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41 それでも採取がしたいんです

 セレナから、子供達は館の使用人部屋で看病し、回復したら内郭の部屋に移動すると言われた。

 子供とはいえ見知らぬ人間を、主と同じ部屋に入れるのは、セレナとしても受け入れがたいそうだ。

 それについて理解できる。

 彼らの出自がまだわからないから。

 

「あの山賊になってしまったって人も。毎回正直に話しているとは限らないもの。二度正解だからって、三度目も嘘をついていないなんてわからないし」


「領主様が慎重な性格で助かります」


 セレナにそう話すと、ほっとしたようにうなずいた。


「可哀想な目に遭ったから優しくしたいのはやまやまでも、子供の親がどういった者なのか、もしくは子供自身がすさんだ生活の末に精神的に病んでいたため、何か混乱を起こす可能性もございますから」


「そうね……というか、詳しいのねセレナは」


「魔物の被害に遭った村というのを、何度か拝見しております」


「それなら納得だわ」


 セレナは貴族の縁戚だから、親の仕事の手伝いのようなことも、していたのかもしれない。


「むしろ領主様が様々なことをご存じだと知って、私の方が驚いておりますよ」


「そうかしら? 貴族令嬢らしくない育ち方をしたから、むしろ野生児のように思われているんじゃないかと考えていたわ」


 私の出自については、ある程度ふわっとした感じで話してはいた。

 両親がお金欲しさに、ローランドに嫁がせたことも。

 放置されていたから、野山を駆け回るのは得意だったことも。


「まさか本当に、山賊狩りにまでついていくほどとは思いませんでした。貴族令嬢や夫人だった人なら『ああテオドールや、そんな恐ろしい者達は早く排除しておくれ』と言って任せて終わりですよ」


 誰の真似なのかわからないが、老婆のようなセレナの口調に、私は思わず笑ってしまう。


「それに、むしろ領主様はもっと純真な方ではないかと思っておりましたし」


 またまたびっくりだ。


「純真? 私が?」


 そんなことありえない。

 私は自分が自由になるために、ローランドに自分の両親を追放させた女だ。

 純真な人間はそんなこと考えないだろう。

 でもセレナの意見は違ったようだ。


「領主様が初対面のジークリード辺境伯様のお話を信じた時も、内心はらはらしておりました。見知らぬ錬金術師の家まで通い始めた時は、さすがに慌てましたもの」


 そういえば、セレナはあの時「大丈夫な相手なんですか?」「誰か騎士に確認させましょう。それからでもいいではないですか」と言っていた。

 でも師匠となった老錬金術師は、早々に王都から出て行こうとしていた事情を聞いていたので、私は強行してしまったのだけど。


「でもほら、リュシアンはちゃんとした人じゃない」


「ご高名な方だとはわかっていますが、初対面の男性です。信用できる相手かどうか確認すべきです」


 セレナはなかなか厳しい目で見ていたようだ。


(まぁ多少、私は藁にもすがる気持ちだったから、人となりのことまで気が回ってはいなかったかもしれないわ)


「結果的に、良い人だったし。それはそうと、山賊がいなくなったから、明後日にでもまた採取へ行きたいわね!」


「領主様……、そんなにお急ぎにならなくても、森はなくなりませんよ?」


 セレナにはそう言われたけど、一日でも無駄にしたくないのだ。

 たぶん、山賊が出たばかりの森はちょっと……と思われたのかもしれないので、ちょっと角度を変えた提案をしてみる。


「湖の近くぐらいならどう? あの近くまで森が広がっているでしょう? 森の端の方でも、いろいろ採れると思うのよね」


 調合をするために素材が欲しいのもそうだけど、今後の役に立つ素材があるかどうかも知っておきたい。

 わかっていれば、ニルスやフレッドに頼むことだってできるのだから。

 いつ来るかわからないベルナード王国軍からこの領地を守るために。

 軍隊も持たない莫大な資産もない私が、自分でなんとかしなくちゃいけないのだから。


   


 翌日、お昼ごろには子供達はだいぶん元気を取り戻してきたようだ、とセレナに聞いた。

 少ないながらも途切れず食事を与えられていたので、筋力が弱っていて、飛び跳ねるほどはできなくても、しっかりと食べたりできるようだ。

 擦り傷などは多いものの、それも薬でなんとかなったらしい。

 というか、傷薬の評判が良かった。


「素晴らしい薬だと、メイド達がざわついておりましたわ」


「良かったわ! 一応、先に山賊で安全性も試してはいたけど、ちゃんと効果があったみたいね」


「ちゃんと効果があった、どころではありませんわ。薬師の薬でも眠る度に回復していくのに、塗ってすぐに傷が少し治るなんて、見たこともありませんでした」


 その様子を見たからなのか、セレナは珍しく興奮しているようだった。

 近くにいたテオドールもうなずく。


「件のボリスに塗った時も、見た者は皆驚いていました。錬金術の薬というのはすごいのですね」


 そう言うテオドールも、目がきらきらしている。


「あの薬は沢山作るから、怪我をしたら使ってね」


「ありがとうございます!」


 テオドールの礼の言葉にも力が入っていた。


「ついては、材料を明日森に採りに行きたいのだけど」


「明日ですか? もう少しお休みになっては……」


 テオドールがそう言うのも無理はない。

 森の山賊狩りではかなり歩いたせいなのか、ただいま絶賛筋肉痛なのだ。

 なので私は、大人しく座って書類を見ている。


「ほら、今の時期じゃないと採れない素材もあるから」


 私はごまかすために考えておいた理由を口にした。

 急ぐ理由を、今話すわけにはいかない。

 頭のおかしい領主様だと思われて、本当の緊急時に従ってくれなくなっては困るからだ。

 

 そして、傷薬の効果を目の当たりにしたテオドールは、さすがにダメだとは言えないようだ。

 セレナでさえ説得しにくい様子を見せる。

 やがてテオドールが口にしたのは、私へのいたわりだった。


「でも、領主様の筋肉痛が一日で完治するとは思えません。せめてもう一日、お休みください。森の中はゆっくりなら馬で進める場所もありますが、基本的には徒歩でしか行けませんので」


 徒歩以外は無理だとなれば、さすがの私もこれいじょう反抗できなかった。


「わかったわ。明日は子供達に会ってみて、明後日に森へ行きましょう」


「子供達に直接会われるのですか?」


 首をかしげるセレナにうなずく。


「ええ。確かめておきたいから」


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