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65 お菓子を食べる理由

 お茶の用意は素早く整えられた。

 そもそもお菓子は準備されていたみたいで、応接間に到着後、瞬く間に運ばれてきたのだ。


(お菓子の用意をお願いしてはいないんだけど……。セレナがそう指示してたのかな?)


 焼き菓子なら日持ちするから、そうなのかもしれない。

 でもケーキは違うだろう。

 目の前にあるのは、この時間に合わせて作ったのかと思うような、まだ焼き立てのベリーパイだ。

 私が甘ったるい物が苦手だからなのか、シロップ漬けのベリーを使った様子はない。だから摘んで間がないべリーに違いない。


(てことは、昨日あたり誰かが摘んできた……?)


 ますますあらかじめ計画されていたようなお茶の時間だな、と思う。


「さて、お茶の時間はたっぷりお菓子でも食べようか」


 リュシアンは笑顔で私に食べるよう勧めてきた。


「リュシアンってお菓子好きだった?」


 贈ってくれることは多かったけど。本人は私の目の前で、お菓子三昧をしたことはない。

 すると、ぷにっと頬を摘まれた

 びっくりしている間に、みょーんと皮が伸ばされる。


「うしあん!? なにひてる!?」


「一昨日から言うのを我慢してたんだけど、こんなになるまでやつれるまで食を削ってたんだろう?」


 そう言ってリュシアンが手を離してくれたので、ようやく普通にしゃべれるようになった。


「む、浮腫んだんじゃない?」


「ほう、ではこの顔色の悪さは何かな?」


 なぜかポケットから小さな鏡を出し、見せてくる。

 どうしてそんなもの用意しているの!?


 と思ったものの、そっちについては突っ込みができなかった。

 だってほら、鏡の中の私が……目の下にクマがあるし、ちょっと頬がこけてるようだったし。


「……き、気のせいじゃないかしら?」


 気づかないふりをする。

 そうしたら、リュシアンが立ち上がって私の腕をつかんだ。


「ずいぶんやせてしまったようだね」


「そ、そんなんでわかるの?」


「そりゃあね。あの元夫君とのいざこざがあった直後ぐらいは、君、こんな感じだったのを覚えているから。あの後、私がせっかくお菓子で太らせたのに……」


「え、あのデザートの送りものってそういう意味!?」


 リュシアンの申し出を受けてから、二日置きぐらいにはお菓子が送られてきた。

 王都の貴族はそういう風習でもあるんだと思ってたのに、まさか私をふっくらさせようとしていたとは思わなかった。


(セレナやメイドにだいぶんあげたことを知ったら、怒られるかな?)


 そう思ってたら、リュシアンはとんでもないことを言いだす。


「あの頃の腕のぷにぷに感がない。なんてことだ……」


「なくていいんだけど!?」


「私が嫌なんだよね」


「ちょっ」


 リュシアンに触らせるために腕がぷにぷにしてるわけじゃないのに!?

 絶句していると、リュシアンが理由を語った。


「依頼主として、君が健康じゃないと困るし。それと君の技術と引き換えにできる価値があるから、兵を出そうって言っているんだし? だったら君がやせるほどの状態になるのは、望ましくないと思わないかい?」


「う……」


 これは反論できない。

 健康じゃないと調合できないし採取も行けないのは確かだ。


(だからって、腕の太さで健康度計られるのはむかっとするけど。調合で必死な間、食事を大半残してた自覚はある……)


 だから私は、大人しくお茶の時間をすることになった。


「た、食べるから離してくれる?」


「もちろん」


 私は座り直し、用意されていたお茶を飲んで、まずはケーキを食べ始める。

 リュシアンがにこにこしながら見ているのが、なんだかこう、遠くに住んでいる親戚の子供に、とにかく物を食べさせたがる老人みたいな雰囲気を感じた。


「リュシアンも食べてよ。一人だけ黙々と食べてるの嫌じゃないの」


「ん、わかった」


 リュシアンもケーキを口に運び始める。

 甘すぎないケーキは彼の口にも合ったのか、しっかりと一切れ完食していた。


 その後、卓上のベルを振る。

 お茶のお替りがほしいのかと思ったら、廊下で待機していたテオドールを呼んだようだ。


「今は君が、ハルスタット領の兵の統括をしているんだろう?」


「左様でございます」


 元来、騎士というのはその能力を買われて、食客として各領主達の元にとどまる人達だ。

 だからこそ身分が貴族に準じる。

 よって兵士達よりも身分が上なので、騎士がいれば彼が指揮を執る。

 そんな流れで、自然と領主が持つ兵達を管理運用するのは騎士に任されるようになっているのだ。

 ハルスタット領の騎士はテオドール一人なので、彼が兵士の統括をしている。


「では、適当だと思える兵士に、周辺の地形について調査をさせてほしいな。攻め込まれることを考えた詳細な図が出来上がると一番いいんだけど」


「攻め込まれる……。ベルナード王国軍を警戒しておいでですか?」


 リュシアンが言ったからこそ、テオドールはすぐにそこを結び付けて考えられたんだろう。

 もちろんリュシアンはうなずく。


「念のためだけど、あちらの動きがおかしい。詳細については後程……私の方から話していいかな? シエラ」


 了解を取ってくれたので、私はうなずいた。


「お任せします。私では適切な指示ができるかわからないので」


「では後で話をしよう」


 テオドールはうなずき、まずは地形調査を指示するため出て行った。

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