88 傭兵さんと採取へ 3
ニルスが早速近くの魔石を掘り出しにかかる。
用意がいい彼は、シャベルやハンマーのような物まで持っていた。あ、楔も。
「領主様、大きさに指定などはございますか?」
「大きくても小さくても大丈夫」
どっちも爆弾に使える。
(やったわ! これで少量しかだめかと思っていた爆弾も、他のこともできるかもしれない)
私も採取用のシャベルで掘り出し、ニ十個ぐらいを回収。
ロージーとルジェは、フレッドが馬にくくりつけていたスコップを持ってきてくれたので、それで一気に魔石を掘り出していた。
「ロージー、魔剣の数だけにしておく」
「え、こんなに沢山あるのに」
「沢山あるなら、少しぐらいポッケナイナイしたっていいじゃん。領主ちゃんも持って行っていいって言ってただろ」
「これだけあるなら、魔剣の修理に使う分は領主様の方で採取した分を使ってくれるし、臨時収入はみんなでわける」
「わーったよ」
ルジェに金銭関係の決定権を握られているロージーは、素直にうなずいた。
「ニルスもフレッドも、二つ三つ、持って行っていいわよ」
「え、本気ですか?」
フレッドが驚いている。
考えてみれば二人は、どの採取物の数もちょろまかそうとはしなかった。
普通に売るのが難しいのもあるし、そのままでは価値がないものも多かっただろうけど、薬草なら乾燥させれば二人が勝手に売ることだってできたのに。
私としては、いつも面倒ごとを頼んでばかりいるので、申し訳ないなと思っていたところだった。
「ええ。これからどうなるかわからないから、財産として持っていてもいいし、それで防具を整えてもいいと思うから」
「どうなるかわからない、ですか?」
ニルスがさっと表情を変える。
「もしかして、この領地はどこかから襲撃を受けるのですか……いや、そうなんですね? 領主様」
「だから傭兵を雇って……」
フレッドのつぶやきに、兵士達は異変を説明されずとも感じ、予想はしていたのだとわかる。
私は彼らには知っておいてもらおうと思った。
わりと私の頼みであちこち動いてもらうことが多いので、他の人よりも早くどこかで耳にしてしまうかもしれない。
それなら、先に知ってもらった方が秘密を守りやすいから。
「もう二か月以内くらいには、隣国を攻め落としたベルナード王国軍がやってくると思う」
フレッドとニルスが息をのむ。
「間違いないのですか?」
ニルスの問いに、私はうなずく。
フレッドが無言でうなだれた。
「領主様は、この領地を守るおつもりなんですね?」
「そうよ、ベルナード軍は特殊すぎるわ。逃げたところで、この国はすぐに攻め落とされてしまうかもしれない。なにせ、魔物を使役できているらしいの」
「え……。聞いたことないです」
目を見張るフレッドに、ロージーが言う。
「でも本当なんだよなー。俺らは目の当たりにしてきたから」
「だからこちらの傭兵隊をお雇いになったのですか。経験者はとても価値がある……」
ニルスが考え込むようにつぶやいた。
「そうなの。実戦経験がある人が来てくれて、本当に良かった。というわけで、対策の手伝いのためにも採取をよろしく」
私が茶化すようにして切り上げると、ニルスもフレッドも少し肩の力を抜いたようだ。
ずっと穏やかなハルスタットに住んでいて、戦争になるだなんて想像もしなかっただろうから。
「じゃー俺、もうちょっとあっちの方も見てみるよ、ランプ貸してくれよー」
ロージーがニルスにランプをおねだりし、先を見に行く。
危険がないかを見に行くんだろう。
なんて思ってたら、すぐにロージーは取って返してきた。
その表情はこわばっている。
「ロージー?」
「領主ちゃん、そーっと見に来てくれない?」
なんだなんだと、結局全員が採取の手を止め、忍び足でロージーの後に続く。
曲がり角を一つまがり、十数歩進んだところで、次の曲がり角の前でロージーは足を止める。
「ここから覗いてよ」
言われた通りにした私は……叫びそうになって口を手で覆う。
土がつくかもなんて考えなかった。
叫んでバレる方が怖い。
全員、思いは一緒だったようだ。
「竜……いっぱい」
ささやくような声で言ったのは、ルジェだ。
視線の先には、大きな空間があるようだった。
そこに、見た覚えのある火竜がいた。
一匹だけならまだしも、卵から還ったばかりのような、小さな子竜が三匹……。
全員で静かにそろそろと引き換えし、採取をしていた場所を通りすぎ、外へ出たところでようやく全員が息をつく。
「竜が増えてる……」
ぼうぜんとしながらつぶやくと、ロージーが「うへぇ、びっくりしたー」と言う。
さすがのロージーでも、竜を相手にするのはごめんこうむりたいようだ。
平気な顔をして戦ってもいいよ? と言えるのは、リュシアンぐらいだろう。あの人が異常なんだ。
「まさか子供がいるとは思いませんでした」
「ちっこいのが三匹って……、あの竜、腹いっぱいになるまでこないだ食べてたのって、卵がいたからかな?」
フレッドが緊張から解放されたあまり、普段らしい口調でニルスに言っていた。
「かもしれない。今まで村で捧げてた雨キノコの量とは、けた外れの量を食べてようやく収まったあたりからして、おかしかったから」
「そうよね。数十年毎だから、記録間違いか、何かがあったのかと思ったら……子供がいたのだとしたら納得できるわ」
私もうんうんとうなずく。
「竜、可愛い」
ルジェだけはなぜか頬を染めて喜んでいる。
「火の魔石を、炎にして食べてたの、初めて知った」
そういえばとルジェの言葉に気づかされる。
火竜は、火の魔石をそのまま食べないらしい。
前足で砕いて、その動作で何か魔術をかけるのか、炎にしてから食べていた。
子竜にも、炎を食べさせていたので火竜の魔石の食べ方はあれが普通なんだろう。
「でも、火竜がなぜハルスタットのこの火山にいるのかがわかりましたね」
「火山だからだけじゃなく、火の魔石も豊富だったからかもしれないわ」
ニルスの言葉に、私は同意する。
「やっぱり、もらう領地はハルスタットにして良かった」
喜んでいると、現地民のフレッドが嬉しそうな顔をする。
やっぱり故郷を褒められるのは気分がいいものなんだろう。
「子供の頃は、なんの変哲もない土地だと思ってたんですけど、領主様が喜ぶぐらいに色々見つかって、初めて誇らしいなって思えた気がします」
「鉄にするには純度が低い鉄鉱石でも、利用してもらえて、嬉しそうにしてくれるのは本当に良かったです」
フレッドとニルスの感想に、私も微笑む。
「お役に立てて良かった」
それを見ていたルジェがぽつりと。
「なんか、ほのぼのとした土地、穏やか」
「でもまぁ、穏やかじゃない理由で色々やってんだし、雇われてるんだよなぁ俺達」
頭の後ろで腕を組むロージーの言葉に、うなずく。
「ほんとうに、あの問題さえなければねぇ」
もっとのんびり暮らせたのに、と私もこぼしてしまった。




