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74 次の一手

(私は派兵要請をした。ジークリード辺境伯領の人達に、関係ないハルスタット領のために命をかけてほしいと言ったようなもの)


 リュシアンにも……。命を削ってほしいと頼んだも同然だった。


(次に会えても、ゆっくり話すこともできずに、どちらかがいなくなるかもしれない)


 そんな想像をすると、言葉が出なくなった。

 リュシアンに、また聞くからなんて約束をしようなんて、とんでもないのではと思うからこそ。

 思わず、手を握りしめてしまう。

 酷いことを言ったのではないかと考えて、怖くなったから。


 でも、リュシアンが私の手に自分の手を重ねた。

 振り向けば、リュシアンは穏やかなまなざしで私の手を見つめている。


「大丈夫、また会って話せるようにしよう。そのための準備だろう?」


「うん」


 私は唇をかみしめてうなずく。


「それにここを守れたら、逆に南は安全になるかもしれない。私にとっても、ハルスタット領を守ることはそう悪くない手なんだよ」


「え?」


「この周辺の地図を覚えているかい?」


「おおよそは……」


 答えると、リュシアンが一度立ち上がって、近くの地面に落ちていた枝で簡単な図を描く。


「アルストリア中央の山岳地帯、西側にあるのがハルスタット。その南は川が多い」


「だからジークリード辺境伯領は、穀倉地帯になっているのよね」


 水量もそうだけど、水によって運ばれた肥沃な土壌が麦を育てるのにとても適していたからだ。


「そう。そんな川にも色々な功罪があるけど、西から進軍するのにはあまり好ましくない物が多い。例えば沼」


 リュシアンが南の一番西寄りの地帯に〇をいくつか描く。


「モナ伯爵領は沼を利用した作物なんかを生産してるけど、一方で軍が進みにくいところばかりだし、魔物も多い。板を渡しただけの場所が多いからね。その板を使えなくしてしまえば、道すらない場所もできる」


 天然の要害になるわけだ。


「その北は崖の多い場所なんだ。採石所の多い地点だけど、代わりに進軍しようとしても、通路を埋めることができる。敵が使っている魔物に道を開けさせようとするなら、さらに埋めてやればいいからね。そんな労力はかけたくないだろう」


「一方、ハルスタットを通る街道は、そういう妨害がしにくい……?」


 リュシアンがうなずく。


「谷なんかはあるけど、もう一度架橋することはできる。道幅だって広めだよ。そして人があんまり住んでいなくて、障害になる城や砦が少ない」


「そこもだったのね」


 考えてみれば、道なりにそった町や村に城というのはあんまりなかった。ちょっと離れた場所に、山を背景にとか、川を引き込んで堀を作った城があるらしいと聞いたことはある。

 だから、街道の側に城があるのはハルスタットだけなのだ。


「もしかして、ずっと昔に領地同士で争っていた時期にも、街道沿いに軍が移動するから……離れた場所にみんな城や館を作っていたのかしら」


「たぶんね。ここの城は古いから、それよりももっと前にできて、攻略されてからはみんな使わなかったんだろう。だから、ハルスタット領がこの道を通らないようにせき止められる唯一の城になるし、ここを守れれば、ベルナード王国軍はみな、山脈の北を迂回して王都を目指すだろう」


 そう予想を語ったうえで、リュシアンは簡易的なアルストリア王国の地図に、さっと木の棒で線と矢印を描く。

 一つは、山脈の北を回る方。

 一つは、山脈の中央を通る矢印。この途中で罰を描く。


「ハルスタットをあきらめさせることができれば、ベルナード王国軍がさらに進軍してきても、アルストリア王国の軍は北周りの道に軍を集中して戦える。そうしたら、王国にとっても良いんだ。ベルナード王国軍が強くても、対抗して、時間をかせぎ、倒す方法を編み出せるだろうからね」


「……壁が作れたらな」

 

 一か月くらいで高い壁をあちこちに作れるなら、ベルナード王国軍も警戒して近づかなくなるかもしれない。

 もし向かってきたとしても、ちょっとやそっとでは壊れなければ、面倒なことになるからと進路を変えてくれる可能性はあるんだけど。


「あ、でも壁じゃだめかも。カールさんと見た夢の中で、城壁を壊されてたから……」


「そう言っていたね。相手の武器は見えた?」


「早すぎたのと、壁が一気に壊されて慌てたりしてて、あんまりよくわからなかった。でも、爆発物じゃないと思う」


 ポンLV2を作ってみてよくわかったけど、あれとは全然違う。


「むしろ重たい物を投げつけて、勢いと重さで壊したような感じ?」


「攻城兵器で、岩でも投げつけたのかな」


 リュシアンが考え込む。

 なるほど、そういう攻城兵器もあるのか。


「そういう感じに近いかも」


「それだと壁の強度が問題になるし、壊されやすいか……。鉄でもないと」


「やっぱり進軍できないようにした方がいいかも?」


「そうだね、穴を掘るとかかな。でも埋められる程度だと意味がない。でもハルスタットでそういった工作をするのは二か所でいいと思う」


「南は、例の沼地や崖のある地方だから大丈夫ってことよね?」


 リュシアンはうなずいた。


「北も、山脈越えをさせるのは厳しいだろう。魔物だけ侵入させるかもしれないから、そこは少し私の方で工作しておくよ」


 一体どんな工作をしたら魔物が防げるっていうんだろう? でも、できるのならお願いしたい。


「だから西の街道と、街道の支線の一つ。川に面していない場所だけだ」


 その後の相談は、山を下りてからにすることにした。

 長いこと滞在し続けると、さすがに火ネズミがこちらを排除しにかかるかもしれない。

 倒せるだろうけど、怪我をするリスクは避けたいのだ。


 祭壇の場所まで戻ると、アダンとメリー、フレッドとニルスが袋にいくらか採取した物を詰めて待っていてくれた。


「どう?」


「なかなかですよ。貸していただいた魔力を測る道具で見ても、二人が見つける物は魔力が高いみたいで」


 魔力測定用の器具は予備があったので、それをニルスに預けていたのだ。


「え、それはすごい。採取の時はすごく助かりそう!」


 そう言うと、アダンとメリーは照れたように微笑んだのだった。

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