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39 城へ戻ります

「なぜお笑いになられるのですか?」


 テオドールは心底不思議そうだ。


「いえ、自分がけっこう普通から外れているんだなって認識したら、面白くなってしまって」


「面白い、ですか?」


「普通の育ちを装う必要があるって思い続けていたけど、それじゃ幸せになれないって気づいたから、普通じゃない生き方をしたいと思っていたんで」


 普通に憧れていた。

 今でも、両親に適度に守られて、お淑やかに育つこととか、貴族令嬢や婦人が習得している詩や音楽のこととかには疎いままなことにも、卑下されるんじゃないかと不安になることもある。


 でも、それを手に入れても私は幸せになれないと思って、貴族令嬢が手を出しもしない錬金術に飛びついたのだ。

 自分から変わり者になろうとしたのだから、変だと言われたというのは、自分の人生を思った通りにしたという証拠ではないだろうか。


 なんて考えたら、ちょっと愉快になったのだ。

 

「自分の思う通りにできてるってわかって良かった」


 そう言うと、テオドールは困惑した表情になる。


「やはり領主様はちょっと変わっていらっしゃると思います。


 でも私が変わり者と言われて喜んでいるせいなのか、テオドールも遠慮なく言うようになった。

 ようやく彼と打ち解けたような気がする。

 

「証言通りの人質を見つけました!」


 その時、洞窟から兵士達が人を連れて出て来る。

 三人の子供達だ。

 誰もが薄汚れた服を着て、顔色がよくない。

 それを見た瞬間に私は決めた。


「城に連れて行きましょう」


 その言葉を聞いた時、『人質がいる』と言っていた山賊が不安そうな表情になる。

 まだ私の真意がわからないからかもしれない。


 さて、山賊の討伐は済んだ。

 住処には他には誰もいなかったし、人質のことを訴えた山賊も、人数はこれだけだと言っていた。

 あとは武器らしき錆びた剣などを接収。

 捕まっていた子供達は、歩くこともままならない状態だった。

 おそらくは逃げ出さないように、食事量なども制限されていたのだろう。

 兵士達に一人ずつ抱えてもらって、馬車のある場所まで戻った。


「テオドール、子供達は馬車へ。山賊はみんな歩けるわよね?」


「縄で繋いで歩かせます」


 そうして私達は城へと戻った。

 途中、町を通るので、珍しい大捕り物の結果をしりたかった町の人達が道の端に出てきて眺めている。

 馬車に乗せられている子供達は、お互いにくっつきあって怯えている。


 生粋の山賊だったらしい、捕縛できた男達8人だけが見物している町の人を威嚇していた。

 すぐさま兵士に怒られ、それでも血気盛んに歯向かおうとしたのでボコられていたけれど。

 血の気の多い山賊は、そのまま兵士の馬に引きずられていく。


 擦り傷とかひどそう……というか、あれ、たしか結構大けがになるはずだけど……。

 テオドールは何も言わない。

 もしかすると、死んでもかまわないという姿勢なのかもしれない。

 証言できる人間は他にもいるからだ。


 ただし私がそれを目の当たりにするのはまだ怖い。

 なので立たせて歩かせるように要望した。


 そんなこんなで城に到着する。

 城の方には牢屋にできる場所が沢山あるそうで、証言をした山賊以外はそちらに移動した。


「100年以上前には収監されてた人間がいたらしいし、幽霊で残っていたら楽しい同居ができるぞー」


 そんなことを言いながら、引っ立てて行く兵士がいた。

 いや楽しいのそれ?


(あ、でも幽霊と同居といえば、カールさんもそうか)


『わしは同居というのではない、見守り役じゃ』


 すかさずカールさんが口を挟む。

 いや、思念を挟んでくると言うべきか。


(でも幽霊ですよね?)


『わしはそれを超越したのじゃ。魔石に宿る精霊のようなもの……』


 本人がそういうのならまぁ、そういうことにしておくか、と私は思う。


 凶悪そうな生粋の山賊達とは別に、人質を助けてくれと嘆願した一人と子供達は内郭の中庭へ。


「お帰りなさいませ」


 館から出て来たセレナやメイド達に、私はまず先に子供達の介抱をするよう指示。

 子供達はメイドが案内して、城の内郭にある部屋へと兵士が抱えて連れて行った。


「保護されるのですね」


 テオドールに聞かれて、私はうなずく。


「まずは回復させて、帰る家があるなら聞かないとね」


 帰る場所がない時には……。またその時に考えよう。

 そうこうしていると、セレナが水を運んできた。

 私達や兵士達もそうだけど、例の山賊にも話をさせるためにふるまう。

 山賊は嬉しそうに飲み干していた。


「というわけで、確認作業をしてもらえるかしら?」


 彼らの処遇を決めるためにも、テオドールにこの山賊に審問してもらう。

 彼に聞くのは、子供達がちゃんと証言通りの人数がいたこと。住処もきちんと正しい場所を知らせたことである程度の証言の正しさが保証されているからだ。

 正直、山賊に尋問するのは、他に悪行をしていないか吐かせるぐらいしかないだろう。


 テオドールは山賊に経緯を尋ねた。

 山賊は、とても素直に応じる。


「私は貸馬車屋で御者として契約している者で……」


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