33 爆発物作成2
すぐには調合ができそうにないので、ソファーにぐったりと寄り掛かる。
休憩のお供にしたのは、リュシアンから融通してもらっていたお菓子だ。
筒のような形の焼き菓子にチョコレートなる物がかかったお菓子は、魔力回復にいいらしい。
薬草茶と一緒に、もぐもぐと食べる。
砂糖控え目だからか、お茶がやや苦いせいなのか、するするとお腹の中に入っていくので太りそうで怖い。
調合が終わったら運動しよう。
四本目をもぐもぐしつつ、ギベルの使用人が今朝運んで来てくれていた、領地の過去の報告書を眺めることにした。
グレイ伯爵家の飛び地でもあるので、念のために複写をしていたそうな。
その複写を先に、私にくれたのだ。
本証は、三日後ぐらいにギベルが引っ越した後、ギベルの執務室に置くことになる。
「うーん、なるほど。報告書の書き方は子爵家の時よりも丁寧でわかりやすいわ。さすがギベル」
熟練の代官だったギベルは、さすが報告書一つとっても理路整然と内容が整えられている。
まず主題と顛末がさっと書かれた後に、経緯が順に箇条書きになっている。
箇条書きの横に、数字が必要な物はそれも書き込まれているのでありがたい。
橋が流されて再建したと書かれても、土地勘がまだない私には、その橋が大きいのか小さいのか、重要なのかどうかわからないけど、かかった費用と日数でそれが推測できるから。
ギベルの注釈まで読むと、ハルスタットでは火山の堆積物が多い場所では大雨になると土砂崩れが多いようだ。
近年火山が噴火したことは間違いなく、だから町周辺の盆地は肥沃らしいんだけど。
「やっぱり不思議よね。湖に沢山ペリドットがあったのって」
たいていのペリドットは、地下を掘るか、火山の噴火とともに噴出する物を拾うことになる。
どこかの鉱山が崩れて、それが川から湖へ流れついたとも考えられるけど……。
「ペリドットが出そうな鉱山、見当たらないしな……。というか、鉱山あんまりないのね」
報告書を一年分見たけれど、鉱山のことは一度として出て来ない。
ただ、祭の支出関係の中に、山に捧げものをする儀式があるようだ。
ハルスタットの人達にとって、山は山菜や獣を狩るなどの恵みを与えてくれる物でしかないのだろうか?
「捧げものも、キノコらしいし」
『キノコ?』
それまで黙っていたカールさんが、私の言葉に反応した。
石の中にいても、眠ったりするのか、黙っていることに長年慣れてしまったのか、時々黙り込むカールさんである。
「キノコが何かひっかかりますか?」
聞くと、カールさんは『うーむ』とうなった。
『何か思い出しそうな気がしたんだが……。はて何だったか』
「思い出せたら教えてください」
『そうするかのぅ。わしの故郷のキノコ料理のことを思い出したが、記述のキノコとは違う気がするが……』
「料理ですか」
カールさんは、ふっと昔を思い出しただけかもしれないな、と私は思う。
でもキノコ料理。
ということは、やっぱり山の幸への感謝の捧げものってことだろうか?
「よっぽど鉱石がとれない火山なのかも? だったらペリドットが出るのも……うーんやっぱりおかしいわよね? 宝石として使える物もあるだろうし、そうじゃなくてもあれだけ沢山湖で拾えるなら、アクセサリーを作って他の町で売ったり、ハルスタットの人が身に着けててもおかしくないはずなんだけど」
謎は深まるばかりだ。
そうこうしている間に、夕方になる。
夕食前にもう一仕事しようと、私は工房へ向かった。
「よーし、火の触媒とペリドットを使って……」
二つを混ぜ合わせて液体状にした鍋に、コーンをざーっと入れる。
爆発しないよう、混ぜる時は火を止めた。
やがてコーンは鈍い色の小さな球体になっていく。
全てのコーンが変化したところで、私は数個をまとめて布に入れ、その上から紙を貼り、蝋を塗って片手で握り込める大きさにする。
「できた」
いうなればポンLV2。
翌朝になってから威力を確認した私は。
「わあっ!?」
「なんだ!?」
離れた場所にいた兵士達を、爆音で怯えさせ、一緒にいたセレナに悲鳴を上げさせた。
そしてぶつけた壁が、ちょっと欠けている。
「ポップコーンでこれはなかなかいいわね」
「いいんですかこれ!?」
珍しく驚いた表情のセレナに、私は微笑む。
「これでいいの。だって山賊討伐に使うから。あと、量産するから手伝ってもらえる? ミカも呼んでほしいのだけど」
布に入れて紙と蝋で球体に仕上げるのに魔力はいらない。
ひたすら作業が必要なので、人手こそほしい。
「承知いたしました」
セレナはやや呆れた顔をしつつも、うなずいてくれたのだった。




