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契約結婚のその後で、領地をもらって自由に生きることにしました  作者: 奏多


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54 雨キノコ量産

 部屋に戻ってそのまま眠り、起きたら昼だった。

 窓から入る光が、明らかに朝じゃない。

 こんなにさんさんと差し込まないもの。


「あっ、寝過ごした!?」


 慌てて起きた。

 火竜はどうなった?

 あれから異変は……。

 確認したくてばたばたと着替えようとしていたら、すぐにセレナがミカと一緒にやってきた。


「おはようございます領主様。気になると思いますので先に伝えますが、現在11時となっております」


「あ、うん、助かる……」


 時間は知りたかった。うん。


「そして火山の方は、特に問題はなさそうです。一度振動がありましたが、異常なしと報告が届きました」


「ありがとう。ええと……怒ってる?」


 聞くと、セレナがふぅとため息をついた。


「領主様のお仕事を止めるわけにもいきませんし、大変な事態ではあると理解しておりますので」


 セレナは怒らないでいてくれた。

 なんとかしようとしていることを、わかっているからと。


「うん、よかった。ありがとう」


「私のことも守ろうとしてくださっているのですし、私は……領主様のお世話をすることと、少しだけ代理をすることしかできませんので」


 そういうセレナは、少しだけ悲しそうな表情を見せた後、食事をミカに運ばせた。

 食べやすくパンに肉や野菜を挟んだ物と、私の好きなミルクたっぷりの紅茶だ。

 紅茶の暖かさに、昨日は食事もそこそこに工房へこもったのを思い出す。


 そんなことを思えるぐらい、少しだけ心に余裕ができたんじゃないかな。

 リュシアンのおかげだ。


「今日はお手伝いは必要ですか?」


 セレナが言ってくれるので、私はうなずく。


「雨キノコが生えていた、エルラの木をもう少し持ってきてくれるよう手配してほしいの。葉も一緒に」


 リュシアンが手伝ってくれるのなら、間違いなくできるはずだ。

 山のような雨キノコをつくろう。

 よし、と気合いを入れた私は、工房へ向かう。


 部屋を出ると、もうそこにリュシアンがいた。

 もう旅装は解いて、気楽そうなシャツにベストとズボンの服装になっていた。

 簡素な服でも、王都へ行けば沢山の貴族令嬢が騒ぐだろう容姿は、まったく霞んだ様子がない。

 たぶん町に出ても、娘さんや奥様方が騒ぐだろう。

 その様子を想像すると、なんだかおもしろくなってきた。


「今から誘おうと思ったのに」


 私がそう言うと、リュシアンが笑う。


「私の方が早く起きているからね。こういうのは先手を取った方が強いもんだよ」


「うっ、昼まで眠ってたから、返す言葉もございません」


「それで、何かすることはないかい?」


 聞いてくれるリュシアンの優しさに、今日は甘える。


「調合を手伝ってください」


 本当は自分の手でやりたい。

 でもそれより、今は自分や領民の命を優先しなくては。


「私にできることなら、なんでも」


 そう言ってくれたリュシアンの手をぎゅっと握る。


「本当に本当にありがとう!」


 心の底から感謝していると、リュシアンが付け加えた。


「昨日のアレとは別会計で、お願いを聞いてもらうけどね」


「くっ……。お手柔らかにお願いします」


 後のない私には、そう言うことしかできなかった。



 とにもかくにも調合だ。

 問題の部分だけ、リュシアンに魔力を込めてもらう。

 一度は失敗したが、それで一度コツを覚えたのか、リュシアンは触媒を栄養剤と混ぜ合わせるのをとても上手にしてくれた。


「もっと繊細な物だったら難しかったけど、これならなんとか。前にやった時は、何度も『やりすぎだ』って怒られた末に匙を投げられたんだけど、私でもできることがあるんだね」


 調合を成功させたリュシアンはほくほく顔だ。


「ところで、こういう魔力の使い方は大丈夫なの? 錬金術師が扱う程度の魔力なら、心臓が魔石になることはないって、師匠に聞いたけど」


 魔力を扱うなら、錬金術師にも影響があるのでは? と思って聞いたことがあるのだ。

 そもそもが、魔術師の寿命問題にからんでの依頼だったし。

 普通なら問題ないらしいけど、魔術師が使う魔力の場合は何か違うかもしれないと心配になった。


「これなら問題ないよ。魔術を使う時の魔力はもっと膨大で、あれを樽一つだとしたら、これは針一本ぐらいの物だから」


 針一本なら、ほんとうにささやかな物なのかもしれない。


(そうか、リュシアンにとっては針一本か……)


 大樽の水を傾けて注ぐような気分だった私としては、複雑な気分にはなるが。

 できないことをしてもらうのだし、みんなの安全の前には吹き飛んでしまうほどの、些細な物思いでしかない。


 そうして出来上がった雨キノコ用栄養剤。

 通常の栄養剤は人間用だ。

 それを水属性を増やし、雨キノコが好む葉をなんとか媒介に変化させて作り出したので、雨キノコにしか使えないだろう。


 栄養剤が出来上がったところで、ちょうどエルラの木が届いた……って。


「え、丸太状態で五本も!?」


 城の中庭に運び込まれていたのは、切り倒してきたばかりの木だった。

 しっかりと成長して、丈は私の身長の五倍はある。


 切り出してきた木こりがまだそばにいて、驚く私を見て笑う。


「あの地震に怯えたのか、森には魔物もほとんどいなくて、ゆったりと作業できましたよ領主様」


「これで火山の方の異変が収まるって聞きましたよ。よろしくお願いします」


「ええ。もちろんよ! この木の代金も弾ませてもらうわね。セレナ、よろしく」


 私はセレナに代金の支払いを頼み、私は工房からニ十本ほどの雨キノコ栄養剤を持ってくる。


 まずは先に増やしていた雨キノコを木を並べたうえにばらまく。

 そして栄養剤を使う。


 ポコポコポコ。

 一つのキノコが、一気に複数の大きな房に成長していく。

 しかも悔しいことに、私一人で作った栄養剤より、キノコの大きさが四倍ぐらい違う。

 ひと房で、私が両腕で抱えるほどの大きさに成長していた。


 収穫した後にかけ ても、まだキノコの菌糸があるので、新しいキノコが生える。

 栄養剤をあるだけ使って、増やして……。


「こんな大量のキノコは見たことがないな」


 リュシアンが笑う。

 最終的に、キノコは、荷馬車に十台分ぐらいになるほどの量ができたのだった。

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