42 魔術師になれる子供とは? 1
魔術師になれる子供とは、どういうことだろうと考えていた。
素質がある片鱗を見せた……ということだと私は思う。
でもそれだと、魔術を使ったことがある、という表現になるのでは?
「カールさん、どう思います?」
その晩、私は就寝時になってからカールさんに話しかけた。
「魔術師になれる子供ってどういう意味なんでしょう?」
「普通、魔術師になれる者は魔術を使ってわかるものだ。わしの時代からうん百年経って、見分ける方法ができたのかもしれんが……。今の所、わしの所持者がそういった道具や方法を使っているのを見たことはないのぅ」
「そうですよね……。友人の魔術師もそんな話はしていなかったですし。何か勘違いでもしたんでしょうか?」
「可能性はある。異質な者を、魔術師だと言うことは今までの歴史でざらにあることでな。そういった者が戦場へ連れてこられて、魔術師として目覚めることもなく死んでいった例もある。ただ、百人の中に一人でもいれば、それが嘘だったと認めたくない者が『証拠がある』とわめきたてることもあるのじゃ」
「なるほどですね……」
カールさんは、何かを勘違いしているんだろうと思っているようだ。
「もし本当だったとしたら、魔術が使えるってことですかね?」
「魔術が使えるのなら、逃げていたとは思うがな」
「それもそうでした」
商人でも、山賊でも、魔術師ならば問題なく倒せるはずだ。
たとえ子供であっても。
「とにかく会って話してみないとですね」
翌日、私は筋肉痛が良くなったことに喜びつつ、子供達のいる部屋を訪れた。
内郭の部屋は、あのベルナード王国軍がやってくる夢を見て以来、町の人で手が空いている時にでも手伝ってくれないかと募集をかけて、整理や掃除を進めていた。
いつ使うことになるかわからないからだ。
内郭には町の人が避難することを考えているから、なおさら先に整えておきたかったのだ。
おかげで子供達を休ませられる部屋があった。
そこで治療と休養をしてもらっている間に、身元を確認して、できるなら親元にと思ったのだけど……。
扉を開ける前に、セレナから説明された。
「どうやら孤児ばかりのようです。親を知らない子が二人、捨てられた子が一人」
「ああ……」
だから簡単に誘拐できたし、足りない御者を雇用しようと思ったんだろう。
親がいる子供なら、子供のことを探し回るだろうし、目撃者を探す。
御者を雇ったら、そこから足がついて突き止められてしまうだろう。
でも孤児なら探す人はいない。
「引き取りたい家があるかどうか探しますか?」
「そうね……。ただみんな十歳以上……12歳や13歳くらいよね? 本人が望むなら、城で働いて暮らす道も探しましょう。手が必要なところは色々あるから」
長期的な物はまだ私も考えられないけど、今まさに私は人手が欲しい。
子供なのでお掃除の補助を頼むぐらいしかできないと思うし、体力的にも長時間労働は難しいはずだ。
それでも手伝ってくれれば、大人一人か二人が、別の作業に手をつけられるようになる。
(あとは、魔術師になれる、というところが本当なら、もっと別の道があるわね)
本人達が魔術師の道を歩みたいかどうかにもかかってくるけれど。
とにかく話をと思い、私は扉を開けてもらった。
中に入ると、予告していたせいなのか、足した家具であるソファに三人が並んで座っていた。
面倒を見る方に回っていたミカが、その横に立っている。
「みなさんを助けてくれた領主様ですよ、ご挨拶してくれる?」
ミカがうながすと、三人は小さな声でぼそぼそと「こんにちは」と口にする。
やや怯えているのは大人にひどいことをされたからか……と思ったが、視線がテオドールの代わりについてきたフレッドに向けられていた。
なるほど。
「申し訳ないけど、フレッドは扉の外にいてもらえる?」
「しかしテオドール様から、決して離れぬように、目視できない場所にいてはならぬと言明されておりまっす」
「では、扉を少し開けてこっそり見ててください」
「はい」
妥協案が提示されると、フレッドは元気よく部屋を出ていく。
きぃっときしむ音がして、こぶし一つ分の隙間を開けてフレッドはしっかりと中をのぞいていた。
子供達が、なんだか別の意味で気味悪そうに見てる……。
でも、少しは怯えなくなったみたいだ。これで話ができるだろう。
「初めまして、領主のシエラよ。ミカから説明されていると思うけど、三人にはここで怪我を治療して、ご飯を沢山食べて元気になってもらいたいと思ってるわ。その後、養子に行って親のいる暮らしを始めたいか、城でミカのように働きたいかを決めてほしいと思ってる」
相手は幼子ではないので、はっきりとこれからのことを伝える。
自分達の未来について展望が開けた方が、ただ「大丈夫」と言われるよりも安心するだろうと思ってのことだ。
「それについては、この一週間ぐらいで考えておいてね。あと……。あなたがたから聞きたいことがあるのだけど。魔術師になれるよって言われたことがあったりする?」
その問いを発したとたん、三人がみんなぎゅっと肩を縮めた。
嫌な記憶が絡んでいるのだろう。
でもここで聞いておかなければならない。
「領主様、もう少し時間を置いても……」
ミカが不安そうな表情で言う。
でも私は首を横に振った。
(嫌な記憶への抵抗感が薄れるまでなんて、待っていたらベルナード王国軍が来てしまう。その前にできる対策の手がかりをつかみたいのなら、頼み込んででも聞く必要がある)
思い出させられる子供は可哀想だと思う。
私にだって思い出したくない記憶、話したくない嫌なことは沢山ある。
ローランドが剣を向けたことだって、すぐに誰かに話せたわけじゃない。
リュシアンがローランドから言いがかりをつけられそうになったと聞いて、そこまで知っているならと話せただけで。
でも自分の命と、カールさんの命運、そしてハルスタット領の人々の命がかかっている。
ここに住むことになるなら、子供達自身の安全にもかかわるから。
「お願い。ここに住むというのなら、問題さえなければ私が生活の保障をする。だから教えてほしいの。早いうちに、情報が必要なのよ」




