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37 山賊にもいろいろあるらしく

 やがて山賊達の抵抗は終わった。

 意外と早かったように思う。

 そもそもポンLV2のおかげで、半数が行動不能になっていた。

 まぁ、そりゃそうだよね……。

 痛いもん、うずくまったりするだろうし。そうしたら、あっさりとお縄になるよね。


 歯向かって来た半数は、テオドールに指揮された兵士達と狩人が追いポンで倒していた。

 二度も爆弾を投げつけられては、さすがに怪我が深くなりすぎたようだ。

 それでも後はないと思うのか、剣を振り回していた者は絶命している。


 最後まで闘志を失わない者など危険すぎる。

 捕まえたところで、何度でも犯行を試みるだろう。


(ハルスタットに、そこまでの凶悪犯を捕縛しておけるだけのリソースってないものね)


 牢もそれほど数がない。

 見張りをするのは、たぶん兵士ということになるだろう。

 町の人は仕事があるし、人数が少ないので今まで火事や災害に対応する自警活動は多少あったようだけど、仕事の合間にやっていたみたいだし。


「しかし山賊としても人数が多いみたいですね。住処にはまだ人がいるでしょうし。領主様が赴任されて、兵士を沢山連れてきたうえ、騎士のテオドール様もいなかったら大変でした」


 様子を見ていたニルスがそうつぶやいた。


 捕まえた山賊は10人。

 テオドールは早速住処を吐かせようとした。


「では領主様は、少し離れていてくださいますか? お目汚しとなりますので……」


 そう言いながらテオドールが手招きするのは、屈強な狩人だ。

 彼は太い鞭を手にして、パシパシと叩いている。


「あれ……」


「特殊な鞭だそうで。新調したので使い心地を試したいと言っていたそうです」


 ニルスからいらない情報が出て来た。

 ちょっ、拷問趣味?

 怖っと思いながら、私は一歩引いてしまう。


 私以外にも恐怖を感じた人物がいた。

 捕縛されていた山賊の一人だ。


「お願いします! 子供達が捕まっているんで助けてやってください!」


 平身低頭するため、縛られた状態のまま前にごろっと倒れた山賊。


「捕まった子供?」


 テオドールの問いに、山賊は顔を横に向けて話す。


「俺はそもそも雇われの御者でして。でも雇った商人が馬車に乗せてたのは、子供達だったんで……。人を売るつもりだと気づいたのは後のことで、商人にも、その後襲撃してきた山賊も、手を貸したから同罪だし、逃げても無駄だと言われて……」


「その子供が、山賊の住処にまだ捕らわれていると?」


「へい。元々の商人を殺した底の山賊の親玉が、莫大な金になるらしいから俺達が売ると……」


 その山賊が、顔が髭もじゃの男に視線を向けると、当の山賊の親玉らしき男は「おい! この野郎口を閉じろ!」と怒鳴る。


「黙らせろ」


 テオドールの指示で、例の鞭が実戦使用された。

 思わず耳を塞いで目を閉じてしまう。

 一撃でとんでもない効果があったのか、山賊の親玉は気絶していた。


 使用した狩人がにこにこ顔で語る。


「やはり気絶の魔術効果がある鞭はすごいですなぁ。大物の狩猟に使える日が待ち遠しい」


 鞭打つのは確かだけど、気絶させる効果を出すためらしい。

 いや、それでも怖いけど。


(そもそも人が一撃で気絶するのも怖……)


『半分は衝撃のせいじゃな。道具に込めると、さすがに魔術の効果は半減する』


 カールさんの解説に、私は「え」と思う。


(あれで、半減……?)


『もともとは、複数人を一度に気絶させる術じゃぞ。衝撃を与えた相手しか気絶しないのであれば三流以下の効果であろう』


(魔術怖い……)


 考えてみれば、とんでもないことができるな、魔術。


『命を削るのだ、それぐらいの効果がなければ釣り合わぬ』


 そういうものですか。

 とりあえずこれ……どうしよう。

 嘘をついているようには見えないけど。

 私がそういうのを一瞬で見抜けるかというと、そこまでの特殊能力はないし。


 テオドールに目を向ける。

 彼は何事か考えているようだ。

 そのことにほっとする。

 さすが騎士として活動したことがある人だ。従騎士時代も他の騎士とともに色々な現場に出ただろうし、こういう状況の経験もあるかもしれない。

 と思ったのだが。


「領主様」

「はい」


「どうされますか?」


 普通に対応方法を聞かれてしまった。すかさず質問返しを敢行する。


「テオドールはどう思いますか?」


「まずこの山賊達をそれぞれ別の場所へ置き、尋問の上吐かせた場所が同じであるか、違いはないかを確認してからの行動が安全かと」


「齟齬があれば、何らかの罠という可能性もあるものね……」


「はい」


 テオドールはうなずく。


「次にそれなりの人数を改めて揃えて確認ということになります。他に山賊の仲間がいた場合、罠が張られているかもしれませんし。慎重にならざるをえません」


「でも人質が本当だったら、子供達は飲まず食わずになってしまうわ」


「はい、山賊の仲間が残っていた場合、逃げる時の足手まといになるなら殺されるでしょうし、連れていける状態なら、足が着く前にどこかに売る可能性もあります」


 この国では、基本的に人身売買は禁じている。

 でも裏で取引されていないとは言えない。

 どこにでも法や人の目をかいくぐって、悪事で稼ごうという人間はいるものだ。


 そして私に……子供を見捨てる覚悟はちょっと難しい。

 どうしても私を売るようにして結婚させた両親や、それまでの仕打ちを思い出してしまうから、子供がひどい目に遭っている姿は見たくないのだ。


『現役時代のわしだったら、全員を眠らせることもできたんじゃが……』


 話を聞いていたらしいカールさんの言葉に、ふっと思いつく。


「……」


 私は少し考えて、風向きを確認してから人質がいると言った山賊に尋ねる。


「そこのお前、山賊達の住処はどちらの方向なの?」


「はい、あの……あっちでして」


 折よく風下だ。


「テオドール、もう一隊を今呼びよせてください。私はちょっと兵を連れて採取してきます」


「採取?」


「ニルス、手伝ってもらえる?」


 テオドールは何をするのかわからずに首をかしげていたが、ニルスはすぐに気づいたようでうなずいた。


「はい、お手伝いいたします」


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