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22 今後の計画

 今ここに、相談できるリュシアンはいない。

 彼はまさにベルナード王国に侵略された国の状況や、ベルナード王国軍について探りに行っている。


(リュシアンは何かあれば、きっと連絡をくれると思うけど、それを待ってから考えて、大丈夫かな)


 不安になるのは、ハルスタットの町に戦力らしい戦力がないからだ。

 夢のことを参考に考えるなら、館のある城にこもって戦っている状況だったと思う。

 だけど兵士がほとんどいないから、農民が戦って殺されて、ミカやセレナも私の側で何かしら補助をしてくれていたんだと思う。

 それぐらいしかできないのが、今のハルスタット領の現状だ。


(でも、他の領地はどうだったんだろう。西の辺境伯だって、それなりの軍を持っているはずだったよね? 西の辺境伯では押し返せない軍勢だったの?)


 国境を他の国と接する領地を持つ辺境伯は、西と南だ。

 詳細なことは、弱小貴族の娘で、その後もお飾り伯爵夫人な私は手ほどきを受けたことがないのでわからない。

 前に英雄の伝記を読んだことがなかったら、もっと想像がつかなかったと思う。


 とにかく辺境伯領には軍がいて、ベルナード王国が万が一にも攻めて来たって戦ってくれるだろうけど。


(そして私は、一人で逃げればいいわけじゃない)


 もらってしまった領地。

 けれど受け取ると決めたのだから、私には領民への責任がある。

 全員を救えないかもしれないけど、より多くを救えるように努力する責任が。


「ところでカールさん」


「エッカート三世と呼べ」


 長すぎ。でもここで押し問答している場合ではない。


「カールさん、あの夢が実現するまで、時間はどれくらいあるんですか?」


 ここが一番重要なところだ。

 時間がどれくらいあるかで、かなり状況が変わるはず。


「前の土砂崩れは、ほんの数日でしたけれど……」


『くっ、呼び方も無視か、とんでもない小娘……。ふむ。まだあいまいな夢じゃったからな。近い出来事なら、周囲の状況などはっきりとわかるが、お前さん達が死ぬことぐらいしか見えなかった。だから……わしの感覚で言うと、三か月か、半年か』


 幅があるようだけど、数か月の猶予はあるみたいだ。

 カールさんが勘違いをしていなければ、だけど。


「最短で三か月……どうしよう」


 私は書き物机に向かう。

 適当な白紙に、インクをつけたペンで思いついたことを書いていく。


≪兵隊≫

 私が雇える数はそれほど多くない。

 それにこの小さな町でやたらと兵士を雇っても、もしベルナード王国軍が来なかったら……。


「もてあますし、お給料が厳しい」


 少しは兵士を増やしたいと思ったけど、それも十人とか二十人ぐらいでいいのだ。

 主に魔物や害獣対策のお仕事になるので。

 でも戦争というのなら、それではだめだ。


「籠城戦……領民に手伝ってもらうにしても、兵士として戦う人が数百はほしい」


 そこで考えるのが次のことだ。


≪傭兵≫


 正直、柄が悪いし軽微な犯罪も増えやすい。

 戦争から戦争へ渡り歩いて稼いでいるので、戦争がない間のことを考えて……略奪で金策をするという癖がついていると聞いた。

 でも一時的に雇いたいのなら、傭兵が最適。

 一方で、今から急いで雇う必要がある。

 戦乱が起こってからとなれば、引く手あまたで小さな町には来てくれないだろう。


「あ、でも待って。ハルスタットの町が襲われるなら、西の辺境伯が陥落した後でしょう? それなら、籠城した後もベルナード王国軍がすぐ隣にいるって状態に……。長期間にわたって兵士にいてもらう必要があるなら、普通に兵士を募集した方がいいかも?」


≪逃げる≫


「みんなを逃がすことはできるかもしれない。でも……どこへ?」


 逃げた先で、全員に仕事まで手配して、なんて虫のいいことは言えない。

 貴族としての力が弱すぎる私では、対価が払えないのだ。

 そしてこの世界で、各領地はみんな食べる物にとんでもない余剰があるわけではないし、買おうにも物がないことだって多い。

 そんな所に数百人で押し掛けても、結果として全員を飢え死にさせることになる。


「自分でどうにかできる、もしくは身を寄せる場所がある人は逃げるのもいいけど。道中で、思ったより先に進んでいたベルナード王国軍と会って殺される可能性も捨てきれないし……。本当にベルナード王国軍が来るとなった時に、みんなに選んでもらうしかないわね」


 どのみち私は、逃亡を選べない。

 そして戦うと決めた人々と一緒に立ち向かうしかない。



≪食料≫


 逃げられないのなら、ハルスタットの町が襲われても、籠城戦ぐらいしかできない。

 こもっている間に、他の貴族が倒してくれるなり、救援に来てくれるのを期待するのがハルスタットの町にできることだ。


 その時に一番に重要になるのは、食料だ。

 食べ物がなければ、攻撃を避けられても死神に連れて行かれてしまう。

 かといって短期間に他所の領地から買うのも限界がある。


「そもそも何日分あれば……。一か月? 二か月? 英雄の伝記で、三か月籠城したっていう領主がいたはずだし。ほぼ無力のハルスタットだと、救援まで最短で三か月待つのも覚悟しなくちゃ」


 本当はすぐに助けに来てほしい。

 でも、兵士の命もかかる。

 もしベルナード王国軍が多かった場合、戦えばかなりの損害が出る。

 リュシアンだって、友人の領地を救うために死ねと自軍の兵士には言えないだろう。


 だから、何かのついでに助けてもらう。

 もしくは、何か助けてもらえるような理由を作る。


「どっちもない……。まだ魔術師の寿命の解決策があればいいけど」


 つぶやいて暗い気分になったところで、はっと思う。


「錬金術で、何か作れないかな。色んな人に欲しいと思わせる物……後で本を見てみよう。あと、長期になってもどうにかできるように、城内で牛とか鳥の飼育と、作物栽培も考えておかないと……」


 錬金術でどうにか少しでも不足を補えないか、考えなければ。



≪薬師≫


 戦闘になれば、籠城してても怪我をする。

 そうでなくとも、日常生活で怪我することもあるので、薬師や薬は必要だ。


 でもここに来てくれる薬師が見つかったとしても、その間にベルナード王国軍が迫ってきたら、危なくて薬師がハルスタットの町まで来られなくなることも考えられる。


「薬だけなら……。というか、薬を作ろう。錬金術で」


 薬師の薬とは作り方が違うだけで、薬は作れるのだ。

 作るのに材料も時間もかかりやすい。

 でも頑張れば沢山作れるはず。


 ここまでで私は一端考えをまとめた。

 そして出した結論は……。


「よし、傭兵を探しつつ、リュシアンに兵士を紹介してくれないか頼んでみよう」


 兵士に関しては、専門知識がある人に頼む。

 がけ崩れの夢を見てから発生するまでの時間を考えると、さすがに数日でどうこうはならないと思うけど、私が勉強してから手配したら遅すぎるはず。


「そして薬師の手配はギベルに頼んだから、薬のことをなんとかする。良い薬が作れたら、引き換えに食料の購入もできる。合間に貴族が欲しそうな物が作れたら、救援要請を受けてくれる領地も多くなるよね、うん」


 決まると、少し心が落ち着いた。

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