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26 湖の中から

 食事をしたら、また採取できそうな物を探す。

 とはいえ、午後はよく生えている薬草が見つかる程度だった。

 それでもあとで採取する時間はないので、今のうちに沢山とっておく。


 これはフレッドも知っている薬草だったので、手伝ってくれた。


「昔から、これを取っては隣町まで売りに行ってたんですよね。子供の仕事だったんですよ」


 交代して警戒にあたっているニルスがうなずく。


「町近くの草地で探しては、集めて乾燥させて、薬師さんが町へ行く時に売ってもらって、みんなで分けたんです。でも薬師のノギさんが亡くなってしまって、しばらく子供も薬草集めをしなくなっていますね」


「乾燥させた薬草は、まだあるのかしら?」


「みんなの家で保存しているんじゃないでしょうか。薬師さんが調合しなくても、そのままお茶にしたり、傷口に刷り込んで使える薬草ばかりだったんで」


 今の所、怪我はそういった民間療法でなんとかまかなえているようだ。

 ちょっとほっとする。

 薬草知識が一つもない村人というのは、そうそうないはずだけど、親から受け継がれない状況ができて、歯抜けになってしまっている村や町はあるらしいので。

 私が薬を作るまで、とんでもない病気が流行らなければ大丈夫そうで、ほっとした。


「それならよかった。薬師がいないと聞いて、心配していたから」


 話をしつつ、採取してまた馬を置いている場所へ戻る。

 それから少し湖を眺めて……気づいた。


「あら、もしかして」


 波打ち際の小さな石がごろごろと沢山ある場所へ行く。

 そこにあるのは、乾くと白く見える石が多い。

 でも水に浸る部分の石の中には、うすい緑色の物もある。

 拾って太陽の光にかざす。

 透けるような薄緑の石は、水晶のように綺麗だ。


「火山があるからもしかしてと思ったけど、あって良かった。ペリドットだわ」


 緑色をしているけど、火山によって地上に出て来る石なので、火の魔力を沢山含んでいる。

 その割に入手しやすい。

 錬金術には、宝石のように輝く物が必要なわけじゃないからだ。

 

「宝石ですか?」


 尋ねたテオドールに説明する。


「そう、ペリドットよ。これは色が薄いし宝石として使うのは難しいけど、錬金術にはとても使えるの」


「拾いましょうか?」


 フレッドが申し出てくれるので、頼むことにした。


「お願い。テオドールとニルスは周辺と馬を守っててね」


 沢山採取したので、万が一にも馬を失うのはつらい。

 だから二人には警護をお願いして、私はスカートの端を結ぶ。


「あの、領主様……」


「濡れたら風邪ひくじゃない。あと、ここは王都でも貴族の社交場でもないから。見逃して」


「……ご領主様の健康を優先いたします」


 テオドールはそう理由をつけて、引いてくれた。

 ありがたい。


 というわけで、私は日が少し傾いてくるまで、ずっと石を拾い続けていた。

 おかげで両手でぎゅっと抱えられる袋一杯に、ペリドットが集まる。

 特にフレッドが、大きな石を見つけてくれたので、とても沢山集まったのだ。


「良かった! これでしばらく大丈夫だわ」


 袋を抱きしめていると、今まで王都で調合できなかった品があれこれと思い浮かぶ。

 自然と「えっへっへっへ」と笑いが漏れた。


 テオドールがなんだか引き気味な表情で私を見ている気がする。

 けどかまうまい。

 調合。とにかく調合が私の命を、領地を救うのだ。

 材料は沢山あればあるほど、私は嬉しいのだ。


 そこへニルスが、ふっと何かを拾ってやってきた。


「領主様、これは何かに使えますか?」


「あ、翡翠かもしれない」


 緑色っぽい石を太陽に透かして見ると、どこか透明感もある。

 割って確認する必要はあるけど、たぶん間違いない。

 一応、魔力量を確認してみる。


 魔力に触れると光る石を、一度魔力がほとんどない石に触れさせてから、ニルスが見つけた石とくっつける。

 ふわっと青い光がともった。


「間違いなく、錬金術に使えると思うわ。持って帰りましょう」


 翡翠なら、こちらは水属性の魔力を持っているはずだ。

 ペリドットは火属性の物、翡翠の方は薬に使える。


「思った以上に沢山見つかって良かった」


 私はにこにこで、領主の館へと帰ったのだった。


 しかし館へ帰った後、テオドールがセレナにぽつりとこぼしている内容は、私は視ることはなかった。


「セレナ殿。錬金術は草や石を使うのですね……」


「そのようですが、どうしたのですか?」


「……実はその、子供が草むらに遊びに行って帰って来る時に、宝物だと言って持ってくる物に似ているような気がしてしまって。その、綺麗な石ですとか。珍しい草ですとか」


「でも、薬草と特定の鉱石ですし」


「そうですね……。ただ、貴婦人が草や石を拾って喜んでいる姿を、初めて見るものですから」


 セレナはその言葉で、テオドールの戸惑いに納得した。

 たしかに貴婦人は、うちの領主のように、宝石にならない品質の石を拾ったり、林の中を歩き回って草を集めたりはしないだろう。

 ましてや伯爵夫人だった方だ。

 家の中で刺繍をしたり、パーティーで他の貴族と談笑しているイメージを持っていたのだと思う。


「でも、錬金術でできた物を見たら、また印象が変わると思いますよ」


 セレナはそう言っておいた。

 少なくとも、森で遊ぶ子供みたいには思わなくなるはず。

 ただし、『薬師のような……』と戸惑うことになるだろうけど。

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