38 山賊の住処発見
まず私は、ニルスと兵士をもう一人連れて目的の草を探しに行く。
それほど探すのは難しくない草なので、森を流れる小川の近くで見つけ、採取した。
ころころと水の流れる音がする小川は、どこからか流れてきた大きな石が多くて多少歩きにくい。
でも石の間から元気に生えている目的の草は採取しやすかった。
すぐにテオドール達のところへ戻ると、ちょうど二手に分かれた一方の隊が、合図の笛の音を聞いて合流したところだった。
「領主様、無事合流しましたが……」
まだよくわかっていないテオドールに、捕縛した山賊を馬車まで連れて行くよう指示。
その指揮をする兵士に、暴れたらポンLV2を再使用で黙らせても良いと言っておいた。
少人数で見張るのに、そんなことされてこの兵士達が怪我や殺されたら困る。
残すのは「人質がいる」と発言した山賊だ。
「では、移動しましょう」
私はテオドール達と一緒に、まずは住処に近い場所へと移動を始めた。
ある程度進んだところで、テオドールの提案で偵察をしてもらった。
獣の気配にすら気づける熟練の狩人二人は、その先の草が茂る場所を、ゆっくりと進んでいく。
一応、ポンLV2を持たせたものの、私は心配だった。
山賊の住処にまだ人がいたら、足音で気づいて攻撃されてしまうのではないか。
逃げても草が揺れて場所がわかってしまうから、逃げにくいのではないか。
そんな中で、ポンLV2を投げる暇もなかったり、至近で投げるしかなくなってしまったら……。
風が吹き抜けていく。
私の背後から前へと。
先ほどよりも少し強いなと思いながら、この風が止む前に帰ってきてくれることを願う。
そうして気をもんでいると、狩人二人は無事に帰還してきた。
「間違いなく、この先300メートルほど先に住処らしき場所があります。人の姿もありました。山賊らしき男達が五人ほど確認できます」
「ありがとう。では、眠らせましょう」
私はたいまつに火をつけてもらう。
用意ができるまでの間に、先ほど摘んでいた弱い入眠作用がある薬草バレリアン。
これの根だけを使う。
採取したのが川の側だったので、もう根だけを切り離してさっと水で洗ってある。
普通の薬師なら、じっくり乾燥させてから使うものだけど、私の利用法は違う。
鉄のカップの中にバレリアンの根を小さくちぎって入れ、持参してきていた緑の触媒を取り出して混ぜる。
ガラスのマドラーを使ってよく混ぜつつ、魔力を加えていくと、ペースト状になって混ざり合った。
「ニルス、乾燥している枯葉か何かがないかしら?」
「こちらでどうでしょう」
さっとニルスが見つけてくれたのは、折れた枝についているものの乾燥しきっていた木の葉だった。
それをぎゅっと握って砕いてもらい、混ぜる。
最後に枯葉に水分を取られたそれを、丸く固めてテオドールに渡した。
「これをたいまつの火で燃やして、煙を起こします。ここが風上なので、山賊の住処に流れていくはずです。煙さえ吸えば、眠るか、そうではなくとも眠くなって行動できなくなるはずです」
安全に山賊の住処を制圧するのなら、攻撃力だけではだめだろうと、ふと思いついたのだ。
「領主様のご提案に感謝いたします」
テオドールも敵を眠らせられるならその方が良いと、喜んで受け取った。
さっそく丸く固めた『眠り玉』をたいまつの火で燻す。
すぐさま煙が上り、まだ吹いている風に乗って素早く風下へ流れていく。
私達は『眠り玉』が煙を上げなくなるまで、そうしていた。
最終的に黒く焦げた玉になったら、それは水をかけてから地面に埋めていく。
「行くぞ」
テオドールの号令で、私達はいよいよ山賊の住処へ移動した。
私は後方にいたのだけど、まだ草や枝葉が茂る場所を乗り越えている途中で、先行する部隊が「眠っています! 捕縛しました!」と声を上げる。
ようやく開けた場所へ出る。
そこは崖になっている場所だった。
そこに洞窟があるので、なるほど山賊が住処にしやすそうだ。
周囲には倒木を使ったのだろう簡易的な建物が二つある。
建物の前に二人、洞窟の前に三人。
すでに縄で縛られた山賊らしき男達が転がされていた。
あの『眠り玉』が効いたのか、うつらうつらとしながらも呻いているので、完全に寝落ちするところまではいかなかったようだけど。
兵士達が制圧するのには、十分無力化できたみたいでほっとする。
「人質はいたのか?」
テオドールの言葉に、兵士達はうなずく。
「洞窟の奥です。これから確認します」
まずは周囲の安全が確保できたので、テオドール達に知らせたらしい。
すぐに外で捕縛した者を監視する者と、洞窟内へ探索に入る者とに兵士の配置が再編されて、人質の確認に入る。
もちろん私は外で待つことになる。
何かあったら、洞窟は本当に逃げ場がない。
指揮するテオドールと一緒に外で報告を待っていたのだけど。
「領主様は……」
「どうかした?」
ぽつりと何かを言いかけたテオドールに、私は首をかしげる。
言うつもりがない言葉が転がり落ちただけだったのか、テオドールは困った表情をしつつも答えた。
「その、もっと好奇心が強い方だと思ったので、こちらの指示に従ってくださって助かると思いまして」
「ほほぅ。あれが見たい、これが見たいと突撃していくと思っていたのね?」
普通の『元伯爵夫人』の範疇ではないと驚いた後、テオドールはそんな風に私の印象を書き換えていたらしい。
テオドールがギクッとしていそうな表情になった。
図星のようだ。
「採取の時だって、良い子に注意を聞いていたじゃない?」
「しかし貴族婦人が山歩きはまだしも、籠を背負って薬草を摘んで歩いたり、石を拾うというのも稀なことですので」
ここまできたらと思ったのか、テオドールはやんわりとした反論をした。
薬草摘みぐらいはまだしも、石を拾っていたのがどうも不思議すぎたようだ。
「あと、楽し気に爆発物を投げていたあたりも、メイドでもなかなかしないだろうと……」
最終的に、どれくらいの力で投げればいいのかを確かめるのと、私でもちゃんと使えるのか試したくて、ポンLV2を城内で何個も投げていた。
あれのせいで、破天荒の印象が決定してしまったらしい。
「まぁ、普通の貴族婦人からは大きく外れてはいると思うけど」
「爆発物を投げようという方は、そう多くないと思います」
やんわりではあるが、テオドールは言う。
本当は「おかしい」とか「普通じゃない」とか言いたいんだろうなと思うと、なんだか可笑しくなってきた。




