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56 火竜退治? 2

 ちょうど火ネズミ達が山頂近くへ到着したようだ。

 人ではとうてい追いつけない速さだ。

 兵士達だけであそこまで運ぶなら、さすがに一時間はかかるだろう。


 火ネズミ達は次々と火口らしいところへキノコを放り込む。


 そのうち火竜が奥から出て来たのか、放り込まれるキノコを食べる口先が見えるようになった。


 そうしていると、また地震が起きる。

 するとさらに竜が外へ体が出て来る。


 翼が見えた。

 また地震が起こって、祭壇へ向かっている兵士達も足を止めていた。


 収まったので火竜を見ると、翼をばさばさとしている。

 ――飛ぶかもしれない。


 私は血の気が引いた。

 そうしたら空から、火竜の炎が降り注ぐ想像をしてしまう。

 早くみんなを、せめて火を一度でも避けられる木の陰に……と思ったが。


 二度地響きが起きても、火竜はそこにいた。

 また翼をばたつかせている。


「出てこない?」


 ばさばさばさばさ。

 ジタバタジタバタ。


 火竜はひっきりなしに動いてるし、いらだったように空へ向かって火を吐く。

 その度に火山が揺れるけど、兵士達はなんとか祭壇へたどりついたようだ。

 もしかして、火竜はあそこから動けない?


「なんでだろう……」


 とはいえ、火竜が飛び回らないなら安心だ。


「いまのうちに、このキノコをもっと沢山届けたら、もしかしてとかある?」


 方法を考えていると、唐突にカールさんが話しかけて来た。


『おい、シエラ』


(なんですか? カールさん)


 場合によってはカールさんの助言をもらいたくなるかもしれないし、そのまま遠くへ避難する場合もあるだろうと、カールさんを今日も懐に忍ばせて来ていたのだ。


『魔術師がいるなら、風で運ぶことができる。風属性の術が不得意ならできないが……』


(でもそこまでしたら、寿命が大幅に削れてしまいませんか?)


 火竜が暴れ始めて、私達が全滅しそうになるなら、リュシアンに戦ってもらうしかなかった。

 むしろそうなったら、この領地をリュシアンに渡すぐらいのことはしなければ、帳尻が合わないだろう。

 生き残りたいと思うからこそ、私はそれぐらいの対価が必要だと思う。

 せめて、リュシアンとその子孫が利益を得られるような対価を差し出さなければ、と。


 でもそうではないなら、彼に命を懸けさせるわけにはいかない。


『キノコを運ぶぐらいなら、魔石が一つあればなんとかなるはずだ』


(そういえば、リュシアンも言ってた)


 魔術師達は、延命方法をずっと探し続けてきた。

 昔よりも緩和できる方法が一つ見つかって、それが魔石を大量に使うことらしい。

 それでも、三十代ぐらいまでが限界だという。


 ほとんどの人は二十代で亡くなるというけど……。

 たいてい魔術師としての力を発揮するのは、自分の命が危機に陥る時だ。

 危機を脱するためにとっさに使う魔術のせいで、ほとんどの人は寿命が半減する勢いで無くなると聞いている。


 そして私は、今回リュシアンに協力してもらうために魔石を渡していた。

 彼の命を、極力削らないで済むように。


(聞いてみます!)


 私は急いで近くにいた兵士に伝言をお願いした。

 伝言を持った兵士は、急いで山を登っていく。

 それでも走って登山をするというのは大変だし、平地を走るようには早くない。

 じりじりと待ちつつ、望遠鏡で兵士の進行具合を確認。

 そして十分ほどで、兵士はリュシアンの元へたどり着いた。

 すごく努力してくれたから、通常の半分ぐらいで登り切ったのだ。有難い。


「あ、リュシアンに伝わった」


 祭壇の周辺にいた兵士が、リュシアンから距離を取る。

 そしてすぐ、祭壇に積み上げられたキノコが空に舞い上がった。


「キノコが空を飛んでる……」


 なんともいえない光景だ。

 そんなキノコが、なんとか竜に近い場所へ落ちていく。

 すぐに集まる火ネズミ。

 ぽんぽんと投げられる雨キノコを食べるため、口を開けて待つ火竜。


「火ネズミってお世話係なのかしら……?」


 不思議な光景を見続けていると、やがて火竜がもう一度動き出した。

 近くの地面に前足をつっぱって、這い上がるような動作をしていたが……。


 ――ドン。


 ひときわ大きな地響きが轟き、地面がゆれて私はよろめいた。


「領主様!」


 側にいたニルスが背中を支えてくれたので、転ぶのを免れる。


「ありがとう」


 お礼を言ってまた望遠鏡をのぞくと、ようやく出て来た火竜が全身を現していた。

 だけどなんか……。


「太ましい?」


 火竜の胴回りがけっこう、こう……予想以上というか。

 とかげっぽい体なのに、お腹だけぽんと出てる。


 しかしその謎は解けた。

 散らばっている雨キノコを、火竜が自ら拾って食べ始めると、みるみるうちにお腹がへこんで行ったのだ。


(カールさん、火竜って食べ過ぎると……太るんです?)


『たいてい火山から出て来ないものだが、考えてみれば、火山にいれば食べ放題じゃな』


 ようするに、火山に住めば食っちゃ寝し放題なのだ。

 太ってもおかしくはない。

 そして生き物は……魔物も元は生き物であるので、太っても当然だった。


 やがて火竜はすっかりスリムになった。

 雨キノコとは、火竜にとってやせ薬になるらしい。

 すると落ち着いた様子で、また元の穴に戻っていく。


「え、また溶岩食べるのかな?」


 不安に思ってると、リュシアンが山を登っていることに気づいた。

 ある程度登った後、リュシアンが空に浮く。

 火竜が見える場所まで高く上がった後、リュシアンは山にいた兵士達を連れて戻って来た。


 リュシアンは苦笑いで報告してくれる。


「火竜はどうやら眠ったようだよ」


「眠った……。あ、まさか。地響きの後、雨キノコを捧げた後は、煙が上がると温暖になるって……。火竜が眠って溶岩を食べなくなるから?」


 火山が温かくなって、周囲に影響が出るという感じだとしたら。


「そうだろうね。火ネズミも、暖かい方がいいだろうし。噴火して住めなくなるのは困るしで、必死だったんだろう」


 リュシアンが同意してくれる。


 でも、私が死ぬ夢じゃなかった理由が、これでわかった。

 そしておそらくキノコを増やしていなかったら、ダイエットのために外に出たい火竜が火山を壊し、噴火が起こっていたかもしれないので、やったことは無駄じゃないけど。


「……私の努力と涙、返してくれないかな」


 そのつぶやきが聞こえたのか、背後でニルスが大笑いしていた。


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― 新着の感想 ―
( ꒪⌓꒪)…………。 ……火山の魔力を食べない、という選択肢は、ないの、かな……?
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