83 道を塞ぐ方法を考える 2
まず鉄鉱石。これを沢山。
鉄の成分だけが欲しいので、その下処理をする。
「そこにファイアライトを熱して……」
ファイアライトを、竈の火をつけてその上で熱する。
魔力を込めながら熱すると、ファイアライトが赤い炎を上げ始めた。
それを鉄鉱石を荒く砕いて入れた、大きな鋼鉄の器の中に入れ、かき混ぜた。
その時にも、さらに魔力を込める。
するとファイアライトの炎に触れた鉄鉱石が溶けていった。
全て溶けた後に、種になる純鉄を入れると、純鉄を中心に固まり始める。
器を竈に移動し、炎を弱くして一時間ほど待つ。
すると、おおよその鉄が固まり、それ以外がファイアライトと一緒に溶けたままになる。
そこから純鉄だけを、火ばさみを使って取った。
「さて、この鉄に……確か植物だと思い込ませるための作業を」
『植物だと思い込ませる?』
「そうですそうです。そのために、ちょっと危険ですけど、魔物を使います」
戸棚の下、しっかりと鉄の箱に入れておいた物を取り出す。
中には幾種類かのガラスの容器に入った粉がある。
「植物の魔物の粉……これかな」
『錬金術は魔物まで使うのか。というか粉? 魔物はほとんど炭になるはずだが』
「魔物を燃やし尽くすと、わずかに金色の粉が残るんですよ。それを使います。まぁ、なんでも混ぜてみるもんですよ。そうしたら、驚くような物ができるかもしれませんし」
そんな精神で、あれこれ混ぜて魔改造した品が沢山あるのが錬金術だ。
もちろん師匠もその精神を持っていたので、譲られた品には魔物の粉がけっこうある。
「よし、モゲラ蔦、これで試そう」
『そいつはもしかして、蔦のふりをして攻撃してくる奴……』
カールさんの声が震えている。遭遇して戦ったことがあるのかな?
「綺麗な花を咲かせるから、わかりやすいって聞きました。見たことはないです」
『いや、だめじゃろ。そいつは蔓を延ばして人を切り裂こうとしてくる奴だぞ!』
「もう乾燥してすりつぶされた後ですから。まぁ、ここから復活する手立てもないこともないらしいのですけど、植物と鉄ならかなり存在として乖離してますし」
『鉄を成長させるっていうことは、鉄を魔物にするつもりではないのか!?』
「ちょっと要素を足すだけですよ。きちんと『しつけ』もしますから」
『しつけ……?』
「上手くいった時のために、ちゃんとしますよ」
説明したけど、カールさんにはいまいち伝わらなかったようだ。
首をかしげている。
その間にも、私は再び鉄を柔らかくする処理をした。
調合した薬剤を使用し、鉄の純度を落として、手を触れてほっとする暖かさ程度に温度を加えた。
そして魔物の粉を一つまみ。
「さ、ここからですよ」
こねこねこねこね。
鉄にまんべんなく粉が混ざるようにする。
時々、植物栄養剤を加えていくと、鉄そのものがぴこぴこうごくようになってきた。
『なんかこう、おぞましい感じなんだが……』
「動くとなんだか可愛い気がしません?」
『可愛い……? 頭がおかしいんじゃないのか?』
カールさんが素の表情でそんなことを言ってくる。
その間にも、鉄に混ぜ込んでいくと、しっかりと魔物の要素が鉄に加わったようだ。
ひょろっと勝手に形を変えようとして、そこに私が無言でハンマーを叩き込む。
鉄はびっくりしたように動かなくなった。
でも少しすると、また自分で形を変えようとして、私にまたハンマー攻撃をされた。
やがて大人しくなったところで、苗木のような形になるようにしてやる。
根があって、幹、枝が三本、葉っぱもつける。
最後に忘れちゃいけないことをしておく。
「魔術回路~、ちゃんと食べさせないとね~」
危ないので、ちょっと残していた鉄粘土を平べったくして、そこに模様を刻み、銀の粉を振りかける。
最後に魔力を込めると、銀の粉が一瞬光って燃え、黒い線として刻まれた。
それを幹にくっつけ、しっかりとこねるようにして融合させる。
「さ、できました」
ふぅ、と私は額の汗をぬぐう。
温かい物に触れていたせいで、なんだか暑くなってきていた。
でも完成した鉄の木の苗は、なかなかいい出来栄えだと思う。
ちゃんと枝がぴこぴこ動いているし。
『本当に危険ではないのか?』
まだ怯えているカールさんに、私はうなずいた。
「教科書通りに、ちゃんと人間を攻撃しないように魔術回路も埋め込んだので大丈夫ですよ」
普通の人は魔術を使えない。
でも、魔道具のように魔術回路を使えば、一定の指示をそこに込めることができるのだ。
説明を聞いて、カールさんはしばし黙り込んでから言った。
『わしは少し思ったんじゃがな。移り住む前から勉強していたとはいえ、本格的に錬金術を始めてからすぐ、これだけの量の薬を一気に作って、さらに新しい錬金術を生み出すのは、天才ではないのか?』
「ふっふっふ。ようやくわかりましたか?」
私の弱点は、調合を『長時間続けられない』魔力量だけだ。
「師匠にも、座学を少しかじった程度でこれだけできるのは珍しいと褒められました。さ、これが使えるか試しましょう!」
私は工房から出ると、近くを通りがかった使用人に頼んで、鉄鉱石で主塔の横に積み上げてもらう。
両腕で抱えられる程度の、ほんの小さな小山になった鉄鉱石の中に、例の鉄の苗木を埋めた。
「さてどうなるかなー」
わくわくしながら見守っていると、やがて苗木の幹がぴくぴく動く。
一緒に見ていた使用人や、ちょうど私に用があってか出て来たセレナが、ものすごく気味悪そうに見ていた。
「これはなんですか領主様?」
「うん、秘密兵器」
笑顔で答えている間に、苗木は枝を動かし始める。
それがみるみる伸びていき、幹が太くなり……。
「あ、枝が増えた」
セレナがつぶやく。
枝がにょきにょきと伸びて二股に分かれ、幹からも新たな枝が伸びていく。
ごろっと音がしてみれば、少し嵩が減った鉄鉱石の小山から、伸びたのだろう根が見えていた。
「うん、良い感じ。フレッド達に頼んで、鉄鉱石を取ってきてもらおう」
鉄鉱石があれば、この感じだとすぐに三メートルぐらいの高さになりそうだ。
私はふよふよ左右に揺れて、喜んでいるような鉄の木を見ながら、ニマニマと笑みを浮かべていた。




