87 傭兵さんと採取へ 2
そんな話をしているうちに、森へ到着した。
「いつもの物を探すので大丈夫ですか?」
ニルスが聞いてくれるのでうなずく。
「今日はロージーとルジェがいるから、私から離れて採取して大丈夫よ」
三人だけだったら、私から離れると困るのだけど、今日は護衛役が他に二人もいるものね。
一応ポンLV2は持ってきているけど、魔物は倒せないだろうし。
早く、もっと強い爆弾を作らないと……。
そうして私も、ロージーとルジェが警戒してくれているので採取を始める。
近くに入眠作用がある薬草バレリアンを摘み、少し離れたところにはトーカが生えていた。
よしよし、と戦果に笑みを浮かべながら採取。
「錬金術って、けっこう地道」
ルジェがそんな感想を漏らす。
「先生だって、ずーっと机に向かって細かいことばかりしてたし、こういうのってだいたい地道なんだろー?」
ロージーはおおざっぱながらも、その地味さは理解しているらしい。
「そういえば二人は、魔道具師になろうとは思わなかったの?」
せっかく養母が魔道具師なら、すぐに勉強をさせてもらえただろうに。
ロージーの方はあっけらかんとして言う。
「それがさー、俺ってバカすぎて無理だったんだよねー」
「ロージー、計算できない。僕は剣を使ってる方が楽しい」
二者二様の理由だったらしい。
ルジェはその背格好や雰囲気に反して、屋内での細かい作業は気が向かなかったんだろう。
できるけれど、心がどうしても反発してできないことってあるものだ。
「領主様、このくらいでどうでしょうか」
あれこれ摘んだところで、ニルスとフレッドが戻って来た。
見せてもらったところ、薬をもう一度同じ数を作れそうな量がある。
「森はそろそろいいかな。次は火山を見て回りましょう」
「祭壇の方へあがるんですか?」
ニルスの問いに首をかしげる。
「何かあった?」
聞くと、ニルスがちょっと困った顔をする。
「実は昨日、森の少し奥へ行っていたんですけれど、祭壇の方に火ネズミが沢山うろついているのが見えまして」
今回は雨キノコを運ぶという共通の目的がないので、襲われるかもしれない。
もちろんみんなが退治はしてくれるだろうけど、怪我がないに越したことはない。
「それなら、山のふもとをぐるっと回り込んでみましょう」
上の方だけに採取できる物があるわけではない。
ふもとの方に崩れて落ちてきた物とか、何かいい物が露出している可能性だってある。
「足、大丈夫ですか?」
フレッドが心配してくれるけど、問題ない。
「ここまで馬で来てるし、通れる限りは馬移動だから大丈夫」
そういうわけで、私達は山の方へ移動した。
傾斜のない場所を選んで、馬に乗ったまま山をぐるっと見ていく。
特に火竜が出て来る様子もないし、火ネズミは祭壇近くにちらっと炎が見えたが、集まって騒いでいるようでもないので、大丈夫だろう。
山の裏手まで回ってくると、人が踏み込まない場所なので木の枝葉が低い場所にも張り出して馬では通りにくい。
馬を引きつつ、フレッドとニルスが枝払いをしてくれたので、進んで行けた。
ちょっとずつ登るように先へ行くと、少しむわっと温かい場所に出た。
他よりも木々が伸びやすいはずなのに、木が少なくて草ばかりの斜面だ。
側には山側に洞窟が口を開けていた。
「なにかしら」
馬に乗っているので急斜面は登っていないので、ここは山すその方だと思う。
なのに、火山の熱気が来るとは思えないけど……。
「温泉があるとか?」
ロージーが首をかしげつつ言う。
「もしかして、竜穴かもしれない……」
ふいにフレッドがつぶやいた。
「竜穴?」
「この火山、あんまり食べられる作物がない山だから、人が近づかないんですけど。鉱石を探そうとする人間はまぁ一定年数ごとに現れるみたいで。だけど、竜穴があって、そこから火が出てくるから入るなって話があるんですよ」
「あら」
ハルスタットの町で火山に関して言われることは、たいてい竜が絡むとみている。
だからこの穴も、竜がらみなんだろう。
「やっぱり竜が出るんでしょうかね……」
ニルスも私と同じことを考えたようだ。
「え、ここ竜がいるのかー? すっげー」
軽い調子で目を輝かせるロージーが、いそいそと洞窟をのぞきに行く。
「ちょっ、わりと本当に竜がいるから気を付けて!」
そう言いながらも追いかけてしまったのは、私も何か発見できないかという興味に勝てなかったからだ。
結局、木に馬をつないで、全員で洞窟をのぞきに行ってしまった。
先に斜面を少し登って到着したロージーが、こちらを振り返る。
「ぱっと見はなんにもいないぜ!」
「ロージー騒ぎすぎ」
ルジェが苦言を口にしつつも、隣に並んで中へ入っていく。
彼も興味深々なようだ。
「領主ちゃん、何か見つかったら俺も持って行っていい?」
ちゃっかりそんなことを聞いてくるロージー。
「沢山あったら、少しぐらいはかまいませんよ」
そんなことを言っていた私だけど、正直、見つかるのは硫黄とか、この山でよく見つかる鉄鉱石とかぐらいだろうと思っていたのだ。
――けれど、それどころじゃなかった。
一応、確認しながら少しずつ先行していくロージーは、登り坂をそろそろと進む。
やがてその姿が見えなくなって、少し急ごうとしていたところだった。
「あっ」
ロージーが珍しく潜めた声で驚いている。
急いで登ったルジェは、その先を見て絶句していた。
一体何があったのか。
二人が動かないので、危険な魔物がいるわけではないだろう。
そう思って坂を上がった私も、言葉を数秒失った。
洞窟の先には、あちこちに何かの結晶がある。
時々地上に通じる穴が開いているせいで、洞窟の中が少し明るいせいでわかったのだけど、美しい赤色をしていた。
「炎の魔石」
ルジェがつぶやく。
「あれがそうなんだ」
初めて見た様子のニルスも、さすがに美しい赤い魔石に視線が向いていた。
「ずいぶん沢山ある……」
そう言いながら、一応背後も警戒してくれているのはフレッドだ。
彼は何かを発見したがってはいても、目を奪われる対象はきらきらした物ではないようだ。
「領主ちゃん、これ、持って行っていいか? 魔剣に使えるんじゃないかって思うんだけど」
じっと見つめていたロージーは自分や仲間たちの剣のことを考えていたようだ。
「魔剣の不具合が魔石の方にあるなら、交換で直せますし、いいですよ」
「わ、良かった」
ルジェも喜んでいるので、二人は修理が必要な魔剣のことをとても気にしていたんだろう。
母の遺品でもあり、仲間の遺品だからこそ、だろうか。
「私達も、採取していきましょう。錬金術に使えるので」
「承知いたしました」




