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8 謎の予知夢

   ※※※


  私は、いつの間にか馬車に乗っていた。

  疲れていて、朝からぼんやりしていたんだろうか?

  朝食の内容も思い出せない。


 「奥様……いえ、領主様、お加減が悪いのですか?」


  この旅についてきてくれているメイドが話しかけてくる。

  あ、今日はリュシアンとは同乗していないようだ。

  でも外は小雨が降っている。

  なんだか馬車も、ずいぶんがたがたと飛び跳ねるように走っていた。


 「リュシアンは?」


 「辺境伯閣下でしたら、先を確認してくるとおっしゃっておりました」


  馬で道の先を確認に行ったのか。

  雨のせいで道が崩れたりしているんだろうか?


  窓の外を見れば、雨は少しずつ多くなってきている。

  右は岩肌が見える。

  左側は馬車が三台通れるくらいに道幅は広い。

  けれどその向こうは、崖になっているみたいだ。

  川があって、その対岸にあるのだろう崖の岩肌が遠く見える。

  それも、雨粒が馬車の窓に当たって、だんだんわからなくなっていった。


  んだか不安が募る。

  妙に心がざわざわしてきたと思ったその時だった。


  地響きが、雨音に混じった。

  そう思った瞬間、私の体が横殴りに吹き飛ばされたようになって……。

  衝撃があった瞬間、意識が途切れた。


   ※※※


「…………ひぃっ!」


 飛び起きて、息をつく。

 まだ部屋の中は暗い。

 私のぜぃぜぃという息遣いだけが響いていた。


「夢……だよね?」


 ベッドの中にいることを確認し、ほっとする。

 馬車に乗っていない。そして朝にすらなってない。


「よ、よかった…………」


 はーっと息をつく。

 とんでもない悪夢を見たらしい。しかも、雨音や湿度、不安な気持ちなどの細部までわりとしっかりと覚えている。

 思い返すとぞっとするほどに。


「嬉しい日の後だったのに、どうして悪夢なんて見たんだろう。疲れの方が、嬉しさを上回ったのかな……」


 首をかしげながらも、なんだかまだ疲れが抜けてないような気がするので、たぶん、そういうことなんだろう。

 私はうん、と伸びをして寝台脇に置いていたベルを鳴らす。


 ノックの音がして、侍女のセレナがやってきた。

 旅の途中なのでメイド役も請け負ってくれているセレナは、紺の地味なワンピースに白いエプロンを身に着けている。

 彼女は、盆の上にお茶のカップと水さしを乗せて持ってきていた。


「おはようございます領主様。お茶はいかがですか?」


「いただくわ。ありがとう。その前に着替えをお願い」


 私はさっと旅装らしい衣服に着替えた。

 オレンジっぽい茶色のドレスは、装飾も少なくドレスのふくらみもほとんどないので、動きやすい。


 その恰好でお茶を飲んだ後、部屋でそのまま朝食も食べる。


「急ぐ旅だから、あなたも食べてしまって」


 セレナはあきらめ顔で従う。


「今日は、あっさり受け入れてくれた……」


 いつもは押し問答をするので、不思議に思ったのでそう呟いてしまうと、セレナが苦笑いした。


「領主様は、言い出したら押し通される方ですから……」


 言われて私は「あはは」と笑ってごまかす。


「今は時間が惜しいし、あなたに動いてもらえないと困ることも多いもの。しっかり食べて」


 私はそう押し切ることにした。

 

「それにセレナは侍女だし、元は貴族なんだし」


 侍女のセレナは元貴族だった。

 おそらく家が没落し、爵位を取り上げられて平民に落とされたのだと思う。

 だから教育が行き届いた、品行方正な女性だ。

 ブルネットのまっすぐな髪は、美しい絹糸のよう。仕事の邪魔なので結い上げているのが惜しくなる。

 そして私とは違って、たいそうな美人である。


 そんな彼女は、グレイ伯爵家で侍女としてつけられた人だ。

 だから伯爵家から離れないと思ったのに、なぜか私についてくることを決めた。

 休暇にちょっとした贅沢もできない、王都みたいに綺麗なお店もない、美しい物を着る余裕もない場所へ行くというのに。

 それでもいいのかと、私は確認したのだけど……。


 セレナは『奥様の領地へ行けば、求婚者が追って来なくなると思いますので』と返事をした。

 どうやら結婚したくないようで、断ってもしつこい求婚者から物理的に離れたいそうだ。

 そのためなら貧しさぐらい耐えられるというので、連れて行くことにした。

 逃げる手段としては、もっともだと納得したから。


(うんまぁ、現地採用する手間が省けてよかったわ)


 私が領主らしく振舞う必要がある時に、侍女役をしてくれる事情を承知している人がいるのはありがたい。

 もしかすると、田舎暮らしに耐えられずに帰ってしまうかもしれないけど……。


 でも、田舎へ行くとセレナに見合った身分や職の人を見つけるのは難しくなる。

 この王国で、メイドや侍女として一生を終える人はけっこういるのだけど、彼女がそれを望んでいるのか、お金を貯めて自分が好きになった人に嫁ぎたいと思っているのか、私にはわからない。

 後で後悔しないかな?

 

 つい考えてしまっていると、セレナに尋ねられた。


「お加減が悪いのですか?」


「いいえ、大丈夫。さぁ、出発の準備をしましょう」


 食べ終わった後、お茶は飲んだので立ち上がる。

 そうして一晩だけ必要で出していた荷物をまとめる。

 終わったところで、護衛の兵士が呼びに来たので、私達は部屋を出た。

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