31 山賊討伐のための提案
「もし爆弾みたいな物があれば、どうでしょう? すぐに討伐できるんじゃないでしょうか?」
『ほ、そんな物が錬金術にはあるのか』
「一撃で相手を倒せはしない物なんですけど……」
『なんぞ問題でもあるんか?』
「ほんとに、多少怪我をするだけなんです。でも投げるだけなので討伐人数の不足を補えるし、驚かせることはできるし、足止めとか、戦意喪失させるのにいいかなと思うんです」
『ほぅ? でも怪我をさせられるなら十分じゃろ。鍛えられた傭兵でもあるまい? 驚いて逃げるか、痛みに転げまわっているところを倒せばよい』
さすが魔術師。戦闘経験があるのか、倒しやすいかどうかという視点で評価してくれた。
『あと、投げるだけで良いのなら、兵士以外にも協力させられる。人数の不足はそれで補えるじゃろ。あとはいくつ作れるかだ』
「いくつ……。個数か」
そこへ、ミカがお茶を持って入って来た。
「失礼いたします、領主様。お茶をお持ちしました」
「ありがとう」
お礼を言って、机にお茶を置いてもらったところで、私はミカに尋ねる。
「ところで栗やコーンの実って、食糧庫にあったかしら?」
領主として来るにあたって、食料は調達して倉庫に入れてもらっていたはず。
今後は領地の税や、私が錬金術で稼いだお金で買っていくことになるけど、なにせ赴任したての年は勝手がわからないので、ローランドの家令に頼んで必要そうな物を購入して送ってもらっていた。
で、ローランドの家令は『元は伯爵夫人だから……』ということで、貴族婦人が好みそうなお菓子の材料やお茶の葉とか、そういった物を多く準備してくれたようだったけど。
お菓子用の栗とか。
食事用にコーン。
このあたりがあると、山賊のいない場所へ探しに行かなくても済むのだけど……。
ミカはにぱっと笑って答えた。
「確か、どちらもあるかと! コーンは乾燥させた物で、栗はシロップ漬けにした物だったと思います」
それなら、皮までほしいので栗は無理だ。
考えてみれば、冬を過ぎて今の今まで栗がそのまま保存できるわけがなかった。
「それならコーンを一袋……1キロぐらい、工房に運んでもらっていいかしら? あと木綿の布があったら、それを一巻きぐらい」
「工房ですか?」
ミカはそこがひっかかったようだ。
目を丸くしている。
たぶん、食べ物や布を錬金術に使うなんて思わないからだろう。
「そう、工房。明日の朝までに主塔の工房の前に置いてほしいの」
「はい、わかりました……」
不思議に思いながらも、ミカはうなずいてくれる。
貴族に従うのは当然の世の中なので、なぜ、と聞かないでいてくれたんだろうけど。
その後、私は工房から錬金術の本を部屋に持って来る。
時間がある時に、何回も何回も見直した本。
これは師匠のそのまた師匠が自分の知っている錬金術で生成できた物を、記録していき、弟子である私の師匠が注釈を書き加えた物だ。
大事だからこそ、自分も書き込みをしつつ、複製を作っておきたいと思っている。
そう、戦火を逃れたら……。
今は、私でも作れる簡単な爆発物の作り方を探す。
「本格的な物だと、もっと練習を積まないといけないし、材料もまだないから……。あ、これ」
見つけたのは、ポン。
火が出るような爆発物はボムと言うけど、殺傷力までないこれは、二代前の師匠が作り出した物らしく、名前もわかりやすく、似ているけど軽い物にしたらしい。
「ポン……ほんとは栗を使ったり、カンの実を使うけど、コーンでも代用できるはず……。たぶん、ペリドットの量を増やしていけばいい」
私は別の紙に、自分が想像する分量をメモ。
必要になりそうな手順もメモする。
そして万全の態勢を整えるため、しっかり眠る。
……いや、眠れない。
「心配すぎて眠れない……のかな」
ため息をつく。
不安だからかもしれない。
でも眠らないと、手元が狂ったり、作業中に力の加減がおかしくなる。
なんとかしようともぞもぞ寝返りを何度もしていたら、声が聞こえた。
『なんじゃ、眠れないのか』
カールさんだ。
「打開策を思いついたのに、なんでか眠れなくて……神経が高ぶってるのかもしれないです」
『上手くいくかもしれないと思っても、逆に落ち着かないもんじゃな。わしも大魔法を思いついた時には、早く実行したくて落ち着かなかったわい』
「そういうものですか……」
不安なだけじゃなくて、希望が見えた時も眠れなくなるようだ。
考えてみれば、ローランドと結婚が決まって、とんでもない年長でもなく、身なりもしっかりとした彼と初めて顔を合わせたその日は、よく眠れなかった。
もしかしたら、幸せな結婚生活ができるかもしれないと思って。
まだ見ぬ楽しい未来を思い描いてしまったから。
それも一瞬で消えたわけだけど……。
(あ、なんかあの頃とちょっと似てる)
そんな風に私は思った。
今は、新しい希望がまた消えそうになって。
あの時はあきらめたけど、今はなんとか希望を捨てたくなくて、必死に頑張っている途中だ。
『一つ、よく眠れる良い案がある』
カールさんがいい方法を教えてくれると言う。
「なんですか?」
『数を数えるのだ。そのうち飽きてきて、眠くなるぞ』
「うーん、試してみます」
それだと数のことを考えて、なんだか眠れなくなりそうだと思ったけど、せっかくの助言なので実行した。
「いーち、にーい、さーん、しー……」
がんばって100数えたところで、なんだか面倒になってしまう。
そうすると、なんだか眠いような気がした。
最後に記憶に残ったのは、カールさんの声だった。
『休むがよいぞ、シエラ』




