34 爆弾量産計画
この日、山賊討伐の武器はできた。
翌日はギベルが引っ越しをしてきたので、使用人に荷物運びを任せて、ギベルに討伐計画について提案してみた。
「爆弾を作りました。怪我する程度ですけど、人数の不足も、兵士の不足も補えます」
そうして見せたのは、昨日作ったポンLV2だ。
ギベルはテーブルに置かれた球体をまじまじと見る。
生成りの紙を使ったので、白っぽい球体にしか見えない爆弾だ。
それからギベルは微笑んだ。
「錬金術の爆弾とは、久々に拝見しましたな」
「ご存じなのですか?」
「もちろん。伊達に齢を重ねてはおりませんよ領主様。ただ、見たのは一度きりですな。古い錬金術の爆弾を持っている町長がおりまして、魔物退治に使用したのです」
「かなり威力があったんですか?」
実際に爆弾を使ったところを見たことがない私は、興味津々だ。
ギベルはうなずく。
「はい。かなり昔に作成された物らしく、期待しておりませんでしたが……。魔物の足が吹き飛びましたな」
「足が……」
「城の壁の半分もある丈高い魔物でおりました」
「それは本当にすごいですね」
話を聞いて私はわくわくする。
やっぱり錬金術は、効果がすごい。しかも年数が経っていても使えるんだ。
(今回のポンLV2なら、私一人でもそれなりの数が作れるし、護身用に売り出したらとても繁盛しそう)
それを次の錬金術素材の軍資金にしたり、町の修繕にあてたりできるかもしれない。
「ですから、それを使えるのなら、山賊討伐はかなり有利になるでしょう。剣が使えない者も兵士として使えますので、山狩りにはもってこいかと思います。威力についてはどうですかな?」
「あ、テオドールが検証してくれましたので、意見をお聞きください」
私では、戦闘時にどれくらい役立つか正確に想像できない。
だから爆弾の実験を見ていたテオドールに話を振った。
部屋の隅に立っていたテオドールは、「はい」と応じてくれた。
「領主様から数個預り、麦わらの人形に当ててみました。当たった個所が指関節二つ分ほどの深さで吹き飛びましたので、殺傷力はほどほど。怪我をさせてしまえば、すぐには死ななくとも治療されなければまず助かりますまい」
「周辺への影響も確かめてくれたのよね」
私の言葉にテオドールはうなずく。
「周囲、腕の長さほどの距離に複数の麦わら人形を立てまして、それで確認しました。至近にいる者には切り傷ほどの影響がありました。おそらく五メートルほど離れれば、怪我はそうそうしないかと思います」
「ありがとう」
なにせ元がコーンだ。
爆発した瞬間の攻撃力で怪我をさせるけれど、そこから拡散したらすぐに威力が衰えてくれる。
人が多いところでも、適切な距離を保つ余裕さえあればなんとか使えるだろう。
ギベルはふむふむとうなずいた。
「乱戦になる前に、その爆弾で戦闘できる者の数を減らすことができますな。それであれば、森や山へ入る者、農民で手が空いている者から人を募りましょう」
「怪我をする恐れがあることですし、数日間、仕事の手を止めることになりますから、日当を出したいと思います。金額はギベルに任せていいですか? 必要な人数は、テオドールや山狩りの経験がある者と話して決めてもらえればと思います」
資料を読んだけど、順当な報酬額に自信がない私は、ギベルに任せることにした。
「承知いたしました」
ギベルに返事をもらったので、私はさらにポンLV2を量産することにした。
「でももう百個ぐらい作ったら、さすがに溶岩石が心もとないわね……」
考えた末に、フレッドとニルスにお願いして、またハル湖でペリドットを探してもらうことにした。
溶岩石の代わりに使えるのだ。
予備の算段がついたので、溶岩石を大判振る舞いすることにした。
一日かけて、またコーンを爆弾に変えていく。
そして翌日には急ぎでもあるので、ミカ以外の使用人にも、最後の球にするところを手伝ってもらったんだけど……。
「昔、泥だんご作った時のこと思い出す……」
「バカ、紙丸めてるみたいなもんだろ」
「でもなんか、こういう遊びしなかった?」
手が空いたということで、お掃除のメイドから城の管理をしている使用人までやってきて、十人で作業をしてくれた。
人数が多いのと天気がいいので、工房の外に材料を持ち出して作業をしてもらった。
外に出したテーブルにみんながわいわい集まって作業をしている様子は、どことなくピクニックのような雰囲気がある。
チョコレートを食べながら、なんとか300個作った甲斐があった。
おかげで魔力は枯渇しそう。
なんだかめまいまでしてくる。
「セレナ、後は任せていいかしら? ちょっと、めまいがするから寝る……」
「お任せくださいませ」
現場監督をやり方を知っているセレナに任せて、私は自室へ。
疲れすぎていたのか、そのまま朝まで眠り続けてしまった。




