82 道を塞ぐ方法を考える 1
それから休憩していると、お昼ご飯をセレナが運んで来てくれる。
「ありがとうセレナ。なんだか給仕みたいなことばかりさせているわ」
「他にも、領主様のお手紙などは代筆していますし、侍女らしいことはしていますよ。衣服の新調などはめっきりですけれど」
貴族婦人の侍女は、話し相手や他の貴族から白い目で見られないように、その時の流行を把握したり、話題を集めてくるようなこともある。
けれど、田舎のハルスタット領ではそんな物はほとんど必要もないし。
そもそも戦争の件が解決しないと。
「そういえば、もし全て上手くいった後も……錬金術の品は売り続けるのですか?」
セレナがそんな疑問を口にする。
「そうね。危機が去るまでは、耕作地を広げることもできないし、領地を守り通した後も何かと物入りになるから……」
今耕しても、踏み荒らされて一から始めた方がいいぐらいの状態になってしまう。だから、開拓や畑を広げてはいない。
でもやり過ごせたら、畑を広げて、作物を育てたい。
「無事に畑を広げられるようになったら、栄養剤で豊作も夢じゃないわ……ちょっと金銭効率は悪いけど、うちの領地だけなら、私の労力とかは度外視できるし」
そんな想像をしていると、セレナが言う。
「せっかくですから、薬草園もおつくりになられてはどうですか? 薬草だけでも売れますもの」
「いいわね、それ。錬金術の材料も育てられるし」
「では、薬草園と錬金術の薬で金庫が潤ったら、ドレスを買いに近くの領地の都市へまいりましょう。そうしたら、ようやく侍女らしいことができそうです」
セレナが片目でウインクする。
私は思わず笑ってしまった。
そんなセレナも工房から出たところで、私は伸びをした。
「カールさーん」
呼びかけると、いつも懐の石の中にいるカールさんが、ふわっと姿を現す。
『なんじゃ?』
「魔力が早く回復するような物って、心当たりあります?」
こういうのは魔術師の方がよく知ってるはず。だと思って聞いてみた。
ちなみにリュシアンに聞くと、何か予想外なことを言われそうなのでやめといたのだ。
カールさんは『うーむ』とうなってから答えた。
『急激な回復には魔物の血かのぅ』
「魔物の血……なんか毒とかありそうな」
とにかく人体に悪そう。
実際に、魔物を食べるのはあまりよろしくないと聞いたことがある。
『ルルンという鳥の魔物なら、という話であった』
「うちの領地にいるかわからないな……」
いてもちょっと……。誰か勇者が試してくれて、無事だったという確実な話が十個は探せないと無理かも。
(でもそうか。籠城戦後、戦争で流通が悪くなった後で肉類が手に入らなかったら、魔物の肉を試すっていう最終手段があったわ)
そんなことを考えつつ、私は火ネズミを思い出す。
あれは大きくて丸々としていた。
でも火に耐性があって焼けなかったら食べられないだろう。さすがに焼かずに食べるのはホント無理。
『まぁ、魔力の高い薬草か、人の血だな』
「え、人の血?」
『人体には魔力がある。その魔力は血流とともにめぐる。知らんのか?』
「存じませんで……」
でも人の血とかヤダ。
自分が魔物になったみたいになりそう。
だから私は、とりあえず採取して来ていた薬草のうち、まだ食べても大丈夫なものを口に運んだ。
クレソンみたいな薬草。乾燥させておいたから、もそもそとするけど、ある程度噛んで水と一緒に胃に流し込む。
「ふぅ。ちょっと足しになった気がする」
休んだのと食事と、今の薬草で確かに元気になってきた。
カールさんはあきれた顔をしていた。
『お前さんは、本当に貴族令嬢か?』
「本当ですよ。かなり放置されて育ったし、家にお金がなかったのもあって、多少野生化していますけど」
さもなければ、貴族令嬢が嬉々として山や森に採取に行くものですか。
『野生化……まぁ、錬金術師ならばその方が良いのか』
「そうですとも。で、もう一つお聞きしたいんですけどカールさん」
『次はなんじゃ?』
「魔術で石の壁を造るとか、そういう物ってあるんですか?」
『あるといえばある。過去に、自分の命を代償に城を高い塀を造って囲んだ魔術師がおると聞いたことがある』
「やっぱりできるんだ……。なら、試すか」
私は「よっと」と起き上がって、棚から本を取り出す。
そこに書かれているのは、鉱物の調合について伝聞を集めた本。
錬金術師が書いたわけじゃない。
私よりも魔力がなくて、どうしても錬金術師になれなかった人が、趣味として伝聞を集めて楽しんでいた物らしい。
(でも師匠が、これも発想の役に立つって言ってた)
実際に調合できないような、荒唐無稽な物も含まれている。
だけど、「もしかしてここをこうしたらいいのでは?」という案を思いつきやすくなるそうだ。
今回、私は領地防衛のため、道を塞ぐ方法を探して夜これに目を通していたのだけど。
「やってみましょうか、伸びる鉄っていう物を」
自然界の中で、鉄は生成される。
もちろん魔力を加えて炎を使い、様々な工程を経て作れるのだけど。
一つ一つ鉄を作って、加工していっても、百人が一か月間その作業をするなら道を塞げるほどの鉄が得られるだろう。
でも、現状は私と、町に一人鍛冶師がいるだけ。
その鍛冶師は、兵士の剣をお願いしているはずだ。
兵士を増やす話をした時に、ギベルがそう手配してくれたはずだから。
とても敵の妨害工作にまで手が回らない。
他所の町から来てもらうにも、人数が揃えられるわけがない。
で、錬金術なのだ。
カールさんが首をかしげる。
『伸びる鉄?』
「大地の魔力を吸い上げて……ついでに魔石を埋めてやると、鉄が成長するという話があって」
『与太話ではないのか?』
カールさんとしても信じがたい話みたいだ。
「挑戦してみても悪くはないかなと思って」
薬を今日みたいに作り続けていけば、二日でリュシアンに売る量はできる。一週間で他の町に売れる量も用意できるだろう。
そのお金を元出にして色々準備しつつ、平行してこっちの可能性も探りたい。
「やっぱり石を積むとか、柵を作るとかも考えたんですけど、すぐ壊されちゃうじゃないですか」
『相手は魔物だからの……』
そんなカールさんの言葉を聞きつつ、私は準備を始める。




