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63 避難通路探し

 カールさんが消えた後も、しばらくじっとその場所を見つめていたリュシアンだったが、唐突に笑いだす。


「くくくくっ」


「え、どうしたの?」


「いや、だって。あはは!」


 こらえきれない笑い声に、私は始め困惑していたけど。

 そりゃそうだよね。急に幽霊が出て来たり、友達に「実在するって!」と力説されたりしたんだもの。笑いたくもなるかもしれない。


「まぁ、幽霊が出てきて自己紹介しまくるってないかもね……」


「そもそもシエラ、君が幽霊と仲良くしているのがもう可笑しい」


「いやだって、流れでそうなったんだし。そもそもあのカールさんが私に未来を見せて来てたんだもの」


「そうらしいね。精神操作系の魔術か……。死んでも魔術が使えるところも驚いたけどね」


「私も想像してなかった。だけど助かったのは本当だから。がけ崩れも、火竜が出てくることも事前にわかったのはカールさんのおかげだし」


「たしかに、事前にそなえられるのはいいね。……とりあえず君に助言者がいることもわかって良かったよ」


「リュシアンが理解してくれて良かった。カールさんのことだけは、本当にどう説明したら理解してくれるか不安で不安で……」

 

 そうこぼすと、リュシアンはカールさんのことを思い出したのか、肩を震わせて笑うのだった。



 さて、リュシアンが派兵までしてくれることは決まった。

 心強い申し出をもらえて、私は久々にほっとする。

 籠城するつもりでいるけど、それがいつまで持つかもわからないし、夢の内容だと籠城が通用しない可能性もあったから。

 

「そういえば、避難通路の確認をしないと」


 ここまできたら、できるだけみんな無事で生き残れるようにしたい。

 そのための脱出案なのだけど、このお城には本当に避難通路があるんだろうか?


「今から行くかい?」


 リュシアンが同行してくれるらしい。

 私よりも『城』というものの構造に慣れているだろうから、きっとリュシアンの方が先に見つけてくれるだろう。


「うん」


 応じた私は彼を連れて工房を出ると、まず主塔を探した。


「ないな……珍しい」


 一階の階段の周辺から、二階、屋上まで出てみたけれど、見つからない。

 たいていは、城の主人がいる主塔にあることが多いらしいので、リュシアンは不思議そうな顔をしている。


「じゃあ、内郭の城壁に行こうリュシアン」


 私達は主塔を出ると、近くの監視塔入り口から城の中へ入った。

 四隅にある監視塔は、横に続く城壁内への連絡通路があるのだ。

 そこから、城壁の中を通る。

 相変わらずのむき出しの石壁と床の通路が遠くまで続いている。

 どこからか声がして、途中の通路から部屋の一つに人が入り、そこからまた人が出て行くのを繰り返しているのが見えた。


「あれは?」


「城壁の中の部屋を使えるようにしてて。人が少ないので、ちょっとずつ清掃をしてもらってるの」


 とにかく清掃さえしておけば、ベルナード王国軍が動いたという話が聞こえたらすぐに町の人に入ってもらえるから。

 それから小声で付け加える。


「兵士も部屋が必要でしょう?」


「うん、そうだね。こういった準備は必要だ。良く知っていたね。紛争の経験でもあるのかい?」


 リュシアンも声を潜めた。

 通路は石造りだから、声が響きやすいので。

 そもそもベルナード王国軍が来るかもしれないなんて、私とリュシアン、そしてリュシアンが西の辺境伯領まで連れて行った彼の部下しか知らないことだ。


 それにしても、こんなことをわずかにでも知ってた理由を言うの、恥ずかしいな……。

 だいたい、リュシアンみたいな実際の戦場とかその準備まで知り尽くした人には、過不足がありまくりだろうから、なおさら。

 いや、過不足がある原因がこれだとわかれば納得してくれるかも。


「ええと。紛争は見たこともないんだけど、本でちょっと戦争体験をした人の話を読んだことがあって……」


 でも、英雄譚だったなんて言えなかった。

 リュシアンはそれでも十分に納得したようだ。


「本で知ったんだ。なるほどね。少し知っているだけでも十分すごいことだよ。普通の女性だったら興味を持たないかもしれないし。ハルスタットの領主が君に変わって良かったんじゃないかな? ここの代官をしていた人物を家令に迎えるとは聞いてたけど、彼は戦争経験はあるのかな?」


 リュシアンはもっと沢山の人に手伝わせたいんだろう。

 彼が持ってきた西のルース王国の話を根拠にするなら、ベルナード王国軍が来ることも話せるし。


「ギベルが経験のある人かはまだ……。今までは聞く理由が作れなかったから」


「それもそうだね。後で他の人達にも確認と指示をしていくとしようか」


 話しながら、通路や、途中にある柱部分のあたりを調べるけど、まったくもって避難通路らしき物が見つからない。


「ここにはないのかな。作らない城もあるけど……」


 そうつぶやいたリュシアンが、ふっと背後を振り返った。

 何かと思ったら、途中の部屋の一つから、子供達が顔をのぞかせている。


「あ、山賊に捕まっていた子供達だわ」


「魔力があるっていう?」


 リュシアンの問いに、私はうなずいた。


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