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27 傷薬の作成を助手と一緒に

 これで、すぐに調合に入れるだけの物が揃った。

 ただし私の体力的な問題は別だ。


「くぅっ、筋肉痛……」


 翌日の私は、足も腕も筋肉痛になっていた。

 考えてみれば私、筋力がつくわけがない生活を送っていたのだ。

 伯爵夫人としてパーティーに同伴する必要もないし。

 目立つのも、なにかと面倒ごとや説明しにくいことが多かったので、外出もそれほどしなかった。


 時々王都の公園を歩くとか、リュシアンと知り合ってからは、師匠の家を訪問したり、錬金術に必要な物を買いに行ったりしてたけど。

 それも頻繁に、長時間歩くという物ではなかったのだ。


 とどめに、錬金術に必要な本を読んでいることが多くなって、運動をしていなかった。

 筋肉痛になるわけだ。


 しかし時間は待ってくれない。

 いつ何時、ベルナード王国軍が国境を破ったという情報が来るかわからない。

 ゆっくり調合練習なんてしていられなくなる。


 朝食を終えた私は気合を入れた。

 セレナには領主としての用事が出来たら呼んでくれるように言い、工房へ向かう。


「大丈夫ですか? お手伝いいたします、領主様」


「あ、ありがとう。水を汲んだり頼むかもしれないから、ついてきてもらえる?」


 足ががくがくする私を気遣ってくれたミカも、一緒に工房へ入った。


 まずはミカに、水の用意を頼む。

 魔石はあるので、溜まっていた水を外の甕に移し(これは農業他の水として使ってもらう)コップに持ってきた新しい水を呼び水にして、魔石の力で樽を新しい水で満たす。


 それとは他に、昨日のうちにフレッドとニルスに頼んで、湖の水を入れてもらった水瓶が工房の中にあった。


 洗い場には、採って来た薬草を水に浸している。

 錬金術の材料としては、乾燥させてもいいけれど、品質を上げたいなら新鮮な方がより良い。

 特に、まだ調合慣れしていない私には、この方が最適だろう。


「さて、ミカにはこっちの薬草を一束ずつ洗って、刻んでおいてもらえるかしら」


 その間に、私は翡翠と思しき石を割って確認する。

 工房には、石の種類を特定できる物がある。


「確かここに……あった」


 長櫃から戸棚の、下の棚に移していたランプを出した私は、火を灯した。


「不思議なランプですね。ガラスが薄い紫で……」


 ろうそくの火を灯す中央を囲んでいるのは、薄紫のガラスだ。

 これは遮熱のためだけに使われているガラスではない。


「魔石の入ったガラスらしいわ。これで、鉱石の種類を特定する情報が増えるわ」


 割ってみた翡翠らしき鉱石に、ランプの明かりを当てる。

 すると、ランプの明かりを受けた石を通り抜けた光が、机の上にプリズムを移す。

 虹色の中に銀、そして緑と青の要素が多い。

 その幅を計って、私はうなずいた。


「翡翠で間違いないわ」


 書物に書かれていた、翡翠の光の幅や種類と同じだ。

 翡翠は時々緑色じゃないものもあるので、これで確認しないとわかりにくいのだ。


 判明したところで、私は翡翠を割る。

 そこで、手早く作業を終えていたミカが手伝ってくれた。


「私がやりますよ、領主様」


「ありがとう。指先で摘むぐらいの粒になるように砕いてもらえたら嬉しいわ」


 ミカは指示通り、布に包んで石をハンマーで叩く作業に移ってくれる。

 私はその間に、触媒を作ることにした。


「ハル湖の水……これぐらいかな」


 水瓶に入れていた水を柄杓ですくってガラスの器に移す。

 それを天秤で計っておく。

 今後、より良い量を模索するためには、この記録が必要だ。

 水源によって、水の魔力量は異なるから、本に書かれた量のままでは失敗することもあるのだ。


「一応、練習は伯爵家の井戸水でもやったけど、井戸水はほとんど魔力がないから。ハル湖の水では調節しないと」


 あの時の水の量の記録を見て、少し減らした数値にする。

 それから、水の魔力がある物を足す。


「できました!」


 ミカが割ってくれた翡翠を受け取り、これも天秤で量を計る。

 本では分銅五つ分となっていた。

 けれどこれも翡翠ではない物を使っての量だから、少し減らしておこう。


「おおよそ、水20に対して翡翠が1……」


 これを鉱石混じりのガラスのマドラーで混ぜていく。

 その時に、自分の魔力を使う。


 私の魔力そのものは、魔力を混ぜ合わせる接着剤ぐらいの作用をする。

 それによって魔力だけが引き寄せられて集まり……。


 だんだんと水に翡翠の色が溶けだしていく。

 やがて青くなっていくと、マドラーの周囲に集まってきた。


「そろそろ……」


 私は用意していた小さな鉄の杓子を使い、青い水のようなものを取り出して、別の瓶に入れていく。

 瓶の中に入れた水は、どろっとした粘性がある。


「わあっ、なんだかゼリーみたいですね」


 横で見ていたミカが、興奮したように言う。

 最後まで青色の触媒を移し終えた私は、同意した。


「そうよね? ゼリーみたいに見えるけど、食べると舌がびりびりするし、喉も痛くなると思うわ」


 胡椒とは違う刺激があるのだけど、それが何なのかはわからない。

 ミカは意外そうな表情をする。


「領主様、味見なさったんですか……?」


「その、ゼリーみたいだと思って、ちょっと興味があったものだから。毒じゃないはずだし……」


 さすがに、味見は変過ぎたようだ。

 他の人に言ったら怒られそう。セレナは怖い顔をしそうな気がする。

 領主様、なんでも口に入れるだなんて恐ろしいことをなさらないでください! と。


「ミカ、セレナには内緒にしておいてね?」


「はい、わかりました!」


 ミカが素直にうなずいてくれて良かった。


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