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40 ボリスの事情

 二つ向こうの町で暮らしていたその山賊は、ボリスと言う名だった。

 ある日、御者が急病で、しかし商品を届ける期日が決まっているので御者を貸してほしいという依頼があったらしい。

 そこでボリスが雇用されたのだが……。


「商人の馬車は、最初は動物が入っていると言われていました。豚と聞いたものの、家畜を売り買いする商人には見えないなと思いつつも、賃金が良かったので受けてしまったのです」


 その晩、ボリスは真実を知る。

 昼は暴れたり叫んだりしないよう、眠らされていた『商品』が起きたからだ。


「明らかな子供の泣き声に、ぞっとしました。そして子供だと確認した時は、町もなにもない場所でしたので、商人とその手下の用心棒達に囲まれて……どうしようもなく」


 殺されないよう、運び続けるしかなかった。

 しかも法に詳しくないボリスは、逃げても一度運んだ以上は同罪だと言われて信じてしまったらしい。


 その商人は西の国へ子供達を運ぶつもりだったらしい。


「でもその途中で山賊に襲われまして。ちょうど商人や用心棒達が食べ物に当たって油断しているところを狙われて、子供ともども捕まりました」


 ボリスは命乞いをし、山賊の仲間という形になった。

 そして子供達は人身売買の商品だと思い、ボリスに売り先を聞くこともなく、そのうちに売るつもりで住処に置いていたらしい。


「子供を売ったことがあるのか、ある程度の相場を山賊は知っていたようです。それと商人を何人か襲って金が溜まったら、子供を売った金とそれを持って別な土地で商売を始めるのだとか言っていて……」


「おまえは隙を見て逃げなかったのはなぜだ?」


 テオドールに尋ねられたボリスは、情けなさそうな表情で言った。


「子供をどうにか逃がせないかと思って。そうしたら人身売買にかかわったことを許してもらえるだろうと。山賊のことは密告して、どこかの領主様か警備隊に捕まえてもらえば、もう俺を追ってくることはできませんし」


 そしてボリスは、一緒に捕まった流れで子供の世話もしていたようだ。

 だからこそ情が湧いて見捨てられなくなったのだろう。

 命は惜しいと山賊に加わりながらも、情から子供を助けようとするボリスにできるのは、それだけだと思ったようだ。


「筋道は立っているな。一応言っておくが、巻き込まれた者だという証明さえできれば、人身売買に加担したとはみなされない」


「ほ、ほんとですかい!?」


 テオドールの言葉に、ボリスの表情に光がさす。


「だからお前が雇われた町と、貸馬車屋を教えろ。確認を取る」


 ボリスはそう言われて、嬉々として答えた。


「確認が取れるまで、お前は拘留することになる。書簡が往復するだけでも一週間はかかるだろうが……」


「これで罪が無くなるのなら、なんでもいたします!」


 テオドールの説明も半ばに、ボリスはうんうんとうなずいて喜んでいた。


「あの、テオドール。その人にちょっと聞きたいことがあるのだけど」


 私はボリスの話にいくつも気になる部分があったのだ。


「商人は西の国に売るって言ったのよね? でもルース王国は占領されてしまったから、ベルナード王国軍に売るっていうこと?」


 ボリスが首をかしげつつ答える。


「おそらくそうなのではと……。西の国に、希少な子供を売りに行くから、大金が入ると言っていたので」


「希少だという理由は聞いている?」


 ベルナード王国軍が子供を集めているのはなぜだろう。

 とにかく西の国関する情報がほしい私は、ボリスにあれこれ尋ねた。


「その、魔術師になれる子供だと」


「魔術師に? なれるということは、まだ魔術師ではない?」


 ボリスは困った顔になる。


「詳しいことは教えられませんでしたんで。子供達も怯えてるわで、故郷がどこなのかもまだ聞き出せていませんでしたのです」


「そうだったのね……」


 山賊達は普通の人身売買をしようとしていたなら、おそらく理由はわかっていない。

 子供の方は事情を知っているだろうか?


「答えてくれてありがとう」


 そうしてボリスへの審問は終わった。


 館へ引き上げながら、テオドールが尋ねてくる。


「領主様、子供達の売り先が気になるのですか? なにか西に関する問題にお気づきに……?」


 おそらく元の主であるリュシアン達が向かったから、テオドールも気になったのだと思う。


「うん、ちょっと。というかベルナード王国がどうやって、うちの国の商人を動かして人を運ばせようとしたのかも気になるけど」

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