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19 とんでもない悪夢

 ――久しぶりの夢は、酷い物だった。


 「セレナ!」

  目の前で倒れているのはセレナだ。

  壊れた城郭の内側なのに、なぜか壁が壊されている。

  そのがれきに、セレナが埋もれていた。


  顔は眠るように綺麗なのに、その額からは血が流れて、呼びかけても目を開けることはない。

  けれどその腕が、足が、セレナから妙に離れた位置のがれきの間からのぞいているのはなぜ?

  

  ぼんやりと疑問を思い浮かべる私に、誰かが言った気がした。


 ――早く、上へ行くんじゃ。


  見知らぬ声に突き動かされるように、私はどこかへ走っていく。

  やがて私は城郭の屋上へ出ていた。


  屋上は、矢間がある通路になっている。

  そこにぽつぽつと、人が倒れていた。


  彼らの服装は、どう考えても兵士なんかじゃない。

  茶色や藁色のチュニックを来た農民のような服装をしているのに、側には弓が落ちている。


 「領主様、逃げて!」


  そこへミカが走って来た。

  彼女の方を向いたその瞬間、彼女は巨大な火の矢に吹き飛ばされて視界から消えた。


「ミカ!」


  ミカは城郭の下へ落ちていく。

  彼女が落ちた周囲には、すでに倒れて焼け焦げた女性や男性達の姿もあった。


 「一体何が……?」


  そこでまた声がする。


 ――早く、敵を見るんじゃ。


  私はミカが落ちたのとは反対、城郭の外側を見た。

  そこに広がるのは、無数の人の姿。

  陽光にきらめくのは、鎧の群れ?


  その中に掲げられた沢山の旗。

  中でも中央の大きな旗に描かれた紋章は……。


 「半分の太陽に突き刺さる三つの剣……ベルナード王国」


  なぜここに、と考えて呆然としていると、さっきからの見知らぬ声がうるさくなった。


  町まで来るぞ、大変じゃろ! 何かせねばならんな!

  ほれほれ何か考えるんじゃ!

  そのままでは死ぬぞ! 死ぬ……ぐふっ。


 横で誰かがうるさく騒いでいる思わず……無理やり起きようと腕を振り回したら、何かを殴る感触がした。


「?????」


 ※※※


 目を開く。

 部屋の中はまだうす暗い。もしかすると、夜明けの直前ぐらいかもしれない。

 

 私はぼんやりとした頭でそれを確認し、目の前の物を見て、視線を外してため息をつく。


「幻覚が見えるようになったみたい……旅で疲れたのかな」


 旅を続けて到着後、すぐに錬金術で触媒を作ったり、町を視察に行ったりと、一日も休んでいないような感じではある。

 正直まだ眠気がすごい。


「きっともっと眠った方がいいのね。だから髭のおじいさんの夢なんて見るのよ。おやすみなさ……」


「まてまてまて! そこまで見えてたら普通は誰かと尋ねるであろうが!」


 カーッ! と謎の異音を発しつつ抗議してくる存在があった。

 さっきから私が視界に入れないようにしていたものだ。


 その人は、姿が半透明で向こう側にある部屋の扉がちょっと透けて見えている。

 長くて足先しか見えないテントのようなローブを着ていた。

 色はわからない。

 全体が薄青い半透明の姿だから。


 彼は短い髭のおじいさんだ。

 顎が四角くて、体格もがっちりしてそう。

 その顎を、なぜか撫でている。


「ふん、さすが錬金術師。魔術師ではなくとも、手に魔力を込めることはできるようだ。なかなかいいこぶしじゃった」


 さっきの私の手、顎に当たったらしい。

 ていうかこの幽霊? みたいなおじいさん、殴れてしまうの?

 

 疑問が湧いたので、おじいさんに話しかけてしまう。


「それで……おじいさんは、誰?」


 まずは名前を尋ねる。これで名乗れない相手なら、たとえ人でも円滑な意思疎通は難しいので、これを確認しておこうと思ったのだけど。

 幽霊のおじいさんは「よくぞ聞いてくれた!」と嬉しそうな顔になる。


「わしはカール・フォン・エッカート三世! 偉大なる魔術師だ!」


 魔術師の幽霊か。

 偉大なるとか言っても私、わからないなぁ。


「ちなみに何年前の?」


 幽霊だから昔の人だろうと軽い気持ちで聞いてみる。


「月紀560年ごろ死去じゃ」


「300年前の人なんだ。壮大な夢になってきたなぁ」


 実の所、これが現実なんて思っていなかった。

 きっとまだ夢から覚めていないんだろう。

 するとおじいさんの幽霊がプリプリ怒り出す。


「わしはその当時最高の魔術師じゃったのだ! 小国の王になる手前で、戦場で死することになるなど……口惜しい」


 死亡理由もきちんと語ってくれるなんて、本でもあまり見かけないタイプの幽霊のようだ。


「その偉大な魔術師がどうして私の夢に出てきてるんです?」


「ふん、教えてやろう。わしは死を悟った時、弟子に心臓だけは渡してはいけないと言い、商売人に扮した弟子とともに亡命して、流れ流れてこのアルストリア王国へやってきた。弟子はしばらく商人として潜伏……」


「眠いんで、はしょってもらえます?」


 ここまでの長い経緯を語られそうになったので、私は止めた。


「とんでもない娘じゃ!」


 ぷりぷり怒りつつも、カールおじいさんは要望を聞いてくれた。


「わしの心臓石……今は魔術師石と呼ばれておるんじゃったか? それにわしは自分の魂を閉じ込めることに成功した。それをお前が手に入れたので、お前に色々わしが夢で教えてやった」


「ほほー? 夢で、ええと、領地が攻撃されることを?」


「がけ崩れで死にそうなことも教えてやったのぅ。死ぬと、未来が時々見えるのでな」


「死ぬと未来が見える……」


 不思議なことを言う幽霊だ、と思う。

 でも、人ではなくなったのだから、そういう不思議な現象も発生するのかもしれない。


「それなら、もっと細部について知りたいんですけど。いつこの領地に攻撃があるのかとか。ベルナード王国軍が何日に西の辺境伯領を襲撃するのかとか」


「あ、それは無理じゃな」


「無理?」


「わしも、望んだものを望んだように見られるわけじゃないのじゃ」


 どうも死後の未来視も、好き勝手に使える能力ではないらしい。

 ままならないものである。

 でもこれ以上の情報がないのなら、今やることは一つだ。


「じゃあいいです。それならもう寝直しますので」


 私はとりあえず、もう一度眠ることにした。


「おいっ、寝るな! 話にはまだ続きがあるんじゃ!」


「錬金術をするには睡眠が重要。睡眠不足は思考力が劣化します。だから必ず眠るよう、師匠に教えられていて、今、私、眠いのです……ぐぅ」


「くそっ、本当に眠りおった!」


 悔し気な叫びが聞こえたけど、睡眠の方が優先なので。

 師匠が本当に口をすっぱくして言っていたんだから。


「睡眠じゃ。眠らなければ命をも縮め、調合なんぞできなくなる。わしがこの年齢まで錬金術師を続けられたのも、何を置いても睡眠と食事を大事にしたからだ」


 ってね。


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― 新着の感想 ―
やべぇ! この主人公、めっちゃ長生きしそう!良き!
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