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70 錬金術師の弟子候補

「逸材では……?」


「シエラならそう言うと思ったよ」


 リュシアンが微笑む。


「色々な条件を満たしていると思うんだ。まだ仕事先が決まっていない、魔力はある、君に助けてもらったから恩を感じていて、間違いなく指導に従ってくれるし、何より本が読めるんだ」


「本当に好条件だけど……。本が読めるのはどうして?」


 二人は孤児だったから、覚えるあてがなかったように思うのだけど。


「元は貴族の使用人の子供だったらしい。で、主の子供の勉強がはかどらなくて、一緒に他の子供も授業に参加させたら、一人だけ別行動をするのが恥ずかしいからやるだろうと、参加させられていたらしい」


「それは……かなりきちんと勉強できるわね」


 復讐をする時間があったかどうかわからないし、その時間だけ集めて、主君の子供の心をくじかないように、あんまりできない風を装う必要があったかもしれないけど。

 教師から教われるのは、かなりいい。


「そこからどうして孤児に?」


「その一家が没落したらしい。分家が当主の名前で奴隷商をしていた上に税の不正をしていたようで、罰金では済まなかったようだね」


「あ……連座で巻き込まれ」


 しかも後ろ暗い商売に巻き込まれては、潔白を証明できる物が見つからないだろう。

 巧妙に『当主です』という書類や証明をしたうえで、不正をしていたんだろうから。


「あと、町の家に迎えられた子が、どうやら当主の子供だったようだけど」


「ええええ?」


 これまたすごい話が出て来た。

 本人達が孤児だとしか言わないので、全員そうだと思っていた。


「たぶん、不名誉だというのは理解していたから、言えなかったんだろうね。子供なりに、酷い状況で怯えている状況では、不正をした家の人間だと話したら捕まるとでも考えたんじゃないかな」


「なるほどね……。で、弟子希望はその子と一緒に路上生活を頑張ってたなら、相当仲が良かったのね」


「そうみたいだ。当主の子のことを今も気にかけてて、でも不安感が強い子だから、新しい親元で守られて過ごした方が安心して生きていけるだろうって言ってたかな」


 ちょっとだけお兄さんな弟子希望の二人は、当主の子を守って暮らしていたのがわかる。

 そうでもないと同じ境遇の子供に、守られて過ごしてほしいなんて思わないだろう。


「とりあえず、わかりました。ゆくゆくは私よりも体力つきそうだし、期待の星になってもらいたいな」


 そういうことで、二人の子供は弟子候補として同行することになった。


「よろしくお願いいたします、領主様。アダンといいます」


 黒髪の子がアダン。


「ご領主様、お願いいたします。実は名前を今まで黙ってて……メリーです」


「ん?」


 たしか名前、リーって聞いていたけど。


「まさか女の子だって隠してた?」


 まだ優し気な面立ちの男の子で通せそうな年齢だったから、気づかなかった。

 メリーはうなずく。


「なるほど。診察の方も薬師がいないし、メイドの目を誤魔化してたのね」


 おどおどとしてみせて、アダンの後ろに隠れ、着替えも自分でできると子供達だけで入浴も済ませていれば……誤魔化せてしまうかもしれない。

 声も、なるべくしゃべらないようにしていればいいのだ。

 考えてみれば子供達については、セレナから簡単に様子を聞いただけだ。

 実際のお世話で多少手がかかったりしても、重要じゃないと思えば報告はないだろう。着替えと入浴程度のことだし。


 でも自分達で仕事をして生きていく……しかも領主に教わるとなれば、ごまかしがきかないとメリーは考えたんだろう。

 そんなメリーは思った以上にはきはきした子だった。


「ご領主様のように優し気な方が、技術職でもいらっしゃると聞いて、私もやってみたいと思ったんです、よろしくお願いいたします」


「俺も手に職をつけたいと思ってました、よろしくお願いいたします」


 アダンもきらきらした目で言う。

 新しい希望が見えてきた、と思っている感じがする。

 きっと路上生活で、手に職を持っていた方が安心して生きていけると感じて、それが手に入るかもしれないと喜んでいるんだろう。


 よし、やる気があって素晴らしい。


「ではみんなで行きましょう」


 私の号令で、採取組は出発する。


 最初は馬車で移動だ。

 何か色々採取できたら載せたいのと、あの山なら基本的に石とかになるので、荷台に幌だけがついた馬車を使う。


 フレッドとニルスは御者席だ。

 リュシアンが私やアダン、メリーと一緒に馬車に乗り込む。

 椅子代わりの木箱に腰を落ち着けたところで、馬車がごとごとと動き出す。


 アダンとメリーは外の風景に夢中だ。

 今まで捕まって檻の中だったり、回復に努めるように言われて屋内にばかりいたから、なおさら外の風景を見るのが楽しいのだろう。


 一方でリュシアンは、こう、木箱が似合わない……。

 宝石で飾られてビロードのマントを羽織ったふわふわの猫が、粗末な木箱に乗っているような感じだ。

 リュシアンは全く気にしていないようだけど。


(考えてみれば、この人戦場経験もあるんだしなー)


 言動が洗練されてて、容姿も無骨さよりは優美さを感じさせるリュシアンだからたまに忘れてしまうけど。魔術師に覚醒する前は、剣を持って戦場に出てた人なんだよね。

 お父さんもお兄さん達も戦場で亡くなったんだから、彼も最前線にいたはずで。

 優美さなんてかけらもない、血みどろ土埃まみれの中も経験しているんだから、大丈夫なのはわかっているけど。

 そこでふっと思い出す。


「そういえばリュシアン。避難通路の方はどうだった?」


 すぐに兵士と、リュシアンの配下の人が探索してくれたはずだ。


「うん、町の外にまで続いていたみたいだ。そこの箇所も書き込んだ地図が出来上がるまで、待ってて。その間に、通路も通りやすくしてもらうよ。人の手配については、家令のギベル殿に頼んであるから」


「何から何までありがとう。で、けっこう細い道?」


 ここがけっこう肝心だ。

 人一人がやっと通れる状態なら、沢山の人を移動させるのは時間がかかる。

 脱出が必要になっても、かなり事前に行動を起こしておかなくてはならない。

 あと、完全な身一つで逃げだしたらさすがに生きていけない。リュックに一つ二つは荷物を持ち出す必要があるけど、それが難しいと困る。


「広さは、横に大人三人ぐらいが並べるし、高さもほどほどにあるみたいだよ」


「良かった」


 ほっとしながら、私はこれから向かう火山に視線を向けたのだった。


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