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76 道の封鎖方法と傭兵と

 食後、リュシアン達と応接間に集まった。

 その際、地形を確認する指揮をとっていたテオドールと、リュシアンの騎士フリードも同席した。

 テオドールも褐色の髪の落ち着いた雰囲気の青年ではあるけど、フリードからは岩のような何物にも動じなさを感じる。

 年齢は三十代ぐらいか。詳しくは聞かないけど、長年ジークリード辺境伯家に仕えている歴戦の騎士だと思う。


「こちらが改めて確認した地形です」


 テオドールはすでに地図に落とし込んだ物を見せてくれた。

 テーブル一杯に広がる地図は、ハルスタット内だけの物だけど、ある程度の高低差を中心に描かれている。


「目測のところも多いのですが、昨日と今日である程度把握できた場所を書き込んでおります」


 テオドールの言葉に、補足をしたのはフリードだ。


「街道や西から侵入できそうな箇所を、重点的に測量しています。その他の場所も入用になるかもしれませんので、明日以降、続けて調査をするよう手配しております」


 ベルナード王国軍の進軍を防ぐことについて話し合うなら、これでも大丈夫だ。

 今のハルスタットに、それ以外の手段を講じられる余裕も人員もいないのだから。


「でも、他の箇所もかなり細かく書き込まれていますね。立体図みたいに見えるので、とても把握しやすいです。ありがとうテオドール、フリード」


 山や森の方も、遠くから測定したのだろうけど、細かな高低差が色分けまでして書かれていた。

 こういう地図を見慣れていない私でも、ぱっと見でわかりやすい。

 リュシアンの連れていた兵士の中に、地図作成が上手な人がいたのだろう。

 すごく急いで作ってくれたってことは、地図を描いた兵士はきっと寝不足になっただろうな……。


「お褒めいただきありがとうございます」


 テオドールが言い、フリードと二人で簡易的な一礼をする。

 感謝が伝わったようなので、きっと作成者も褒めてもらえるだろう。

 その間、地図を眺めていたリュシアンが「うん」と言う。


「やっぱり山で話した通りだね。街道と、その支線で橋や谷がないここだけなんとかしたら、足止め……もしくは人数を限ることができるかもしれないけど」


「完全に足止めできるかわからないのは、魔物がいるから?」


「そうだよ。実際にどんな魔物がいるかを探ってはみたけど、種類が様々でね。壁を造っても乗り越えられるだろうし、破壊されることも考えないといけない。余裕があったら、この谷だって対策をしておきたいぐらいだし、一応見張りはつけた方がいいよ」


 リュシアンが指さしているのは、けっこう幅がある谷だ。

 その下は急流になっているはず。

 下りて登ることで攻略できるような感じには見えないけど……。

 魔物なら、この幅でもやすやすと飛び越えて架橋できてしまうのかもしれない。


「まず先にこの二つだね。テオドールならどうする?」

 

 リュシアンはテオドールに水を向けた。


「やはり魔物への罠を張り巡らせるしかないかと。ただ、進軍までの間に道を行く商人や旅人が罠にかかってはいけません。準備をして、直前に作動させられるようにするしかないかと」


「罠もいいね。正直、それぐらいしかやりようはない。急に、ここに谷底を作るわけにはいかないからね」


 リュシアンの言葉に、フリードが焦りをにじませる。


「辺境伯閣下、魔術だけは……」


「わかっているよ。今後のこともあるからしない。先に私が倒れたらジークリード辺境伯領も危ないのは承知している」


 フリードは、魔術の使用のしすぎでリュシアンが亡くなってしまうことを心配しているのだ、とわかる。

 谷底を作るような魔術では、リュシアンの命をごっそり削ってしまいかねないんだろう。


「錬金術では、何か罠とか作れそう?」


 リュシアンが私に尋ねた。


「今の所、少し進軍を遅らせる物ぐらいしか思いつかないかもしれない。道を邪魔する物とか、歩きにくくする物とか」


「やはり、進軍を遅くしている間に、先制攻撃をして数を減らす作戦ぐらいしかなさそうだと考えます」


 フリードの言葉に、彼も決定打はないのだとわかる。

 普通の軍同士の戦いは泥臭い物だ。

 多少なりと奇襲をかけられたら御の字。後はどれだけ相手を殺せるかにかかってしまう。


「領主様、山賊に使用した眠り薬はいかがですか?」


 テオドールが思い出したように言う。


「うん、それも利用できる物の一つだと思う。ただ大人数になると、先頭集団にしか効かないし、魔物が先頭にいると……魔物が吸い込んでしまった分、効果が減るから、実際にどれだけ使えるかわからないのよね」


 やらないよりはまし、だと思って使う必要がある。

 それに風向きが、運よく西に吹いてくれればいいけど都合よく行くかどうか。


「三か月後となれば、南風になりますな。街道に向かって吹く瞬間もあると思いまずが、風向きがふいに変わった場合は危険かもしれませぬ、レーヴェンス子爵様」


 フリードも風向きは気になったようだ。

 そしてやっぱり、必ず使える手ではなさそう。


「やっぱり爆弾かな。なるべく強力な物が作れればいいんだけど」


 リュシアンがうなずく。


「うん。ハルスタットの強みは君がいることだ敵はこちらに錬金術があるとは知らないし、シエラがそれなりの爆弾を作れれば、魔術師が沢山いるのと同じ状態にできる」


 テオドールがうなずく。

 彼も、錬金術が魔術師に匹敵すると考えているのだ。


「だからシエラが錬金術に没頭できるように、私がここにいる間にできる限りのことをしていくよ。そのために必要な人物が明日ぐらいには到着すると思う」


「必要な人物?」


 首をかしげた私だったが、翌日の朝、一体誰なのかを知ることになった。


「チィーッス!」


 ふわっとした短い白髪の青年は、ぞんざいな挨拶をしながら片手を上げた。

 旅人のような軽装なのに、背中に長剣を二本も背負っている。


「金貨の分、働きに来た」


 並んで先頭にいたのは、黒髪に編んだ帽子を被った比較的小柄な少年。

 彼も旅装だけれど、帯剣している。

 異質なのは、四本もの大小の剣を持っていることだ。


 彼らを見て、リュシアンは笑顔で紹介してくれる。


「西の辺境伯領で会った、傭兵だよ。ハルスタットで雇ってもらえるかい?」

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