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61 ある意味、リュシアンは未知との遭遇

 さらにリュシアンは推測を話してくれた。


「おそらく、ベルナード王国軍が来るまで三か月といったところだと思う。兵を入れ替えるとか訓練はまだだったけど、魔物を使役できるのだから、練度を上げることに腐心する必要もない。だから三か月くらいで魔物との行動方法がわかるようになるだろうし、食料を集める作業も済むだろう」


 基本的に、とリュシアンが付け加える。


「一応ベルナード王国は、ルース王国を難なく占領できたことで油断していると私は考えている。だから、敵が油断している間に攻めればいいのに、すでに二か月ほどもたもたしているんだろう」


 そのほかにも理由はあるかもしれないけど、急がないのはそこが大きいとリュシアンは見ているらしい。


「でもこちらが油断しているだろう頃に実行したいだろう。そういうことを考えると、三か月以上は引き伸ばさないかもしれない」


「三か月……」


「できるだけのことをしよう、シエラ」


 リュシアンが元気づけてくれる。


「私の領地まで来られても困るしね。ハルスタット領で止められるなら私も嬉しいんだ。だから、派兵しよう」


 約束してくれた時、今度は嬉しくて涙が出そうだった。

 でもただ喜ぶだけじゃ、領主としてはダメだと思う。


「派兵は別料金よね? この領地、あげようか?」


 この際、私は錬金術ができる場所があればいいのだ。

 リュシアンならそれは保証してくれるだろうし、領地運営や収益は、ハルスタット領を守れる力があるリュシアンがもらえばいいと思う。


 するとリュシアンは苦笑いした。


「君は本当に欲がない」


「あるけど……。お金はほしいし、やりたいこともあるし」


「錬金術に必要なだけあればいいんだろう? そして私としては、対価は例の依頼を果たしてくれることの方がいいかな」


 そして、なぜか顔を近づけてくる。

 青い瞳が私の目を真っすぐに見つめていた。

 ていうか近い、光彩が見えるくらいの近さは、なんだかよくない気がする。


 今までにも、これぐらい近くなったことはあるのに、なぜ今日はこんなに気になるんだろう。

 火竜のことが落ち着いて、少し心に余裕ができたからなのか。

 さっき援助の返事をもらえてうれしくて、気持ちの上下が激しかったからなのか。

 心臓の音のうるささを感じて焦る私に、リュシアンが言う。


「君がいなくなってしまったら、魔術師達の寿命を延ばすどころじゃなくなるからね」


「え、うん。そっちも頑張る。生き延びたら……」


 寿命。そうだ、そのことがリュシアンは気になるから、私にくれぐれも忘れないでくれと念を押したくて、顔を近づけたんだろう。

 そう思いつつ返事をする。


「うん。そうして欲しい。そうだ、脱出口を探しておいてほしいな。城なんだから、どこかにあると思うんだ」


 リュシアンが少し離れてくれたので、肩から力を抜きつつ応じる。


「なんで、みんな脱出口を気にするんだろ……」


 緊張が解けたせいなんだと思う。

 こんなことを口走ってしまったのは。


「シエラ、他にも夢のことを話した人がいるのかい?」


 リュシアンが驚いたように言う。


「君の侍女のセレナ? でも彼女は焦っている様子はなかったな。むしろ君を心配しているようだった。じゃあテオドール?」


「え、その……誰にも言ってな……」


「シエラは嘘が苦手だよね。言ってなかったら、とっさにあんなは言葉出てこない人だよ、君って」


 リュシアンがズバッと言う。


「で、テオドールかい? 彼ならしれっと隠し事ができると思うけど」


「違っ、テオドールじゃないから!」


 騎士として側にいるから、テオドールを疑ったんだろうけど、隠し事が上手な方なの? それとも口が堅い人?

 少し気になったが、リュシアンがにっこりと微笑んで私の肩に手を置く。


「隠し事はしないでほしいな、シエラ」

 

「ええと」


 言えないっていうより、言いにくいんだけど……。


(どう説明したらいいのよ、幽霊だなんて!)


「そもそも、しゃべっても聞こえるのかな……」


 一番の問題はそこじゃないだろうか。

 石のまま飛び跳ねて、引き出しをガタガタ言わせるのは得意だけど、カールさんとの話ってだいたい私の頭の中に言葉が聞こえてくる感じだし。

 はたから見ると私がしゃべってるだけになる。


「聞こえる? 話せない相手?」


 リュシアンも私の言葉に不思議そうな顔をしていた。


『仕方ない』


 そこに、カールさんの声が聞こえた。

 瞬く間に私のポケットから青白い煙が出て行き……。

 その煙を視線でたどったリュシアンは、珍しく驚いた表情になる。

 突然青白い煙状の老人の姿が空中に浮きあがっていたら、そんな風になってもおかしくはない。


『シエラよ、わしの宿る石をその若造に持たせてみよ』


「あ、はい」


 私は魔術師石を取り出すと、「はい」とリュシアンに渡した。

 思わず受け取ったリュシアンは、困惑した様子で私とカールさんを交互に見る。


『えっへん、聞くがよい若造よ。わしこそは偉大なる魔術師、カール・フォン・エッカート三世だ!』


 いやそれ、たぶん自己紹介としては微妙じゃないですか? カールさん。

 たぶんリュシアンだって、カールさんのこと知らないと思うし、急に名乗られてもなにがなんだかわからないと思うの。

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― 新着の感想 ―
あれれ〜?おっかしーなー? いい雰囲気になりそうな可能性を見せていたのに、ギャグ時空な絵面に着地したよ〜?、
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