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16 領主のお仕事に関する計画

 ギベルは「そうだとすると……」と続ける。


「やはり私めは領主館に引っ越した方がよろしいですかな。城の領主館だと維持が大変ですので、私と使用人だけが暮らすならば面倒でもあったので、町におりましたが」


 代官のような家令業をすることには納得してくれたようだ。


「そうですね。館の維持管理は王都から連れて来た執事がいますから、ギベルに負担になることはないと思いますよ」


「私の使用人も連れてきてもよろしいですかな?」


「もちろんです。この館の方にギベルは住んでいただければと思いますし、まだ使用人部屋が空いていますから、ギベルの使用人もそちらにどうぞ。執事の管理下には入っていただくので、領主館の使用人ということで雇用契約を結びましょう」


「ありがとうございます」


 ギベルの使用人を領主館の使用人にしてしまえば、個人の支出をしなくてもよくなるのだ。領地運営を任せてしまう代わりの、ギベルへの配慮だ。

 頭のいい人だから、ギベルはそれをすぐに理解してくれた。

 しかし、ギベルが付け加える。


「ですが領主様、グレイ伯爵様からは最終決裁だけは必ず領主様にさせるように、というお達しがございまして」


「うわ……。それも連絡が来てたのね」


 ごまかせないかと思っていたが、無理だったようだ。


「その……。私ね、天才じゃないのよ」


 私は弁解するように、ギベルに説明する。


「だから錬金術に没頭してたり、そちらにかかりきりになっていると、上手く決裁できる自信がないのよね。頭がいっぱいになって、間違ってしまうだろうし。領主としての町の知識を増やしながら、錬金術のこともするのは、私には無理だと思うの」


 そう、私はなんでも上手くできてしまう人じゃない。

 手をつけるとぱっとなんでもできるわけではないから、錬金術だって試行錯誤だ。

 そこで頭を悩ませている時に、領地のことを上手く差配できずに、みんなに被害が出るのは嫌なのだ。

 だから提案する。


「たぶん領地のことを把握できるようになったら、最終決裁も全部できるようになると思うわ。だから沢山のお金が動くこと以外は、領地を歩き回ってみてからにしたいのだけど、どうかしら?」


「歩き回るご予定で?」


 ギベルの問いにうなずく。


「錬金術の素材を探すついでに、まずは領地内をくまなく探索するつもりなの」


 ハルスタット領そのものは、山間の人が少ない土地だ。

 特に目立った鉱山もなく、ただ火山の恩恵は多少あるか、というのが他の領地との違いだろう。


 避暑や景色を楽しみに行くなら他に沢山交通の便がいい場所は沢山あるし、秘湯をわざわざ探す余裕のある人間といえば貴族ぐらいだが、彼らは他に特産もないハルシュタットには来ないだろう。

 なので他所からくる人といえば、行商人や通過していく旅人ぐらいだ。


 でも、錬金術の素材を集めるのにとてもいい土地だったりする。

 山間の土地だけどそれなりの平原があり、山に続く森もある……薬草系の素材が見つかりやすい。

 湖もあって、そこにも水性系素材がある。

 何より火山。これが近くにあると、火性素材が色々取れるのだ。


 鉱山跡地もあるようだし、そこでも何か見つかるかもしれない。

 実際の産業には役に立たない物でも、錬金術には使えることがあるから。


 ……ということを怒涛の勢いで説明した。


「あと長い目で見てもらえれば、錬金術で何か困りごとを解決できるようになるかもしれないし! だからしばらくは、ギベルに全面的にお願いします!」


「りょ、領主様の熱意は理解いたしました。はい。それでしたらまずは視察を主にしていただいて、その後で、視察箇所のあたりを対象とした決裁を学んでいただく感じでいかがですかな?」


「それで結構です!」


 というわけで、私の領主としての仕事の進め方が決定した。


「それで、今は問題があったりするんですか?」


 重要なことがあれば、錬金術に手を付ける前に解決しておきたい。


「畑の方は例年通りですが、先日まで長雨がありましたので、水が多すぎるかもしれないという不安はございます。ですがこれから長雨が来なければ大丈夫だろうとも、農民は言っておりました」


 長雨とは、先日のがけ崩れを起こしたあれだろう。

 ハルスタットにも影響があったようだ。


「畑以外の場所はどうですか?」


「まだそこまでは。雨が上がったばかりですので」


「なるほど。これから派遣……」


「いえ、人手がおりませんで。狩人や木こりなどが入らないと山の様子はわかりませんし、畑の雨の後の確認が終わったら、そちらから何人か出す感じになります」


 人手が足りないのもそれはそう、としか言いようがない。

 比較的魔物の出没が少なく、穏やかな町らしいので。

 また、町とは呼んでいるが、ハルスタットの規模は大きな村ぐらいのものなのだ。

 沢山の兵士がいるわけではない。

 私が連れて来た分も含めて領主館には三十人いるけれど、ほとんど魔物対策のためなのだ。


(でも、確認作業はあってもいいわよね。魔物警戒期間、みたいな感じで年に何回か出るらしいし)


 あとは、どうせなら自分も見に行こうと思う。

 最初に城の側にある森から素材探しに行こうと思っていたので、その時二人か三人の兵士を連れて行って、ついでに確認作業もしてもらえばいいのだ。


 その計画を話すと、ギベルが感心したように言った。


「領主様はお姿から想像するよりも、ずっと活動的なお方なんですなぁ」


 その後、ギベルの部屋を決めることにした。

 足腰の関係で、一階の客間の一つをギベルの物にした。

 館そのものはけっこう大きくて、部屋数もかなり沢山ある。

 部屋の種類を問わずに合計だけを数えるなら、五十ぐらいになるだろうか。

 昨日からメイドを増員しようと思っていたぐらいだ。


「そういえばギベル、メイドや従僕を増やそうと思っているのだけど。館の掃除だけでも、今の六人ではちょっと大変そうだし。貴族がやって来た時も部屋が整っていないと困ると思うの」


 今の所、訪問しそうなのはリュシアンだけだが。

 彼だけが来るとしても、毎回兵士だけを連れて、迅速な行動をするわけではない。

 従者やらを連れて来たら大人数になるので、六人では対応できないだろう。


「そうですな。いっそ城の内郭側の部屋に手を入れて、そちらを使用人部屋にしたらどうですかな。客室も、ホコリ除けをかけておけば、季節ごとの掃除で急な来客にも対応できますからな」


「うーん。城の中だと、冬に寒くないかが心配なんですよ」


「一度そちらに部屋を移して、それから館を増築した後で戻らせてはいかがですかな?」


「では、そのように手配お願いします」


「承知いたしました」


 ギベルはうなずいた。

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