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21 目覚めたので計画を立案しよう

 起きてから、まず私は自分の頬を叩いた。

 

「……痛い。正気よね?」


 ちゃんと起きてる。

 そして、さっきまで見てたのは夢だろうと思った。

 

 以前見た夢より、なんだかふわっとした気分だ。

 空気や風を感じなくて、現実感がなかったせいかもしれない。

 

 しかも最後には、よくわからない老人が出てきて、老人の死後の能力のおかげで未来を見せることができたとか言っていた。


「なんだっけ、カール・なんちゃら・エッカート三世?」


『カール・フォン・エッカート三世じゃ!』


 突然応じる声が聞こえて、私は飛び起きた。

 周囲を見回すけど、あの白髪白髭の老人の姿はない。


「記憶が、そんな幻聴を起こしたのかな」


 ほーっと息をつこうとしたところで、部屋にある飾り棚の引き出しがガタガタと鳴る。

 そこは鍵がかかる引き出しで、大事な物をしまっていたけど……。


「え、ほんとに?」


 私はまさかと思いつつ、別の場所に置いていた鍵を取り出し、引き出しを開ける。

 そこにあったのは、魔術師石で……。


『名前ぐらい覚えんか! 小娘!』


 引き出しを閉めた。

 静かになる。けどガタガタとうるさいのはそのままだ。


「夢じゃなかったみたいだけど、さて、話し合いでどうにかなるかな」


 とにかくこのままでは、メイドが来た時に問題が起きる。

 悲鳴を上げられたら、どう誤魔化したらいいものか。

 それに魔術師石がこんなに騒いでいたら、研究できない。


「そうだ」


 ふと思いついたので、もう一度引き出しを開ける。


『改心したか小娘!』


「名前を間違えたのは謝りますが、その長い名前を一回だけで覚えろというのは傲慢でしょう。あまり騒ぐと石を試薬に漬けますよ」


 ――ぴたっと石がガタガタ跳ねるのを止めた。


 ふぅ、これで静かになった。よかったよかった。


『お、恐ろしい娘じゃ……』


「むしろ石から声が聞こえるとか、石が勝手に飛び跳ねるとか、魔物の類だと思われて、私以外の人が遭遇してたら破壊されてる気がするんですが?」


 石がそんな挙動をするなんて、魔物以外ありえないじゃない?

 討伐すると言われても、私も拒否しきれないかもしれない。

 リュシアンだって、人の心臓が結晶化したものだとしても、まさかこんな生きのいい石だとは思ってなかっただろうし。


『……討伐は、困る……。わしは魔術の神髄を解き明かすために、石に自らの魂を閉じ込めたのだからして……』


「長生きしたかったら、静かにしてください。見つかったら大問題ですよ」


『ぐぬぅ……仕方あるまい』


 納得したようだ。

 これで安心して会話ができるだろう。


(この存在には興味があったといえばあったもの)


 魔術師石に魂を封じる?

 そんな魔術があったのかとびっくりしたし、魔力的にはどういう理論でそんなことになったのかも興味深い。

 たぶん、錬金術にもその理論が応用できそうな気がするし。


(夜中に目覚めた時は、眠くてそれを追求する気力もなかったけど、今はしっかり目が覚めたものね)


「それで、未来を見るってどんな風に? 私に知らせたのはなぜです?」


 とにかく疑問をぶつけてみる。


『未来はこう、ふぅっとそのイメージが下りてくるんじゃ。魔術師石の中で、魂という存在になっても、休眠することはあっての。その時なんだがな』


「ほー。幽霊も眠るんですか。これは興味深い」


 眠るというか、少々思考が停止するとかそんな感じなのかもしれないが。

 考えてみれば、不思議生物の魔物も眠るので、幽霊だってそうあってもおかしくはないか。


『お前さんに知らせたのは、さすがに土砂崩れや戦乱に巻き込まれては、わしの入った魔術師石が無事かどうかわからんからじゃ』


 わりと個人的な動機だったらしい。

 いや、彼には切実だろうけど。

 副次的に私を救ってはくれたので、まぁ、魔術師石を所持している間、危機的状況は先に教えてもらえそうだなと、私は計算する。


「それにしても、未来が本当に見えるなんて……」


 なんとなく頬をつねってみる。

 痛い。

 痛覚がある夢ではないかぎり、私はちゃんと起きて、しゃべる魔術師石と会話しているのだ。

 だから聞いたことを信じるしかない。


 それに今までだったら疑ってしまっていただろう。もしかして、色々な人からベルナード王国の侵略について聞いたせいじゃないか? と思って、二度寝を決め込んだかもしれない。


 でも、一度がけ崩れの夢を見てしまった。

 避けられたけれど、そのままだったら夢が実現しそうな状況になるような物を。


「……さてどうするかな」


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