32 爆発物作成1
翌日、頼んだ物が工房の前に置かれていることを確認し、さっそく作業に入った。
「最低でも100個。最低でも100個……」
つぶやきながら、まず天秤を出す。
分量を書いた紙と見比べて、コーンを計量。
もともとのレシピには毬栗が使われていたので、気持ち多めにする。
計ったコーンのうち、一部を鉄の片手鍋に入れて、そこに計ったペリドットを一つまみ。
それをランプの火で加熱していく。
ほんのり暖かくなる程度にするため、鍋はランプより高い位置に上げて、時々その下に手を触れて温度も確かめる。
そのうちに、ペリドットがちょっとずつ溶けて、コーンに緑の色がコーティングされていく。
出来上がったら、それを布を使ってくるみ、溶かした蝋を塗って、その上に紙をぺたぺた貼って丸く成形。
で、出来上がったのが、私が握り込める大きさの球体だ。
「まずは実験」
私は工房の外に出て、中庭へ。
少し離れた場所で、館の私兵が訓練をしている。
それを眺める私に、工房の近くにいたらしいミカが駆け寄ってくる。
「領主様、調合は終わったのですか? お茶になさいますか?」
用事を訪ねてくれるミカに、私はお願いをした。
「あそこにいる兵士達に、大きな音が度々するけど、気にしないでほしいと伝えて来てくれる? たぶん、今日明日、何度もあると思う、とも」
「? はい、かしこまりました」
ミカは首をかしげながらも、伝言を請け負ってくれた。
駆けていく彼女を見ていると、伝言を受け取った兵士達の方も首をかしげている。
「うーん、わけがわからないだろうけど、そう伝えるしかないし」
実際に作ったこともないし、見たこともないので、私も予想でしか話せないのだ。
ミカが戻って来たので、さっそく実験を始める。
基本的に、石壁を壊せるほどの威力はないのと、私の腕力の関係で、内郭の壁に作った球体――LV1ポンを投げた。
壁にぶつかった瞬間……、白い煙と香ばしい匂いとともに爆発した。
「きゃっ」
「わっ」
ミカが可愛い声で驚き、しゃがみこんだ。
わかっていたのに、私もびっくりする。
でも、小さい煙がぱっと散っていったぐらいだ。
壁には痕も一つもないし、すぐ下の草も生き生きとして、葉が折れる様子すらない。
そして散らばるのは、真っ白くふくらんだ、ポップコーン。
「なんか美味しそうな匂いがします、領主様」
「うん、コーンを焼いたから」
油を使って高温で焼いたコーンは、爆発とともにふくらんで、塩をかけるとおいしいおやつになる。
この調合は、その爆発を起こす魔力を使った物だ。
そしてちゃんと爆発はしたものの……。
「……威力が弱すぎる」
「おいしそー」
ミカが地面に散らばるコーンを見つめる中、私はコーンの分量を増やすだけではだめだ、と考えていた。
何かもっと、爆発時にダメージを与えないと、山賊に使った時にちょっとびっくりされたりするだけになる。
しかも怪我をしないとすぐ慣れて、爆発にも驚かなくなるだろう。
それでは意味がない。
「爆発した時に、石を撒く……。それでも爆発の威力が少ないし、打ち身だけになりそうだし」
本格的に、しっかりと怪我をする物にしなければならないようだ。
抵抗はあるものの、いずれは戦争に対抗しようというのに、この程度で怖気づいてはいられない。
「殺傷力……。鋭すぎると、近くの人も怪我をするから……。もっと火力を上げよう」
ぶつけられた相手を、確実に怪我させるにはそれがいい。
離れていれば怪我しないようにしておけば、山賊退治に行った人達も安全だ。
私はさっそく工房に戻り、再作成を始めた。
「まずは火の触媒を生産……」
リュシアンにも触媒が沢山ほしいと言われていたので、この際量産しよう。
買い置きの溶岩石を一気に火の触媒にしていく。
何度か作った物なので、これならできる。
「溶岩石と、竈の火は……これ」
普段は専用のランプを使っているけど、それでは竈で火の魔力をもらおうにも、ささやかすぎる。
なのでこれも特別な鉱石を使用することに。
「石炭、いきます!」
貴族夫人が石炭を少量買いたいというのも変に思われかねないので、伯爵家から融通してもらった物だ。
それをはるばるこの領地に届けてもらっていた。
ので、樽一つ分ある。
領地をもらうと決まって、山の上だとわかってから、追加で融通してもらっている。なので、樽で十個は追って届くはずだから、遠慮せず使う。
溶岩石を鉄製の棒でかき混ぜる。
私の魔力も込める。
反応を起こす呼び水とはいえ、長い時間をかけてちょっとずつ使うので、ある程度の状態になる頃には、疲労感がすごかった。
でもようやく、溶岩石が一個ずつ溶けていく。
使う石英の粉は、とっておいた物を瓶一つ分入れる。
そうして出来上がった火の触媒。
早く冷ますために、移した四角い鉄製の容器を水一杯の盥の中に入れる。
これでお昼になった。
昼食を食べて休憩。
魔力を使ったので、かなり疲労していた。




