36 森へ討伐に 2
進んでいくと、やや開けた場所に出た。
そこから二手に分かれて、山賊の痕跡を探す。
もちろん、二手に分かれるといってもあまり離れることはない。
山賊の人数が多かったら、片方ずつ倒されてしまいかねないから。
森の中、歩きで進むのは大変だ。
けれどやっぱり森へ来て良かった。
いい物が見つかる。
「ルーンの花」
ふかふかとした腐葉土を栄養に、老木が倒れて少し開けた場所には沢山の植物が生えている。
その中には、薬草も多い。
薬草は、雑草のように丈夫か、大地の栄養を沢山吸収できる場所で育つことが多い。
薬草のせいで、他の草を枯らすまである。
このユリに似た小さな水色の花を咲かせる薬草は、栄養がたっぷりある場所にたどり着いたおかげで、繁茂しているんだろう。
他の雑草に混じりながらも、それなりの数が生えている。
「栄養剤、栄養剤」
ルーンの花は栄養剤になる。
とっておこう。
トーカの傷薬他の材料としても最適だし。
もはや、私の目的はルーンの花を採取したところで達成されたようなものだった。
あとは山賊を討伐して、足りない分は誰かに依頼して採取してきてもらえばいいし。
さて山賊対策の方に気持ちを向けよう。
そう思いながら、テオドールについて歩いていくと……。
テオドールの前を歩いていた兵士が足を止めた。
異変を察知したのだろうと、全員がそこで止まり、耳を澄ませる。
私には気配はよくわからない。
緊張する中、胸ポケットに入れているカールさんが言う。
『人の気配ならばわしの方が気づきやすい。場合によっては、わしの誘導通りに走れ』
(わ、はい。ありがとうございますカールさん)
戦闘能力皆無な部分を、少しカールさんが補ってくれるようだ。
それでも緊張しつつ、私はいつでも逃げられるように背負い籠の肩紐を握りしめる。
やがて先頭の兵士がすぐ後ろの兵士に何かを話す。
二番手にいた兵士は、弓を取り出した。
やっぱり何かいるらしい。
テオドールが少しだけ私の前に寄る。
何かあった時には庇えるようにだろう。
そして敵も、弓を構えたのに気付いたのか……。
「お、お許しください!」
草木の茂みに隠れていた男が、両手を上げて投降してきた。
私はぎょっとしたけど、兵士やテオドール達は微動だにしない。
兵士も弓を構えたままだ。
先頭にいた兵士が投降してきた男に尋ねる。
「何を許せと?」
「へ、へい。その、兵士様方が森に入っているところに遭遇したら、狩をしてたとしても不審に思われて怒られるのでは、と思いまして……」
「狩人だというのか?」
「へ、へい」
兵士にそう答える男は、たしかに狩人のような衣服を着ていた。
毛皮のベストは、防寒でもあり、獣の刃から身を護るための物で狩人がよく着ている。
手首や足首のあたりで衣服を上から紐で絞っているのも、野山で枝にひっかけたりしないようにするためだ。
背負っているリュックも、たいていの狩人ならば道具なり緊急の食料を入れて持って行動するものなので、よくあること。
むしろ山賊に見えない。
(山賊ってもっとこう、拠点を持っているから狩人みたいに獣を追いかけて何キロも歩くようなことしないんじゃないのかな?)
私の疑問にカールさんが答える。
『その通り。こやつはおかしい』
それはテオドール達も同じ意見だったようだ。姿を現す前よりも警戒している。
「狩人なら、今日は森に入らないように通達したはずだが? なぜここにいる」
しかしこの会話そのものが、彼らの時間稼ぎだったようだ。
「そんな通達、しらねぇなぁ! おい!」
狩人(仮)の言葉に、周辺の四方八方から人が飛び出してくる。
これは間違いなく、山賊狩りに気づいて、逆に襲ってきたということだろう。
こちらに向かってくるのは、狩人のふりをしている者が五人、木こりの格好をした者が十人、旅人のふりをした人が十人。
こっちよりも人数が多い。
『商人を油断させて襲うために、こんな衣装をしていたのだな』
カールさんの解説の声と、テオドールの号令が被る。
「放て!」
まずはポンLV2の使用号令だ。
いつのまにか兵士達はポンLV2を握っていて、一斉に山賊達にぶつける。
私達から、山賊のひそんでいた茂みまでは少し距離があったので、多少の爆風とともに悲鳴と怒号が上がった。
「痛い、痛い!」
「うぉぉあああ」
痛みにのたうち回る者。
血を流す者。
凄惨な光景に、思わず顔を背けそうになる。
『これに慣れておらんと、籠城戦になったらもたんぞ』
カールさんの言葉に、私はうなずいて踏ん張る。
「領主様はここにいてください。ニルス、領主様から離れないように」
そう言ってテオドールが剣を抜き、いつの間にかニルスが側にやってくる。
「あ、ニルスもいたのね」
まったくわからなかった。
するとニルスは剣を手に持って苦笑いした。
「その様子でしたら、大丈夫そうですね領主様」
「え?」
大丈夫ってなんだろうと思ったら、少し離れた場所で兵士が向かって来た山賊を切り倒している。
血の臭いに息を止めてしまう。
多少視線はそらすけれど、でもこんな時だからこそ逆に周囲を見ないわけにはいかない、とも思う。
(周囲を把握できなくなったら、攻撃されても逃げられない……)
私にできるのは逃げることだけだし、味方に庇ってもらうことだ。
最適な行動をするためにも、誰かが不意打ちしてこないかを警戒するべきだし、味方の位置も見失わないようにしなくては。
『うむ、見上げた根性じゃ。どこかで習ったのか?』
(根性の方は、実習しましたので……)
だいだいはローランドのせい。
会うたびに、とりあえず逃げる方法や「こう来たらこう」と避ける方法を考えずにはいられなかったから。
一度でも殺されかけたら、誰だってそうなると思う。




