心したように言う。
「ちょっとした物だったら、ですよ。レンデル女史が刻んだ回路がダメになっていたら、そっちはさすがに魔術具師を呼ばないとだめですけれど」
「一応全部チェックしてくれよ! 魔石交換だけでいいなら、大変そうだから俺達が自分でやるし。ダメなのあったら、魔道具師を呼んでほしい!」
率直に要求を言われて、むしろ小気味いいほどだった。
この素直さが、ロージーが隊長をしている理由なんだろうな。
「そうですね、魔道具師を呼ぶなら早い方がいいですし。今日中にチェックしてしまいましょう」
そうしてこの日、ロージー達に持ってきてもらった剣の全てを確認しきった。
幸いなことに、私が回路を強くするか、魔石を交換する程度でどうにかなる物ばかりだった。
「これで傭兵隊も安心して戦える」
ひと段落して、夜一人になってからほっと息をつく。
ただ、ふと心に過る不安がある。
おそらくベルナード軍を前に敗退した未来でも、彼らはいたはずだ。
リュシアンは西へ行くのは最初から決まっていたし、戻ってきてくれただろう。
ベルナード軍によってハルスタットが攻め落とされる未来を見たなんて、あの時は話していなかった。
話していないのに、ロージー達レンデル傭兵隊をここに呼んでくれていたのだから。
ロージー達がいても、敵わなかった。
そんな軍を相手に、私はどうしたらいいんだろう。




