43 魔術師になれる子供とは? 2
すると三人の中で、一番年長らしい男の子が私を見上げた。
「本当に、ここに居させてもらえますか?」
「もちろん。そう願うなら」
私は約束する。
私の本気が伝わったのか、男の子は話してくれた。
「魔術師が、僕達を拾いに来たんです。素質があると言って」
「誘拐犯達の仲間に魔術師がいたの?」
でも魔術師がいたのなら、山賊なんかには負けないはずだけど……。
「魔術師は、孤児達に声をかけてまわって、魔道具の実験に付き合ってくれれば賃金をくれると……。本当にみんな、魔道具を数秒持つだけで銀貨を一枚もらえたから。行列になってその魔道具をためしたんです」
銀貨一枚。
でも魔道具をちょっと持つだけでいい。
しかももらった人間が沢山いて、それで済んでしまっているのを目の当たりにしたら、誰だって試してみようかということになるだろう。
「それで、僕や、他の二人はランプみたいな魔道具がちょっと光って。でも銀貨をもらってその時は終わったんです……。けど、その晩すぐに誰かに拉致されて。魔術師になれる子供だって話を聞いたから、たぶんグルだったんだろうって」
「あなた方を連れて行こうとした人達と、魔術師は一緒に行動していなかったのね」
私が言うと、男の子はうなずいた。
「とすると、魔術師はまだ国内にいるのかどうか……」
しかも目的はわからない。
男の子の話からして、魔術師になれる子供だという言葉を漏れ聞いただけだし、質問などもできなかっただろう。
それでも、ベルナード王国が魔術師を必要としているらしいってわかった。
(たぶん商人は、大金を稼げると思って違法に手を染めたぐらいに考えてる)
それは、私やリュシアン以外は、基本的にベルナード王国軍のことを警戒していない状況からみても、うなずける推測だった。
みんな、ルース王国が占領されたことを不安には思っている。
でも、もしベルナード王国が周辺諸国を全て支配したいと思っていても、すぐには侵攻しないだろうって考えているのだ。
――普通なら、そうなるだろうから。
だからベルナード王国に何かを売りに行ってほしいと言われても、今のうちなら大丈夫だろうと思ってしまった。
そしてベルナード王国に売られそうになっている子供、という異常を、みんな『違法な人身売買をした』としか思わない。
ベルナード王国の魔術師は、そのすきをついて、必要な物をこれから侵略する国から取り上げようとしたのでは?
(魔術師として利用するのかもしれない。そして戦争状態になった時、アルストリア王国側に魔術師が増えないようにしたいのかも)
そんな風に理由はいくつか思いつける。
「話してくれてありがとう。ゆっくり休んでね」
私はそう言って子供達の部屋から出た後、自室に一度戻ってカールさんと話した。
「ベルナード軍が、魔術師になれるかわかる魔道具を発明したってことですよね?」
『そういうことになるんかのぉ』
うーむ、とカールさんの歯切れは悪い。
『しかし魔道具で……うーむ』
「魔道具では、そういうことはできそうにないんですか?」
『人の魔力を計れるのは、やはり人だけだ。だから魔術師自身が各々の子供の魔力を探ったのだと思う。ただ……』
「ただ?」
『魔力が多ければ確実に魔術師になれるわけでもない。やはり本人がそれを外に発する能力がなければ』
そうだったんだ……と私は思う。
魔力が多ければ、魔術師になれるんだとばかり思っていた。
魔力少ないから魔術師になれない、は正しいけど、それ以外にも何か素質が必要なんだろう。
「すると、魔術師は魔力の多い子供を探していた、という感じでしょうか?」
『かもしれん。そして魔力が多い子供の時だけ魔道具が点灯するようにして、離れた場所から見ている商人に、拉致する子供が誰なのかを教えておったんじゃないのか?』
「なるほど。さすがカールさん」
よし、魔術師になれる子供という謎は解けた。
「それなら、希望した場合は普通に雇えばいいかな。そうだ。子供だけ逃がしたい人もいるかも……その時に、どこに逃がすか考えないとなぁ」
大人は逃げた後が、辛いからと頑張ってしまう人も多いだろう。
それでも子供だけはと思う人もいるはずだ。
その子供達を逃がせる場所を……と思ったところでうなる。
「侵略された後、安全な場所ってどこだろう」
逃がした場所が襲撃されることもあるはずだ。
そう考えるとどこも不安しかない。
ハルスタットだって、夢で見た攻勢をなんとかやりすごしたとしても……。王国全土が全部占領されたらどうなるだろう。
この町だけで自給自足していくにも、限界がある。
「取引できる物があっても、危険視されたら……」
小さな町だけの領地で、どれくらいのことができるだろう。
想像していくと怖くなっていく。
『まずは、一日を生き延びることを考えるしかないぞ』
カールさんが言う。
『賢い者は先を想像して、絶望してしまう。お前のように沢山の人間の行く末まで背負おうとしたら、怖くもなるだろう。それが普通だ。一人なら、そんな思いはしないだろうからな』
「一人なら……」
逃げてしまえばいい。
錬金術で薬を作って、占領後もこそこそと生きられるかもしれないって思える。
『他の者とて、いざとなればそういった道を選択するだろう。逃げ道だけを作っておくのだ。その先は自由であればいい』
「逃げ道、ですか」
『さよう。その先は、自分達で選ぶだろう。そうして選び取った道の先は、自分で責任を取るものだ。ただ……』
「ただ?」
『その時、お前に余力があれば、弱き者を助けてもよい。他者を助けられるのは、余裕がある者だけだからな。わしの国ではそうした。皆、自分が生き延びられそうな場所を探してい生き延びた者も多い』
そうか、カールさんの国はもうないんだった。
最後まで残っただろうカールさんは……。もしかしてそうして逃げた自分の国の人達が、生き延びられているかを知りたかったのもあって、幽霊になっても存在したいと願ったのかな。
『そもそも、そなたは英雄などではない。わしのような大魔術師でもなく、コーンを膨らませて脅かす爆弾しかまだ作れぬ身で、民草の全てを救おうなどと、おこがましいのではないのか?』
カールさんにそうまで言われて、ああ、と私も気持ちが落ち着く。
私にできることは限界がある。
英雄でも大魔術師でもないから、そのできる範囲もとても狭い。
それでも限界まで頑張った後は……。安全性の高い逃げ道だけ用意して、みんなを信じるしかない。
「せめて、地下に穴でも掘りましょうか。安全な逃げ道ぐらいなら私でもできるかもしれません」
今、力がないからこそ、その範囲でできることを探した方がいいだろう。
『そうそう、その意気じゃ。ついでにお前もきちんと逃げるがよいぞ、わしの魔術師石を持って行くことを忘れずにな』
そう言われて、私は思わず笑ってしまった。
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