80 まずは大量生産と弟子の修業です 1
最初に大量生産するつもりなのは、薬だ。
「何日ぐらいで作れそうなのかな?」
「今日だけで、たぶん30は行ける」
「じゃあ、私の方でできる限り買っていくよ。そのうち半分ぐらいを帰り道で売って、君の所に買いに行くようにしようか」
辺境伯閣下が薬を売ってくれるなら、どこででも買ってくれそうだ。
しかも購入者がきちんとした人だからこそ、薬もすぐ使うだろうし、効果があれば買いに来てくれるはず。
「もーほんとにありがとう! 安くしとくから! 絶対売れるし!」
ということで、私は傭兵達と雇用契約を結んですぐ、工房へ引きこもった。
一緒にこもるのは、弟子になるアダンとメリー、そしてお手伝い経験者のミカだ。
「はい、では今日から調合のお手伝いをしてもらいます。最終的にこういうことをするんだな、と思いながらやってもらえるといいかな。調合が忙しくない時には、座学をと思っています」
アダンとメリーに説明すると、ミカが「はい」と手を挙げた。
「その座学には、私も参加してよろしいですか?」
「アダンとメリーの面倒をみてもらいつつになってしまうけど、それでも良ければ」
「わぁ! がんばります!」
ミカが大喜びで、目の前の草を葉と茎に分けだす。
「あ、やります」
アダンやメリーもミカの作業に参加した。
よし、これで大きな作業は手伝ってもらえる。有難い。
私はさっそく調合の方へ移る。
まずは先日作っておいた媒介を出して、トーカの薬も出す。
錬金術で作った物は、そうそう腐ることはない。
ただし緑の媒介や、生物を素材にしたのはその限りではないので、できる限り早めに消費しなくてはならない。
薬作りは、そういう意味でも今のうちにやっておきたかった。
それに薬の状態にまでしておけば、一年は持つし。
「さてここからよね」
リュシアンに渡すことを考えて、痛み止めを最初に作ることにする。
これにはしびれ薬になる薬草を混ぜる。
その薬効を高めるため、乾燥させておいた薬草に水の媒介を混ぜておく。
混ぜていくと、だんだんと薄青のさらりとした液体が出来上がった。
ここで私は一度休憩。
魔力多めの草を使ったお茶を飲み、少し回復してから続きを始める。
「ここからアダン、手伝ってくれるかしら?」
私は茎と葉を分ける作業を終えて、ミカと一緒に手を洗っていたアダンを呼んだ。
「何をしたらいいんですか? わ、綺麗な色」
アダンは物珍しそうに、両手で抱えられる大きさのガラスの器の中身を見る。
「まずはアダン、この石を握ってみて」
私は戸棚から出してきた、灰色の石を握らせる。
「はい」
「魔力を込めてほしいんだけど……そうね。ちょっと触るわよ」
石を握ったアダンの手に、私の手を添える。
そして魔力を込める。
魔力を出すという作業は、普通の人はよくわからない。
ただ、魔道具師もなのだけど、練習してコツをつかめば可能だ。
そして普通の人の場合、魔力をどんなに出そうとしたって、魔術師ほどの魔力は放出できないので、本人が疲弊するだけになるのだ。
魔力で動く仕掛けを見つけるセンスがあるので、アダンやメリーはきっと、これもうまくできるだろうと思ったけど。
「わっ」
「何か感じる?」
「ちょっと血の気が引くような、そんな感じがしました」
「よし、じゃあこれ見て」
「光ってる」
灰色の石が、ふんわりと赤く光っている。
「この石、魔力を感知すると光るの。今ぐらいの明るさを覚えていて。続けて五回、同じ明るさに光らせられたら、作業に入ってもらうわ。強くてもダメよ」
「一回……。あ、ちゃんと光った。二回……三回……」
アダンはすぐに魔力の出し方を覚えて、石を光らせている。
一度ギラギラと光って、アダン自身もびっくりしていた。
魔力が強すぎると、そういうことが起こるんだろう。
……私は一回もそんなにギラギラにはさせられなかったけど。
「五回。できました!」
アダンが笑顔で報告してくれる。
「では次、この青い液体に、この瓶のクリームを入れて。次に塩……」
「塩ですか?」
「そう。ちょうどいい感じに、成分をくっつけてくれるのよ」
水がはねないように、ゆっくりと全部を入れていき、最後に戸棚から出した黒い粉を、ほとんど棒にしか見えない小さな匙を使い、中に追加した。
「今のは何ですか?」
「うん、毒」
「ひっ」
アダンが息をのんだ。
まぁ、毒と聞いたら普通はびっくりするわよね。
「これがないと、痛み止めにならないのよ。効果が弱いと使い物にならないわ。てことで、さっき石を光らせた強さと同じ用に魔力を出しながら、このガラスのマドラーでかき混ぜていって」
「はい」
アダンは素直に指示通りにしてくれる。
混ぜていくと、最初は黒の粉の影響で青が少し黒味がかった色になるが、クリームと混ざり合うと少しずつ乳白色に近づいていく。
「次にこれを入れるけど、混ぜ続けて」
私は銀色の粉を少量入れていく。
すると液体が急にもったりとしたクリーム状になってきた。
やがて、混ぜているのに表面に白い石の膜のような物ができる。
「この膜をとっていくわ」
さらに混ぜ、同じように膜を取るのを三回繰り返すと、もう表面は固まらなくなった。
「よし、完成ね」
トーカの痛み止めが完成だ。
親指と人差し指を丸めたぐらいの大きさしかない、小さな小瓶に分けて入れていく。
その作業をアダンに任せて、私は次にとりかかった。




