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59 例の夢の件について 1

更新予定ですが、月・水・金曜日で固定しようかと思います。


 リュシアンがにっこりと微笑む。

 なんか怖いんだけど……。

 それに、隠そうと思って隠したわけじゃないのに、妙に後ろめたい気がする。


(きっとあれだわ。夢を見てすぐに、リュシアンに手紙を送ったりしなかったから……)


 あれは、対策を考えて調合や採取をするので頭がいっぱいだったからで……。

 ちょっと運が悪かったのよ、と心の中で自己弁護する。

 今日まで口に出さなかったのは、火竜の対応で大変だったからだし。

 でも今の今まで、まったく話す機会がなかったわけじゃない。


 その時、扉がノックされて給仕のメイドがやってきた。

 お茶とデザートを持ってきたようだ。

 私は少しだけ返事が伸びたことに、ほっとする。

 なにせリュシアンは私の後援者で、頼る人もいない中、唯一協力を要請できる人だ。


(でも、領主同士という話になってしまうから、緊張するのよ)


 ベルナード王国軍のことは、相談はできるしいくらかの援助を申し込めるかもしれない。

 でも、魔術師達の寿命のことと引き換えに、私の領地を救ってもらうほどのことなのかというと……。

 しかも、私に解決できるかは未知数なまま。

 すでに魔術師の寿命を延ばせる物が作れていたなら別だけど、可能性だけで彼がなにもかも助けてくれるわけじゃないだろう。

 火竜のことだって、あくまで手伝いだから助けを要請しやすかった。

 最終的にリュシアンを戦わせるなら、領地を差し出す以外に贖える方法が見つからない。


 だから、ベルナード王国軍のこともきちんと考えて、何を助けてもらうか考えなければ。


(頼り切って、リュシアンが友情すらも感じられなくなってしまったら、怖いもの)


 そんな私に、リュシアンがお茶を飲みつつ言った。


「食後に、ゆっくり話をしないかい?」


 私はうなずいた。



 場所は、他に誰もいない場所……誰も話を聞けないところにした。

 工房なら、窓と扉をしめ切って、テオドールに外で人が近づかないように頼んでおけばいい。

 だから私は、工房へ行くことにした。

 大好きな錬金術の道具の側だと安心するし……。


 ただ、めちゃくちゃ深刻そうな顔をしていたようだ。

 移動中に、セレナに心配された。


「領主様、何か足りない物がありましたら、近くにいますのでお知らせくださいませ。何事も不意を突いた方が、驚いているうちに話が上手く流れる場合もございますので」


「不意……?」

 

 セレナは一体どうして不意を突こうと思ったんだろう。

 そもそも不意を突く相手はリュシアン?

 え、リュシアンを倒すの? これから援助を頼むのに、倒したらまずいでしょ。


 背後でリュシアンが笑いそうな気配を感じた。

 ちょっとだけ、吹き出した音がしたんだよね。

 笑われるような、何かがあったらしい。


 テオドールもセレナに影響されてか、不安になったようだ。


「領主様、何かありましたらすぐに駆け付けますので。私ができるのはそれだけですが……。ジークリード辺境伯のご幼少期の失敗談なども存じておりますから」


 リュシアンの肩が震えている。

 口元を抑えているうえ、目が完全に笑っていた。

 それを見て、テオドールが『何かおかしなこと言ったのかな』と、戸惑っている。


 ようやく工房でリュシアンと二人になった時、私も思わず吹き出してしまった。


「話の流れがわからないと、ああいう誤解もするのね……」


「食事の席で何かあって、領主二人が秘密裏に話をしようとしている、ってことしかわからないだろうからね。取引で齟齬があったか、個人的な喧嘩のどちらかだと思ってくれたんじゃないかな?」


「私が難しい顔をするのは領主としての仕事で、問題があったからと考えたんだったら、ちょっと嬉しいかもしれない。男女関係のことを想定されなかったのは、良かった」


 私はぽつりとつぶやく。

 たぶんこれ、ローランドと結婚中は、なにもかも男女関係だと疑われるのでは? と警戒していた後遺症だと思う。

 ほんと、面倒だったから……。


 そもそもリュシアンとそういう関係だと疑われるようなことは、していないと思う。

 いや、普通だったら貴族令嬢や夫人が他の男性と二人きりで話をするのも顔をしかめられるだろうけど。

 ここは王都でもないし、私は離婚歴があって権力もお金も持たない人間。

 新進気鋭の英雄様であるリュシアンが私を選ぶなんて誰も思わないだろう。

 なのに、リュシアンが変なことを言う。


「でも、それも少しは入っているかもしれないよ?」


「え? 私とリュシアンじゃ釣り合わないのに、そんなこと考える?」


 直球で聞いてしまうと、リュシアンが笑う。


「人ってそういうものだよ。それに二人の不安はわからなくもないかな。……私はシエラのことは気に入っているからね」


 唐突に言われて、私は目を白黒させる。

 予想もしない言葉だったから。

 なんていうか、リュシアンがそんなこと言うわけがないっていう方向で。


「えっ、だって、リュシアンって女の子……好きじゃないでしょ?」


 あまりにびっくりしすぎて、妙なことを口走ってしまう。


(女の子と関わるの好きじゃないとか、結婚とか避けてるでしょって言うつもりだったのに!)


 おかげで大いにリュシアンに誤解された。

 リュシアンがぎょっとした顔になる。


「えっ、違うよ!? 一体どこからそんな発想が!?」


「いやその……男性の方が好きとかそういうことじゃなくて、ええと、女性のこと避けてるなって……」


「あ、それは……恋愛対象が同性ってわけじゃなくて、ええと」


 わたわたと言い訳するリュシアンに私も驚いていたけれど、だんだん彼がどうも説明しにくいと思っていると気づく。


「リュシアン、女性を恋愛的な意味で避けてるのは正解だったりする?」


「結婚の打診は避けてただけで、そういう打診をしそうな女性とかを遠ざけてたんだけど……。女性が嫌とかっていうわけじゃなくて」


 しどろもどろになりかけたリュシアンは、咳払いして仕切り直した。


「シエラならそういう噂をされても、光栄なだけだからね」


 いつもの余裕そうな表情に戻って言うものの、直前の慌てようを見たばかりの私は、どうしても笑ってしまったのだった。

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