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47 まずは現地調査へ出発しよう

 宝石についた白い塊を、ミトンのような手袋で落とす。

 といっても、人差し指と親指でつくった丸に入ってしまうぐらいの宝石よりも、十倍ぐらいには成長したので、最初は宝石が見えない。


 落とした物は、白くて冷たい。

 雪のようにも見えるけど、雪ではない。

 これは、氷の魔力が濃い結晶だ。


 さらに摘んであった薬草で、緑の触媒を作成する。

 使うのが草だったこともあり、みごとに緑色のどろっとした液体になった。

 それを布に塗って乾かし、氷の結晶を包み込む。


 最後に、余ったコーンで作ったポンLV2に切り口を入れ、氷の結晶を中に突っ込む。

 即席だけど、これで多少は冷たい爆弾になるはずだ。

 持っている状態でも、なんだか少しひんやりするから、火ネズミぐらいならダメージが入るだろう。


「これがあれば火ネズミがいても大丈夫なんですね!」


 素直なミカは、出来上がった物を見てにこにこと言う。

 その様子に、不思議に思って聞いてみた。


「ミカは、火山に向かうのは危なそうだとか思わないの?」


「火ネズミのことさえなければ、大丈夫かと思います、領主様」


「火山は怖くない?」


「そうですねぇ。火山が噴火したことはないですし。あ、捧げ物をする頃になると、ぼん、と煙を噴くらしいんです。でも捧げ物をした後は、その年は寒い冬でも比較的暖かくて、冬を越しやすくなりますし、豊作にもなるって聞きました」


「火山の怖さよりも、煙を噴いた時にはいいことがあるって聞いて育ったのね。ほとんど地域の神様みたいな扱いかしら?」


「あ、神様。そうですね、そんな感じかと思います」


 ミカが笑顔で返事をくれる。

 

「教えてくれてありがとう」


 ハルスタット領の人達が、火山をどう考えているのかミカのおかげでよくわかった。

 そして、もしかしたら……なんとかなるかもしれないという希望も湧く。


(ずっと、捧げ物という形で住民と火竜の間で、何かのバランスがとれていたのかもしれないわ)


 だから、火竜を怒らせないようにしておけばいいのだと思う。


(そうすると、夢で火竜が出て来たのはどうしてだろう)


 たぶん、問題があったから火竜がいるのだろう場所を見に行ったのだと思う。


(今、捧げ物を置く祭壇を確認に行くことも、すでに夢の中では行動済みなのかな? だとすると、その時に異常があるのか、それとも……祭壇で何かへまでもするのかな)


 考えても仕方ない。

 まずは現地調査だ。



 翌日、私はテオドールとフレッド、ニルスとともに出発した。

 他にも兵士が五人ほどついている。


 火山に行く。

 ついでに森にも寄る。

 対策はした。

 そう告げたけれど、テオドールはとてもとても心配して護衛をしっかりとつけて、自分も同行することにしたのだ。


「今日は、確か兵士の面接があったのでは……」


 例のベルナード王国軍が攻めてくる夢を見てすぐ、テオドールに兵士を増やしてほしいと頼んでいたのだ。

 すぐに近隣へ行く者に募集の告知をしてくれるよう頼んでくれた結果、昨日、募集に応じて何人かがやってきていた。

 その面接をするという話を聞いたんだけど。


「大丈夫です」


 テオドールがきっぱりと言い切った。


「面接者については、今日は移動の疲れをいやす時間にしてもらいます。職と宿も提供できるので、問題なく快諾してくれるでしょう。というかしてもらいますので」


 けれど、火山へ行くことは止められなかったのは良かった。

 森へ山賊狩りに行く時みたいに、渋られるかと思っていたのだ。


「わかりました。火山へ行くのは止められなかったので良かったです」


 素直にそう言うと、テオドールは困った表情になった。


「領主様はまぁ、領主様ですので……」


「どういうこと?」


 首をかしげる。


「とにかく現地に足を運ぶ主義のお方であり、きちんと武器をご用意いただきましたし。たしかに以前領主様がおっしゃった通り、女性貴族らしくするよりも、領主らしくする方が質に合うお方なのだと納得した次第です」


 普通の『元伯爵夫人』のような行動をしたくない人から、だいぶ認識が進化したな、と私は感心した。

 数日間でこんなに認識を改めてくれるとは。

 リュシアンはとても柔軟な考え方の人を、私に紹介してくれたんだなと思う。


 たぶん、爆弾を作り出し、山賊狩りに同行して、ようやく女性貴族から、男女関係なく『領主である』とみてくれるようになったんだと思う。


「なるほど。うん、ありがとう」


 これからは、たぶん私の非力さとか戦闘能力の低さにしかお小言は言われなくなるだろう。

 そう思うと、私はテオドールに自然とお礼を言っていた。


「その……よろしいのですか?」


 認識を変えてくれても、テオドールはまだ不安なようだ。


「そう思うのも無理ないわ。女性らしく扱われたい女性は沢山いるだろうし、私もそういう人にはいてほしいと思うし」


 おしとやかな人、家の中にいる方が落ち着いたり、可愛い物をめでたり、色々な物を怖がったりする人。元気で、外に出かけたり交流をしたがる人。色々いていいのだ。

 そのうえで、私のような人もいると認めてくれればいい。

 どんな人にも、その特性によって活躍できる場があるはずだから。


「ただ、私を枠の外に置いてくれるだけでいいのよ。それを実行してくれるテオドールにお礼を言っただけだから」


「左様でございますか。承知しました」


 テオドールはまだ言葉を飲み込んでいる途中のような顔をしつつ、一礼した。


 そして火山へ向かって出発した。

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