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30 山賊のことで悩む

 ギベルは私が町の外に出ていることを知っているので、心配で声をかけてくれたらしい。


(でも、採取ができないと困る)


 一番作りたい、深い切り傷にも効果がある薬を調合するには、どうしても森にある素材が必要だ。


「山賊を討伐するまで、どれくらいかかるかしら……」


「以前は、一か月ほどかかったようです」


 驚いたが、口に出すのはこらえた。

 だって急いで色々としなくてはならない、と思っているのは私だけだ。


(今、隣国にいるベルナード王国軍が来るかもしれないなんて言ったって、私の気がおかしくなったと思われかねない)


 王国の中枢にいる人や、貴族は多少警戒している。

 ただ、今じゃないとみんな思っているのだ。


 あちらは一国を侵略したばかり。

 兵も、兵糧も使って、疲弊している。

 支配した隣国の資源を使うにしても、兵士として利用できるほどの権力を発揮できるのかどうか。


 むしろ侵略戦で人が減っているだろうから、兵士として征服地の国の人を利用しようにも、数が揃わない可能性もある。

 せめて三年ぐらいは統治に力を注ぐだろう。

 それから先は、警戒しなくてはならいので、今のうちに国力を増やして兵の準備も始めようか。

 ……みんなそんな感じらしいのだ。


 そんな中で、警戒して西の様子を見に行くことにしたリュシアンは希少な人だった。

 不穏な話を聞いたからって、確かめにまで行く人はいなかったし、リュシアンも『気にし過ぎではないか?』と言われたそうだ。


 ただ、リュシアンは自分の勘を信じた。

 魔術師は勘が鋭いのだろうか?

 だから、カールさんも未来のことを夢に見たとか?


 とにかく、様子を探りに行くだけでも「やりすぎ」という目で見られる中、本格的に備えをしようとしているとわかったら、周囲の人々に呆れた顔をされるのは間違いない。

 心配性だというレッテルを張られて、肝心な時に『そんなに心配しなくても』と思われるのも怖かった。


 だから言えない。

 でも、悠長なことはしていられない。


 その時、声が聞こえた。


『おい……おい……』


 カールさんだ。でも、この場で返事をしたら、さすがに頭の中が混乱してしまったと言われかねないので口をつぐむ。

 カールさんは一体どうしたんだろう。

 石の身だけど、どこかかゆくなったとか、そういうことを訴えたいんだろうか?


『かゆみなぞないわ! まったくこの小娘は……』


 思考が読み取れるのか、カールさんがぶつぶつと文句を言う。

 そして周囲の人には聞こえていないようだ。

 黙り込む私を、じっと見ているだけ。


 私ははっと我に返って言った。


「とりあえず、山賊のことを教えてくれてありがとう。ギベルには感謝していたと伝えてください」


 そう言ってギベルの使用人を帰した。

 私はひとまず、お茶を頼んでメイドに部屋から出てもらい、一人になることにした。

 それから改めて、カールさんに話しかける。


「カールさん、何か御用がおありですか?」


『用はあるが、わしのではない。山賊をどうする気じゃ? さすがのわしでも、一か月間何もできぬままでは厳しいことになると思うが』


 カールさんは心配だったようだ。

 そりゃ、自分の石が壊されるかもしれないから当然だろう。


「私も一か月もの間、足止めされるのは困るので……。本当は討伐ができればいいんですけれど」


 私も困っているのだ。


「そもそも森に入れないと、木こりも仕事ができなくなりますし、森に採取に入って食事の足しにしている人も困ってしまいます。一か月は長い……」


 自分も、森に入って甘味を探してさまよった身なので、そういうことを心配してしまう。


「特に我慢できなくなった子供が、こっそり入って山賊に殺されでもしたら……心配だわ。人質として金づるにできないからといって、殺されないわけじゃないし。見かけたという目撃情報を話されると困るから殺すでしょうし。目撃場所から潜伏先を推測されたくないでしょうからね」


 つぶやいていると、カールさんが驚いたように言った。


『お前さん、領主業とか山狩りみたいな仕事には従事していなさそうじゃったが。そこまで考えられるなら、そこそこ賢いのではなかろうか?』


 びっくりするのも無理はない。

 普通の貴族婦人が、そこまで考えることはないだろうから。

 夫の代わりに討伐の指揮をするとか、そういうことでもない限り。


「私はその、ちょっと英雄譚が大好きだったもので」


 というか、実家に子供が読めて、私が楽しめる物がそれぐらいしかなかった。

 父も読んでいる形跡がなかったし、母も本が好きじゃなかったから、何代か前の子爵家の人間が購入していた本なんだと思う。


 絵本みたいに、さらっと良かったところ、ちょっと難しかったところをなぞるだけの物語じゃなく、一代記みたいに苦労話が詳細に書かれていたうえ、十冊ぐらいの超長編のお話だった。

 おかげで長い時間楽しめたし、「山賊討伐ってそうなんだ、へー」という、おおよその概要や追体験ができていた。


 さもなければ、私だって「山賊討伐? 誰かやったことある? 一か月かかるの! 困った……」で止まっていただろう。

 もしくはどうしようもなくなり、ぎりぎりの時になって『逃げる人は一緒に来て!』と言って、同意する人達と一緒にハルスタットを去ったかもしれない。


「かといって、何か爆発物とか、攻撃できる物でもないと……あ」


 今、持っている材料でできそうな物がある。

 それが作れれば……。

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